第160話 奇襲戦
ドラグネア城を出立した俺達は翌々日にロウンに到着した。
そこでは早馬で連絡を受けたロウンの村長が食糧を用意していた。
それをマジックバッグに詰め込んでから南下を開始したのは、ベストリアの報告から3日後の夕方に差し掛かった時間だった。
本来ならロウンで1泊してから向かうべきではあるが、この手の占拠状況は少しでも早い解放が必要と言うことでそのまま進んだのだが、…それが失敗となる。
アミック近郊に着く頃には夜の闇が周囲を覆う。
馬が足を取られる危険性から、止まって野営準備を指示し、翌朝に改めてアミックに向かう方針に切り替えた。
石に引っ掛かって貴重な馬を失うことになったら、シュールに何を言われるか分かったものじゃない。
手早く動けるように間道脇の木々を背に休息に入ることになる。
…元々が貴族のボンボンとは思えないほどの手際の良さだった。
そもそも夜陰に紛れて、アミックに潜入はできない。
宣戦布告等の告知がないので我々はアミック占拠が誰のどういう思惑かが分かっていないのだ。
他の領の貴族なのか? それとも山賊なのか? ケトーネと連動しているのか或いは偶然の可能性もゼロでもない。かように前提条件が重要。
よって夜襲や朝駆けのような奇襲は仕掛けられない。
緊張の緩む時間帯に攻めれれば楽なのだが。
…人質を取られる可能性を考えれば、奇襲の方が良いし。
「日が上ったのを確認したらゆっくりと進軍してアミック村を占拠者した賊との交渉に入る。
総員、交代で休息を取り鋭気を養え!」
「「「はっ!」」」
副官として従軍するベストリアが指示を出して、野営の設営を始めた。
マジックバッグから取り出した食糧を簡易テーブルの上に準備しておく。
もちろん、俺自身もパンをかじって木にもたれる。
「閣下!」
「んあ?
どうした?」
ベストリアの呼び声で目を覚ます。
いつの間にか寝ていたらしい。
「喧騒が…」
「喧騒?
……確かに」
耳をすませばガヤガヤと言う音が聞こえる。
金属音が混ざっているので、魔物や平民の集団ではない。
敵集団の奇襲と思われる。
「戦闘用意は?」
「既に…」
まさかの俺が一番無警戒でした。
コイツらもしかして、鑑定……やっぱり。
ざっと見て全員にスキル『危険感知』が備わっている。
しかも5から10と結構高い。
「さすがは優秀な我が軍と言うべきか…」
恥ずかしい自分の失態を隠すために称賛するが、
「魔狼相手の夜戦警戒で修練しましたからね」
俺の称賛にげっそりと返すベストリア。
周辺の兵も嫌な顔で暗い雰囲気を出す。
コイツらは平原解放戦に参戦しているので、殆ど歴戦の勇士と言って良いほどの濃厚な実戦経験者だが、本人達には決して良い思い出ではないらしいな。
このスキルレベルを見るに結構ヤバかったとも思われるしな。
それでもテキパキと弓矢を用意して街道に横列を組み、片膝立ちで待機する。
「……来たか」
「弓構え! って!」
「はぁ?!」
俺の呟きとほぼ同時にベストリアの号令の元に矢が放たれる。
ヒュンヒュンと音を立てて飛翔する矢を見ながら、思わず疑問符が口を突く。
「どうされました?」
「いや、いきなり射ったら不味いだろう?!」
「いえ、明らかに害意を持って近付いて来ていましたので問題ありません。
宵闇の中での斉射では全滅はないでしょうから、生き残りから情報も聞けます」
「……」
いつの間にか、ウチの従士達が戦場帰りの傭兵じみた物騒な思考回路になっていた。
「抜剣! 散開!
生き残りに注意して拘束しろ!」
「「「おう!」」」
「…俺来る必要あったかな?」
ベストリアの指示で速やかに動く従士達を眺め、そんな複雑な思いを抱きながら、様子を見ていたのだった。
まあ、アミックやケトーネの村長に顔合わせはしたいし、それに一応金属鎧を着ている連中相手なので、矢での損害は軽微の筈だ。
ヒーラーとしての出番はあるだろう。
治癒薬の用意も進める。
後は魔術師の警戒もあるな。
鎧なんて着てないだろうから、致命傷を負っているとも思うが。
こうして、奇襲しようとした集団を返り討ちにして捕虜から情報を聞き出すことに成功するのだった。
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