第136話 軍務卿襲来

 ダンジョンで何が不満かと言えば、食事がひたすら塩味の焼き肉なことだろうと思いながら、久々のシャバで様々な屋台料理を堪能した後は、屋敷に戻って昼過ぎから夕方まで昼寝。

 起きて夕食の余韻に浸っていると、


「旦那様。

 フォークス軍務卿がみえられました」


 と告げられた。

 頭の中は?マークで一杯だが、


「昨日の件で…」

「ああ、分かった」


 と思い出した。

 そういや、昨日ダンジョンから帰ってきた時に、目の前のリッド執事長が言っていたな。


「旦那様、ダンジョンより帰られたら一報がほしいとフォークス軍務卿から言付かっております」


 と。

 しかし、


「早いな。昨日の今日とか」

「そう言うな。

 こっちはお前さんが希少な武具を気前良く売りに出さないか、気が気じゃないんだ」


 俺の愚痴にガハハと笑いながら答えて、対面に座る軍務卿。


「武具?」

「ああ、お前さんは貴重な武器や防具にあんまり興味がないのか、すぐに売り払うだろう?

 軍部としては大変に困るわけだ。

 暴漢が強力な武器を持っているとかヤバすぎる」


 深刻な顔でいまいちな理由が述べられる。


「宝物庫の代物は確かに強力だが、それ以外よりは俺の竜気を込めた武具の方が強力だぞ?

 しかも売りに出してるのは15層より上としている」


 俺だって、領主=為政者側の人間だ。

 危険な武具を売りに出すような真似はしていない。


「……コイツを見ろ」


 深刻な顔の軍務卿が取り出したのは、あの突っ込み処満載なゴブチャンこと『聖剣ゴブリンチャンピオン』。


「…誰かが横流しをしている可能性が高いか」


 この家の武具保管庫では無造作に山積みされているが、これが手に入るのがゴブリンパラディンからのドロップ、一般には出回らない代物だ。

 しかし、ある程度目利きが出来れば、これが簡単に足が付く系統だと分かるはずだが?


「とにかく。リッド、保管庫を管理している者を呼べ」

「すぐに!」


 状況のヤバさを知ったリッドがすぐに動く。


「どうする気だ?」

「まずは犯人の特定より怠慢した保管庫の番人の処罰が最優先だ。

 週に1度は保管品の総数点検を命じてある。

 それなのに軍務卿がそれを持っている時点でおかしい」


 売った相手が真性のバカですぐに暴れたとしても、数が合わないと言う報告より早く軍務卿が持ってくるはずがない。

 例えば、月曜日に点検したとして、火曜日に盗まれる。

 屋敷の外へ当日持ち出し、その日に売り払ったとしても、売った店はそれを売る相手を吟味するだろう。

 希少武器だから高く買ってくれる相手を探すはずだ。

 …盗人もこれが盗品とは言わないはずだし。

 早くても3日くらいか? そうなると水木金で金曜日。

 購入者が暴れるとかして軍に捕獲されるのはその後だろ?

 そこから軍内部を登ってきて、軍務卿に渡り俺の元へ来るまでにも数日以上ロスをするとして…。

 下手すると1月以上在庫確認していないだろう。

 そんなことを考えていると、リッドが中年兵士を連れてくる。


「保管庫の管理を行わせている者です」

「そうか。お前は週に1度、保管庫の在庫数を確認しているはずだな?」

「は、はい…」

「前回は何時確認した?」

「はい! 一昨日になります!」


 ビク付きながらの報告はやましいからか、最上位の下問に緊張しているかだが?


「そうか。今、目の前にあの保管庫にあるはずの武器があるのだが?」

「はい?

 そ、そんなはずはありません!

 閣下の勘違いかと…」


 目が泳いでいるんだがな?


「そうか?

 あの保管庫にある代物は全てこの国では中々手に入らない代物ばかりでな。

 それが軍務卿の手で持ち込まれたのだが?」

「誓って勝手な持ち出しなどは!」


 慌てて弁明するが、こっちはそんなことは訊いていない。


「そんな疑いを持っているわけではない。

 在庫数は台帳と等しいことを毎週確認しているんだろうな?

 と言うことを…」

「申し訳ありませんでした!

 前回の確認を明日やる予定でまだやっていません!」


 こっちがそこまで言ったところでこっちを遮って土下座する。

 怠慢があったが?


「マウントホーク卿」

「ああ、お前は前回まではきっちり確認していたんだな?」

「は? はい!

 期日を守って確認していました!」

「…嘘はなさそうだな」


 軍務卿の言うように正直に答えているように見える。

 そうなるとどうなる?


「ダンジョンから持ってくるまでに横領された可能性は?」

「それはない。

 俺がダンジョンで回収した数と保管庫に入った数は一致している。

 ……ひとまず、台帳を」

「こちらです」


 持ってこいと言う前にリッドが取り出す。早いな、おい!


「不審な持ち出しが数件ありましたので…。

 後日確認をと思っておりました。

 今回の件で氷解しましたが」


 不審な目で見たのがバレたのか。事情説明するリッド。


「…週に1から2件単位で持ち出しがあるな?

 持ち出したのはレイア?」

「小間使いをしているラギンス商会の会頭の娘です。

 彼女曰く、閣下から持ち出しを依頼されたとのことでした」

「………」

「………」


 涼しい顔のリッドに対して、困惑したまま顔を見合わせた俺と軍務卿だった。


「閣下もフォークス様もお気を付けください。

 人は時に何故そんな単純なっと思うような愚行に走ることがあるものです」

「「……」」


 年の功と言うべきか、初老執事だけに似合う台詞に沈黙する俺達だった。



 結局、

1、武器や防具は全て軍部に直送して、代金は王宮から受け取る。

2、たまにはマジックアイテムを王宮に売る。


 と言う軍務卿の2つの提案を受け入れた。

 なお、レイアは実家に返され内情を暴露した結果。

 ラギンス商会は数日の内にその歴史に幕を閉じたのだった。

 俺の怒りを買ったためと言う不本意な噂だけ残して……。

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