第150話 フォックレストにて
旧貴族領を回る馬車の旅も終わり、フォックレストに着いた俺達は豊姫と彼女の息子だと言う赤子に迎えられた。
生まれながらにかなりの力を有する竜霊狐の赤子。
俺が辺境伯になったくらいの時期に霊力が胎内に集まって生まれた子らしい。
俺の竜気を被曝して、安定した竜気を持つ子となった。
歳を経た霊狐は、自然界の霊力を自分の身体に溜めて、子供にすることが出来るらしいので、豊姫の妊娠も不思議ではないらしい。
そもそも霊力ってステータスにないだろうと思ったら、死んだ時に放射される魔力が自然界で安定したものを霊力と言うのだと教わる。
精霊獣達はその地の力の流れを正しいサイクルに回すのが役割でもあると。
豊姫に曰く、動物→精霊(精霊獣含む)→植物と言うのが正しい魂の円環であり、そこから逸脱する負のサイクルがアンデッド達だと言う。
街や村では精霊の代わりに信仰が魂の円環を保持する仕組みであるが、それは魂が信仰によって同調集合体(俗物的な言い方をすれば神)へと同化し、後々、受精卵に受肉して赤子として生まれ変わってくる仕組みであるがゆえに、時折、個性の強い魂がアンデッド化することがある。
それらに対して、魔物の領域では常時発生しては魔物によって霧散させられる。
それ故にちょっとした刺激で高位のアンデッドが生まれやすいらしい。
だからこそ魔物の領域の解放と浄化はセットであると習う。
「それじゃあ、『狼王の平原』もヤバイんじゃないか!
急いで鎮魂をしないと!」
「いえ、その霊力は主様が取り込まれていましたよね?
それは我々では到底叶わない速度で安定して…。
そういえば、主様の中からあの霊力が消えていますが?」
キョトンとしている豊姫の言葉に、思い当たる節があった。
レナの核となった魂はそこから来ているのだと。
「……先日、マーマ湖の水を大量に飲んだら真竜が1体生まれた」
「それはおめでとうございます?
…しかし、狼達が長く支配していたとはいえ、真竜が生まれるほどの霊力が淀んでいたなんて。
どちらにしろ、近い将来強力なアンデッドが生まれ、王国に災害をもたらしていたでしょうね…」
「何?!
聞き捨てならんぞ!」
主従の会話に遠慮していた公爵が割って入る。
「どうしました?」
「卿も噂を聞いているだろう?
南部に強力なアンデッドが出ているのを!」
「もしかして!」
「それは王都で生まれた奴が移動しただけですよ?」
「…分かるのか?」
ジューナス公爵の言葉で南部のアンデッドであり、ロッド翁を殺した仇である奴に思い至るが、豊姫があっさりと否定する。
「…分かるのか?」
「はい。あれほどの強力なアンデッドであれば気配を追うことも可能です。
あれはラーセンの中心付近で急に発生したアンデッドですね。
今は南部の街インバルの近郊に潜んでいます」
「ぬうぅぅ…」
豊姫の説明に公爵が苦虫を噛み潰したような表情になる。
「どうしたんです?」
「それはバイエル伯爵領の街。
つまり、ロッド卿を殺したアンデッドは未だに付近に留まっているにも討伐が成功していないと言うことだ!」
「バレたら国の威信が傷付きますね…」
「全くだ。
何故その情報を教えてくれなかった!」
「? 訊かれませんでしたが?」
「……」
首を傾げる豊姫に毒気を抜かれた公爵。
「しかし、何故そんな街の近くにいて誰も気付いていないんでしょうね?」
「…被害がないのだ。
奴の被害はボーク侯爵軍が襲われて以降は報告されていない」
「…何らかの目的のあるアンデッドと言う可能性がありますね」
「うむ。
居場所が分かったところで退治も出来んがな……」
「騎士数十を返り討ちにしてますからね…」
「……」
俺が行くと言うのを期待した目でみてくるのだが、正直無理言うなと言いたい。
ただでさえ領地開発でてんてこ舞なのに、何故実害のないアンデッド退治に赴いて、南部の貴族を挑発せねばならない。
「……一応、インバル近郊に潜んでいると言う情報を流そう。
冒険者が退治してくれるかもしれん」
「5年後にも退治されていなければ出向きますよ?
一応、恩人の仇ですし」
「それなら直ぐにでも…」
「足元」
希望的観測の公爵を宥めるために口約束をすると、公爵が言い募ろうとするので、現状を示す。
さすがに東部開発の利権がほしい貴族全てを敵に回すのは避けたいらしく、ため息で返される。
「あいにくと熱血主人公じゃないので」
「そうだな」
「主様、この子にも名をいただけますか?」
公爵の納得した空気を感じた豊姫が、自らの子を差し出す。
それはもちろんやぶさかでもない。
……候補は2つ。
『政木』と『晴明』だな。
豊受姫の子供は覚えがないし、他の伝承からだ。
『政木』は南総里美八犬伝に出てくる竜の属性を持つ狐。
『晴明』は『葛の葉』と言う狐の子として生まれた伝承を持つ安倍晴明。
陰陽師は龍脈に関わるし、これも捨てがたい。
…さてどうするか?
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