第143話 領都ドラグネア

 ドラグネア城は、元『狼王の平原』中央からやや西寄りにある小高い丘を丸々使用した城である。

 防衛拠点としての色が強く、手っ取り早く高さを稼げるように丘を基礎に利用して建築中。

 そこを中心に街の形が出来上がりつつあり、これを領都ドラグネア。

 更にそれを中心とする一帯で土地が肥えている場所が農地として用意された。

 領都に食料供給する役割を担う農村だな。

 元々、『狼王の平原』は何処も土地が肥えている。

 巨体の狼が動き回り小動物を狩り、その場で食べていたし、糞尿も所定の場所に集めていたわけじゃないから、循環が出来上がっている。

 魔狼が駆け回っていたので、木も疎らである。

 そんな土地柄なので農地の設定はかなり自由度が高いのだが。

 人手が少ないと言う問題は一向に解決しないのだった…。

 今も各地の農村を回って、移民を募っているがあまり芳しくないと言う。

 治安の悪い南部方面は集まりやすいのだが、派手にやれば統治している貴族の反感を買うだろう。

 最悪の場合、怒りの矛先をこちらに向ける形で紛争を終息させる可能性もある。


「と言うのが1番の問題だ」

「偉大なる竜の君の頭を悩ませるのが、そのような些末なこととは…」


 道すがら馬車の向かいに座る娘とその両脇を固める2人のアクアディネへと現状の課題を挙げる。


「どれだけ力があっても人の心は易々と動かせんさ。

 そんな状況で、マーマ湖に航路を敷くことは入植者募集の地域を広げるチャンスでもある」

「「なるほど」」


 フンフ~ン♪ と鼻唄を唄っているレナを見ながらの説明ではあるが、アクアディネ達は総じて智力が高いのか理解も早い。


「レナは将来はマーマ湖の湖畔に出来るイマーマの太守を任せるから、お前達もそのつもりでな?」

「太守と言うのは?」

「代官ではないのですか?」


 …この世界では街の管理人は入れ替えやすい代官と言う形が一般的だからな。


「本来の意味では太守も代官とそこまで違いはないが、ここでの太守は公に世襲権を認めた代官と思ってくれて良い」

「…代官もそうなのでは?」

「いや、一応は世襲制ではないぞ?

 単純にノウハウやコネがあるから、子供に世襲させたほうが統治しやすいだけだ。

 だから、裏で調整して同じような昇格を行い、親と同じように代官となるだけ」


 当然、公的な後ろ楯は弱く、失態があればすぐに交代させられる立場ではある。

 対して、レナが据えられる太守と言う立場は、公的に世襲権限を認めるものとして扱う。

 …正直な話、マナやその旦那。それよりずっと先の子孫より真竜であるレナは寿命が長い可能性が高い。

 将来、レナの周囲が自分達の正統性を主張してマウントホーク領を混乱に陥れる可能性もゼロでないだろう。

 実際レナは俺の娘でありマナの子孫より確実に血が濃いのだし、それなりの対応が必要になるだろう。

 その対応が太守と言う立場に縛ることである。

 父親である俺により太守と言う立場に任命された以上は、レナの権限が及ぶのはイマーマだけと周囲に認識されるだろう。

 時代が過ぎて、それが慣習化すればレナを次期辺境伯になどと考える輩もでないはず。


「…それなりに帝王学も学んでもらうし、学園にも通わせるのでそのつもりでな?」

「「賜りました」」

「レナ~、勉強嫌いだよ~?」

「学園って言葉は知っていたか…」

「帝王学も~分かるよ~?

 人を従える手段を学ぶんでしょ~?」

「そうだな。

 学園は嫌か?

 だが、来年から通えばお姉ちゃんと一緒に通えるぞ?」

「…考えとく~」


 口では迷っている素振りのレナだが、マナに会いたいのは顔を見れば分かる。

 どうやら俺の記憶を一部継承しているらしく、歪な知識を持っているし、俺の記憶を元にして継承しているので、ユーリカやマナへ強い情が見受けられる。


「まあ、家族の仲が良いのは良いことだと思うことにした」

「「…宜しいので?」」

「…正直な話、不安はあるがこれから1年でどうにか矯正するさ」


 俺の記憶を元にしているせいで、マナに対して若干のヤンデレ的言動を見せているのだが怖いので突っ込まないことにした。

 それを知っているアクアディネ達の懸念も分かるのだが…。

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