第149話 フォックレストへ向かう道中
4つの貴族家を順に回った結果。不正経理をしている経理担当者が2名と重税を掛けていた貴族家が1つと言う結果になった。
不正経理は実行していた者を討ち、その私財から返金させて半分をその貴族家に回す。
不正経理によって困窮したのが、それぞれの貴族家だが、こちらの指摘まで放置した分を怠慢として、半分は接収した形にした。しかし、相手の貴族からしたら棚ぼたで出てきたお金なのでむしろ感謝された。
問題は重税を施していた貴族家。
実はこれが貴族家の名で行われる徴収なら全く問題はないのだ。
地球の感覚で言えば恐ろしいことだが、利益の100%を回収しても法的には問題ない。
貴族の領地とはそれぞれが独立した国のようなものだからだ。
無論、5%くらいは国の取り分だが、残り95%の利益を自家に取り込んでも違法性がない。
まあ、そんなことをすれば他の土地へ民衆が逃げ出し、それが王家に伝われば改易待ったなしだが、一応王国法に適合している。
しかし、今回は貴族家が王国の税率が上がったと言う嘘で徴収しているので、そもそもが違法だ。
「取り潰しだな」
公爵は一言で状況を表し、
「……そうですね。
直系及び関わっている一族郎党皆殺しが妥当で、ここに従士や街長などの纏め役もですから。
大粛清劇ですよ? これ!」
「そうなるな。
軍務卿に依頼して国軍を出させるしかあるまい。
責任は内務卿に取らせる」
「内務卿もいい迷惑ですね」
実質は内政部の監査官がすげ変わって終わりだろうが、内務卿の評価も堕ちるのでいい迷惑だ。
実際は先代の内務卿のせいだろう?
彼が主導する国税調査はまだ先の話だしな。
「そういうものだ」
「それはそうですけどね。
…陣中見舞いでも贈っておきますよ」
「それが良いかもしれないな。
理不尽な目に合ってる時の心遣いは有り難いものだ」
ないとは思うが、俺のせいだと逆恨みされても困るので街道沿いの新しい街の代官権限でも贈ろう。
…内政に詳しい代官が居れば、その街の対応が一任出来るし。
「ええ。
…しかし貴族家への納税率に上限がないのは驚きました」
「実際にはそんな高額の税率を施すバカは滅多におらんよ。
利益が減れば将来への投資が萎んで、後々先細りになる。
この制度は特殊な事情のある領地への配慮から上限を設定していないのだ」
「特殊?」
「ああ。
南部には希少な鉱物が取れるが僻地で物流に弱いヴァンス伯爵領と言うのがある。
この地の納税額は75%だ。
国税が5%だから実に70%が伯爵家の取り分だな」
「正気ですか?」
「ああ。
ヴァンス伯爵はその税で商団を編成して街道の先にある街々から生活用品を集め領民に配給する。
大口の商団を編成することで他領の商人に足元をみられるのを防いでいるのだよ」
「…なるほど」
自分の金儲けにしか興味のない日本の政治家にも見習ってほしい話だな。
さしずめ、ヴァンス伯爵領は社会主義で運営されている領地と言うところか。
「ちなみにグリフォスの税率も59%だぞ?」
「それはそうですけど、ウチの場合は3国への利益分配がありますから、実際の国税が3%×3国で9%もあるんですよ?
そんで税収50%の内の公共事業費が40%で残り10%は行政支出。
将来は改善するでしょうけど、現状は利益なしのボランティア領地ですからね?」
むしろ、ドラグネア、グリフォス間の伝令費用がドラグネアの会計支出で計上されているのでマイナスである。
「分かっておる。
あの街は皆で少しずつ負担をして育てる価値のある街だからな」
そう皆での負担である。
各国も3%の収入に対し、約5%の投資を行っているのでかなりの負担額を出している。
むしろ、伝令費用のみの負担になっている辺境伯領が一番負担が少ない。
経済規模から見た相対的なコストはウチが最も大きいが。
新興貴族である以上は経済規模が小さいのはしょうがない話だ。
「黒字化も意外と早そうですけどね。
各国が建築や移民に積極的ですから、既に千人規模の街になってます」
「ほう!
既に子爵家の領都規模ではないか!」
「ええ、そうらしいですね」
実際に今回回った4つの貴族家の人口は合計で2800人程度。
男爵家1つ辺り領民全てあわせて約700人と言うことになる。
無論貴族家毎に差はあり、1つは1200人超えの領地もあったが、軒並み1000人以下が男爵家では主流だ。
ましてや交易が主体である街なので、5年後くらいに黒字化。
10年もすればこれまでの損益も回収出来るはずだと想定している。
「羨ましい限りじゃな」
「そういうなら代わりに『夜の森』でも解放しますか?」
「無理言うな。
それが出来るならとっくに独立して一国の主になっておる。
私ははっきりとした血筋があるからな」
血筋は後ろ楯でもあるからな。
王族から出た英雄なら誰もが認めざるをえない。
「別に独立なんてしたくないですから。
どう考えても今より忙しくなりますしね」
「うむ。
特に各国からのアプローチがな」
「そうですね。
…我々のいた世界には『英雄色を好む』って言葉があるんですよ?」
「……逆だな?」
「ええ。
色を好む人間性だから英雄になれるってのが実情でしょう。
高潔で1人の女性を生涯愛し続けるような男は英雄に成り損なって終わるのがオチです」
英雄とは、その時代の権力者達が作り上げる偶像なのだ。
その血筋や能力を権力者が取り込めないのなら、排除の対象でしかない。
色を好むような人間なら、美女の1人でも連れていけば簡単に制御出来るし、裏で操るのも難しくない。
……勇者達がこの状況だな。
「それを理解しているのにミネット王女の婚約を逃げとるのか?」
「正直な話で嫁の怒りを買ってまで王女を娶るメリットがありませんよ。
英雄を超える化け物になってしまえば、色を好む必要もない。
血を分けていくのは娘の世代からでも十分でしょ?」
俺はそれさえ通り越して神様になってしまいそうだが…。
「なるほどな。
まあ、お前さんは相当長く生き続けるのだろうし、それでも十分だろう」
「ありがとうございます」
俺が数世代先まで友人や知り合いの子孫を見守るなら、無理やり血縁を結んでいく必要はない。
親戚のおじさんのようなポジションでやっていけば良いのだから…。
表向きは国の守護竜だがな。
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