第176話 フォックステイル 『鬼の祠店』
レンターと一通りの打ち合わせを終えて、レオン率いるマウントホーク辺境伯軍親衛隊を回収に来たダンジョン『鬼の祠』は、数ヵ月前までとはうって変わってダンジョン前に幾つかの小屋が立てられ、盛況な賑わいをみせていた。
その中心となっているのが、ウチの配下が出している雑貨屋『フォックステイル』だった。
ミーティア本店とは違い、ここはダンジョンから出てきたものに言い値を付けて売りに出すだけの店舗だが、その売り上げは1日金貨50枚ほどになっているらしい。
レオン達を回収しに来たついでに顔を出した俺は、ここを狙うバカな貴族の話を聞くのだった。
要約すると、
「マカレール男爵がこの店の売り上げから上納金を王宮に納めろと言ってきたのだな?」
「はい。自分が持っていくからと…」
聞いた内容をまとめると店長を任せている春海が同意する。
獣人の振りをしているせいで、口からでまかせで金を騙し取れると思ったのだろうか?
マカレールと言えば、元々子爵位にいたにも関わらず不祥事が続いて降爵させられた連中だが、本当に懲りないな。
「それじゃあ、春海。
適当に若いのを見繕って王宮に手紙を届けろ」
「たまわりました」
正直、金銭的に困窮していている連中に決闘を仕掛ける時間と労力が勿体ない。
それよりも王宮に煽動している事実を報告して、潰してもらった方が早いだろう。
そう思って指示を出して、レオン達を回収しに行ったのだが。
戻ってきたら拗れていた。
「やっと戻ってきてくれましたね」
レオン達を回収してきた俺を待っていたのは、内政部のレギン伯爵の疲れた一言であった。
「レギン卿、お久しぶりです」
「こちらこそ。
ご無沙汰していますマウントホーク卿」
東部を担当しているからっと俺達の騒ぎにも巻き込まれる悲惨な伯爵に同情しながら用件を尋ねれば、
「今回のマウントホーク辺境伯家とマカレール男爵家の決闘の立ち会い人としてやってきました」
と応えたのだった。
開けた場所で聞き耳が立てれないように周囲に軍人を配置したレギン伯爵が説明を続ける。
曰く、
「マカレール男爵の行いは王宮の名を騙っての詐称行為ですから本来なら一族郎党の皆殺しですが、王宮としては殺したくない人物がいます。
それはボーク侯爵家の分家筋から嫁いできた男爵夫人です」
と。
この時点で話が見えてきたが、念のために続きを促せば、
「結果的にですが、王国側として戦っているボーク侯爵家の縁者を罪人の連座で処刑するのは、不味いんですよ。
彼らの大義名分が揺らげば、南部の混乱に拍車が掛かります。
かといって、男爵夫人を除外は出来ません」
「確かに…」
恩を仇で返すと言う行いは周囲の信頼を一気に損なう。
しかもボーク侯爵家が私欲から南部諸侯に反発していると言う噂が流されれば大事だ。
現状は完全な別件ではあるが、皆がそう捉えるとは限らないので王宮としては危ない橋を渡りたくない。
かといって、男爵夫人を見逃すのは罪人に対する不公平感を生むわけで…。
「それで決闘な訳ですね?」
「ええ。
マウントホーク卿が自家へ攻撃を仕掛けてきたマカレール男爵と決闘をして、その結果マカレール男爵家は改易します。
貴族籍を外れた分家の娘が野党に襲われても不思議ではないので…」
「政情不安な南部を通るのであれば当然ですね」
「ええ」
王宮としてはアホな横紙破りをしたマカレール男爵家を許す気はない訳だ。
当主以下男子の処刑と女性達の暗殺による粛清をしたいが、それを自分達が主導出来ないのでマウントホーク家が動くと。
当然粛清の証拠は残らないから糾弾は出来ず、かといってただの噂だと高を括るには怖い状況を作るわけか。
「ちなみに決闘状だけ用意してもらえば、代理人等々はこっちで用意しますので…」
つまりこっちで主導したと言う証拠がほしいだけなのね。
まあその方が楽だけど……。
こうして、コウモリのように王宮の影を飛び回っていたマカレール家は長い歴史に終止符を打つことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます