第148話 馬車と襲撃者 3
襲撃者側はこれで良いとして、悪徳貴族に対する対応だ。
正直、将来への配慮から金貨4枚と言う褒賞にしたが、出していいなら金貨20枚くらい払ってやりたいほどの手柄であり、それほどこの貴族達の行いは許すべきでないものだ。
それは純粋に領民を奪われたと言う実害以上に、風評被害の大きさにある。
例えば、コイツらが彼女達を自分達を慕って付いてきた使用人と説明すれば、辺境伯家の統治に疑問が生まれるかも知れないのだ。
そうなれば、噂の火消しに大量の人材と時間を浪費する。
ましてや類は友を呼ぶもので、彼らの元には辺境伯家に不満を持つ者が集まるだろうし、そんな状況では最悪複数の家に決闘を仕掛ける必要が出るかもしれない。
……結果更に悪評が立つのだ。
「さてとロガン男爵とか言ったな?
この1件どういう決着にすべきと思う?」
「それは…、その…、ですね…」
威圧しながら意見を求めれば、しどろもどろで目を泳がせる。
事態の不味さを弁える程度の知能はあるようだが、それなら何でこんなことをしたんだ?
「何なのよ!
平民の2、3人連れていくくらいで目くじら立てて、貴族として恥ずかしくないの!」
男爵の様子に苛ついて文句を口にする夫人だが、その発言はブーメランもいい所だな。
「…それをロガン男爵家の総意と取っても良いのだな?」
「……お待ちください! 辺境伯様!
この女は貴族としての在り方を理解しておらぬ、愚か者でして…」
あ、逃げられた。
夫人が話せないようにしておくべきだったか?
「…では何故そのような女を妻に向かえたのか?」
「この女はコッスイ伯爵家に縁のある家柄で、当家には断ることも出来ずですね…」
「……」
「それはしょうがないな。
どうだろう?
マウントホーク卿、この者は我が家で面倒をみようかと思うが?」
「…そうですね」
早速、逃げた魚を公爵が持っていく。
俺の言質に男爵家の3人はホッとしているが、それは甘いと言わざるを得ないな。
「ではロガン男爵は数人の護衛を連れて、その馬車で付いてくるように。
夫人と令嬢、残りの護衛は国境まで護送し、アガーム王国に引き渡す。
アガームにはコッスイ家の縁者であると伝えよう」
「「え?」」
公爵の采配を聞いて夫人と令嬢がキョトンとしているが、何故そうなるのか理解に苦しむ。
まともに教育されていない夫人と令嬢など排除されるのが、当たり前だろうに。
それに男爵だって、公爵家の派閥から養子を取って隠居だろう。
実質、ロガン男爵家は乗っ取られて終わりの話だ。
男爵本人は命があるだけ儲けものだと思っているだろうが。
…俺も損しているんだぞ?
民衆をどう宥めようか考えないと…。
自分達の家族を誘拐しようとした連中が保護されるなど、誰でも不満に思うものだ。
3人の誰か1人くらいは旧男爵邸の前で、公開処刑に使いたいんだがロガン男爵が引き取られて、存続する以上は公爵が醜聞を認めないだろうし…。
…しょうがないな。
「おい。
今回の直訴を主導したのは誰だ?」
襲撃者達に声を掛ける。
ここに居なければソイツで良いし、居れば男爵の脇に控える従士長を使うとしよう。
「私です…」
「お前は?」
「街長の子でゲンターと申します…」
「そうか。
やっぱり従士長を斬るべきか…」
「…へぇ?」
急に名が出て驚いている少し豪華な鎧を着た男の首をそのまま跳ねる。
「「「ヒィィ!」」」
一瞬遅れて噴き上がる血を浴びた男爵家の親子が悲鳴を挙げる。
「さてと…。
その首は綺麗に洗って、馬車の先頭にくくりつけろ。
今回の領民誘拐を主導した犯罪者である。
…男爵達もそれで間違いないな?」
「「「はひ!」」」
「宜しい。
ゲンター達もこの首に免じて男爵を許すように……」
「「「ははっ!」」」
これで少なくとも旧ロガン領は纏められるだろうが、他の領地も調査した方がいいかもな。
「…こっちから人手を出そう」
「お願いします」
公爵がロガン男爵家を引き込むのに貧乏くじを引いた俺に対して早速借りを返しにくる。
後々までとっておきたいが、人手が足りないのも事実なので素直に受けとる。
「……準備を整えたら出発するぞ!」
公爵の号令に動き出す同行者達を眺めつつ、他の領地は大丈夫であるように祈るのだった。
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