第142話 水竜王女
マーマ湖に来て1週間。
初期こそ仕事もあったが、後半は職人達の働く様子を見て過ごす暇な日々を送っている今日この頃。
やっと昨日、シュールから代わりの護衛の手配が付いたので、彼らと交代でドラグネア城に戻るよう連絡が来た。
その際に近習として、水賢と水打と言う2名を連れていく。
彼女らはレナ・マウントホークのメイドとして、ドラグネア城で働くことになる。
そのレナは、
「パパ~。 水の中は~気持ちいいよ~!」
と、マーマ湖の沖合いから手を振っている。
あれが生後3日と言うのだから、竜と言う種族のデタラメさと言うのはない。
「生まれが既にデタラメだがな……」
新しい娘に手を振りながら、4日前の朝の出来事を思い出す。
「…ああ、気持ち悪い。
絶対飲み過ぎた…」
俺は朝から吐き気と戦っていた。
前日の晩に名付けを受けたアクアディネ達が宴会を開いてくれたのだが、金貨と共に海底に沈んでいる旨い水を提供すると言うので、恐る恐る飲んでみると日本の清酒のような味がする。
懐かしさも手伝って瓶3本を開けたら、喉が渇きマーマ湖の水をどれだけ飲んでも足りない。
人の姿では追い付かないと竜化して飲み続けて、渇きが収まる頃には腹がタプタプ言うし、そのまま湖に足を突っ込んで寝たんだが。
「ウップ!
二日酔いだよな。これはオップ!」
頭痛や怠さはないが、ひどい吐き気がこみ上げる。
どうなってるんだ?
ひとまず、マーマ湖の水を飲んで吐き気を抑え込もうとして、
「…ガフッ!」
それが呼び水になって遂に吐き出したのだが、口から出てきたのは水色の水晶玉のような物。
マーマ湖に落ちたその水晶玉は、膨大な魔力を纏っている。
「…何だ?」
拾い上げた水晶は光と共に小型の竜へ転じる。
その竜は俺の腕に噛み付き魔力を啜る。
「これは?」
「真竜種でございますね」
「おお!
…ビックリした!
水侯か?」
「はい。
主様の周囲に膨大な竜気が渦巻いておりましたので様子をと思いまして」
「…そうか。
それでこの子だが?」
腕に乗っている子竜をみせると少し考え込んでから、
「推測ですが、主様がマーマ湖に宿る大量の精霊力を吸収し、それを自らの竜気と混ぜ合わせて産み出した新たな竜と言うことでしょうか?」
「つまり…」
「主様とマーマ湖の間に生まれた御子様にございます。
おめでとうございます!」
「めでたくないわ!!」
水侯の発言につい強く言い返してしまったら、手元の子竜が落ち込む。
「キュウ……」
「ああすまない、お前が要らないと言うのではないからな?」
「そうでございます!
御身は我らアクアディネの末の妹にして、主君筋に当たる姫君。
水竜王女殿下にございます!」
「王女ってのは大袈裟だろうに…」
「いえいえ、我らアクアディネを率いる女王と為られる方ですから!」
超嬉しそうな水侯だが、俺としては嬉しくない。
「まさか湖との間に子供が出来るなんてな…」
「大量の精霊力を取り込んで竜を生む。
そうですね、さしずめ『竜の聖母』と言うべきでしょうか」
「…嬉しくないな」
「良いではありませんか。
亜竜が長い年月を経て、下位竜となり、そこから才能ある者が真竜となるこの世界で一足飛びに真竜を産み出す『竜の聖母』素晴らしい称号です」
異様にテンションが高いなコイツ。
「真竜種の姫ですよ?
主様の御子様であり、我らが遠く及ばぬ力あるお方。
このマーマ湖の支配者としてこれほどふさわしい方は他に居られません!」
「まあ良い。
ひとまず人の世界について学ばせるから、この子がマーマ湖を治めるのはずっと後だからな?」
「お待ちいたします!」
何を言うのも無駄そうだと諦める。
水晶のような美しい鱗の新しい子供を撫でながら、嫁になんて言おうかを考えながら、1日を過ごすのだった。
あれから、人化が出来ることがすぐに判明して、出来るまで水侯達に預けると言う時間稼ぎも出来ず、やむ無く連れて帰ることにした。
…実の子は可愛いもので離したくないのも事実だが。
嫁にはキレられるの覚悟で話をするしかない。
まさか湖との間に子供が出来る特異体質なんて想像も出来なかったものにまで、責任を取らされることはないだろうと信じる。
……上手く説得しないと最初に刺されそうだけどな!
そう言えば、ユーリカもドラグネア城に到着しているはずで、…暗たんな気分になる帰路だった。
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