第151話 ドラグネア城へ帰還
子供の名前は『マサキ』とした。
政木狐の『政木』であり、退魔の意味を持つ『魔裂き』である。
豊姫との話し合いの結果だが、数年後にはマナの元へ送り護衛役の名目でダンジョンに潜らせてレベルアップを図るのでマサキの方が相応しいと考えたのだ。
それに伴う影響かは分からないが、名付けの際、種族がランクアップしなかった代わりにスキル「絶爪」と言う強力なスキルをゲットしたようだ。
フォックレストで豊姫とその子供の『マサキ』に別れを告げた後は、町の建設予定地で順に休息を取りながら8日掛けて、ドラグネア城に帰還した。
本来であれば半分で済む日程をこれほど掛けたのは、各町の庁舎となる建物で毎回の接待漬けを受けた影響だ。
それぞれの町は俺の配下になったファーラシア、マーキル及びジンバットの貴族子弟が実家の縁で招いた商人等と協力して建設を進めている。
競争状態は善し悪しがあるが、今のように進歩の余地が大量にあれば、メリットがデメリットを上回る。
もちろん、将来的には開発の余地が減り、開発を推進するより他人の足を引っ張る方が効率的になる。
そうなれば競争を抑圧する方に舵を切らなければならない。
その頃にはマウントホーク領民として同化していると思うがな。
そんな感じで競争状態だが、当然飛び抜けて発展している町はなく、フォックレストとドラグネアの間で中継都市となる街は、俺の思惑1つな訳だから、少しでも俺への心証を良くして、優遇を受けようと必死なのだ。
それにフォックレストで合流した貴族が呼応して俺の引き留めを行うので、町毎に宿泊を取る日程となった。
彼らもそれぞれの町に縁戚を送り込めれば、自分達の家を発展させる好機になるので恩を売る目的で俺の足止めを図る。
……やり過ぎて意気消沈している男爵が数人いるがな。
何で俺が不快に思うほど露骨な行動に出る。
長距離の移動で疲れから熱が出たと騒ぐ一部はその町に置いてきた。
当たり前だが公爵も呆れて取り成さないし、連中の家の凋落は避けられまい。
それはそれとして、新たに縁を結んだ貴族達のお陰で町造りに回す予算が増えるので俺も文句は言えないのだ。
そんなこんなでやっと帰り着いたドラグネア城。
貴族達を出来立ての迎賓館に案内すれば俺の仕事は終わり。
ジューナス公爵ならともかく他の貴族は格下なのでむしろ俺自らの案内は侮られる原因になりかねない。
当の公爵は供回りを連れて、街に繰り出しているし、後はシュールが手配している夜会に顔を出すだけとなった俺だが、目敏く俺を見つけたレナが人化を解いてくっついてくる。
東洋系の竜であるレナに巻き付かれるとアナコンダに絞められるようで落ち着かないんだが。
「パパ~。遅いよ~?」
「すまんな。お仕事だったんだ。
良い子にしてたか?」
「もちろん~。
ママに~褒められたよ~」
一瞬、ママ? と不信に思っていたがユーリカをそう呼んでいたなと思い出す。
「そうか。
それじゃあ、ユーリカのところに案内してくれるか?」
「は~い」
彼女の後ろに付いて、エントランスから中庭へ続く扉を潜ると中央の東屋にて、少女達を集めてお茶会を開いていた。
「ママ~。
パパ帰ってきたよ~」
あの輪に入っていくのはきついと思っていたが、レナには関係ないらしく、竜のまま向かっていき、ポンッと人化してユーリカの腕に飛び込む。
レナの声を聞いて振り向いていたから良いが、うっかり不意打ちになると怪我するな。
「レナ、そうやっていきなり抱き付くのは危ないからやめなさい。
…ユーリカ。今帰ったよ」
「は~い」
「うん。
お帰りなさい。
今は…」
「良い。
そのままお茶会を続けてくれ。
シュールのところに…」
言いかけて思ったが、今頃は旧貴族領の件であたふたしてるんじゃないか?
…手伝わされるのも嫌だし、レナを連れて街の建設状況を見に行こう。
「少し街を見てくる。
レナも来るか?」
「……や!」
少女達に代わる代わるお菓子を貰っているウチの末姫様は珍しく鋭い口調で拒絶するのだった。
ここにいる少女達はシュールの婚約者を初めとする将来の重心達と婚約している娘達。
将来、イマーマを治めるレナをちやほやするのも分かるが、あまりレナをわがままにしないでほしいものだ。
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