第167話 南部連合軍

『調子に乗っている成り上がり者に天誅を!』


 と言う声を合言葉に南部諸侯が連合を組んで宣戦布告をしてきた。

 どうやらケトーネ村に砦を築かれては不利だと考えたらしい。

 しかし、


「……正気でしょうか?」

「……連中なりに正気のつもりじゃないか?」


 宣戦布告を記した書状をみせられたベストリアの言葉が全てを物語っている。

 砦を攻略するのは戦力にして3倍差がいるとは昔からよく言うし、築く前に叩きたいと言うのも分かる。

 しかし、大義名分もない軍事行動はとても危険だ。

 これを許せば、ファーラシア王国内ではいちゃもん付けて紛争を起こしたい放題になる。

 それでは国家が成り立たない。


「これを王家に送っておいてくれ」

「はい。

 念のために精鋭を付けて輸送します」

「頼む。

 書状を奪おうと企むかもしれない」

「…その程度の判断が出来れば良いですけどね」

「そうだな。

 これまでも同じようなことをしていて、それを王家が見逃していたとか、国の運営を疑わないといけなくなる…」


 小さい貴族が犠牲になるだけで、厄介な南部の貴族達を黙らせられるならそれでいいとか考えていたなら、大問題だ。

 …前国王の頼りなさからないと言い切れない恐怖がある。

 そういう扱いで増長していたなら、大改革が必要になるな。

 数十の家が改易の憂き目をみるだろうが、問題はその後釜。


「……マウントホーク公国。

 洒落にならないな。

 南部は分割して勲功順で爵位とか?

 嫌だよな……」

「私は絶対に嫌ですよ!」


 冗談交じりで話せば、即座に否定される。

 …当たり前か。


「公国化かな?」

「……頑張ってください。

 及ばずながら誠心誠意お仕えする所存です」


 今回の紛争自体は後々王国軍の援軍が来るから、砦に籠るだけの楽なものになる。

 時々竜化して、包囲軍を削っていくだけの『作業』だし。

 しかし、こんなアホな所業をやらかした南部閥は大粛清が必要で…。

 その時に役が回ってくる可能性が著しく高いのがマウントホーク辺境伯家だ。

 長年、古参の貴族に支配されてきた領地を上書きするには圧倒的な強者による支配力と低めの税制優遇等の飴と鞭がいるだろう。

 その時に便利なのが税収に頼らなくても、ダンジョンで得た金で領地を運営出来る能力があり、強力な竜化能力があり、グリフォンまで支配している俺。

 もちろん、王国軍や宮中に南部貴族の縁者があり、その者が南部貴族家を継いでくれるのが一番楽だが…。

 その場合は東部からの援助は出来ないので、困窮を極めることになるだろう。

 何せ、いちゃもんを付けたのはその家の当主なので、家を継ぐ以上はその罰も引き継ぐことになる。


「家を継ぐってのはその家の負債も引き継ぐってことだものな…」

「加えて南部を閣下が支配しますとレッドサンド王国やゼイム王国との交易が活性化しますので、王家はゴリ押しの可能性もあり得ます」

「何でこんなバカなことをしたんだ?」

「ラガート伯の弔いであればあくまでマウントホーク対南部貴族連合だったんですがね?」


 無茶苦茶な構図に見えるが外野は文句を言えない。

 どれだけウチが早く水晶街道整備に復帰して欲しいと願っていても、ウチが辺境伯家で国内貴族との争いである以上は手助け出来ない。

 南部貴族達はその構図を自分から壊しに行ったわけだ。


「ああ。

 こんな恐喝してきたら、親マウントホーク勢対南部貴族連合になる。

 ファーラシア、マーキル、ジンバットの王国3つ分の戦力だぞ?」

「5つですよ?」

「うん?」

「レッドサンド王国とゼイム王国が加わりますので」

「……」


 ベストリアの説明に沈黙で答えた。

 そっちとの利権を考えるとウチが南部を運営する必要性が高まるじゃないか。


「マジで連中何を考えていたんだ?」

「王家の筋書きでしょうか?」


 疑いたくなる気持ちも分かるが、コスト計算が出来ないはずもないので否定する。


「幾らなんでもそれはないだろう。

 官僚連中としては、東部の安定に全ての力を集中して欲しいはずだ。

 東部よりハイリスクローリターンな南部まで関わらせたくないはずだぞ?」

「…不思議ですね?」

「…不思議だな?」


 主従で首をかしげていた疑問は翌日のラガート伯爵家からの手紙で氷解するのだった。

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