第123話 元グリフォンの高地
王都で購入した馬車に、俺に譲渡された『地命剣ギーゼル』、『打命棍ジュンガー』及び『尖命槍ブルック』の3つの武器と共に乗り込んだ俺。
その周囲に騎馬編成を組むウチの新人従士達が護衛に付いた一団は、西部を北上してマーキル王国の手前にあるグリフォンから俺が奪ったベネット高地へ向かった。
ちなみに辺境伯家の馬車の後ろには、ジューナス公爵家の馬車が続く。
ウエイ伯爵は、ドワーフの最後発組を国境まで護送してから、こちらにやってくるらしいが歩兵中心のドワーフ軍の護送だから俺とは入れ違いだろう。
本来ならジューナス公爵もあちらに付く予定だったのだが、急な事情によりこちらへの同行となった。
高地にいたと思われるグリフォンがフォロンズ王国の北にある山脈に住み着いたと言う情報をキャッチしたのだ。
グリフォンが戻ってこない可能性が高く、そうなればあの土地は3国の交易路が交わる優良物件に早変わりする。
基本的な所有権は解放者の俺のものだが、下手な交渉で奪われないように公爵が同行を申し出てくれたと言うわけだ。
俺がミーティアを出る数日前まで何処も受け取り拒否していたのに、何て言う手のひら返し。…俺も人のことは言えないが。
「お待ちしておりました!」
俺の馬車を見つけたシュール君が、急造のコテージへと案内してくれる。
これがマウントホーク辺境伯領グリフォスの政務館(仮)である。
確か、建てた当初はマウントホーク子爵軍ベネット高地駐屯所と名付けられていたはずだが?
そう尋ねたら、
「閣下の辺境伯拝命に伴って政務館にしました。
将来、何らかの理由で領地を手放す必要が出た時に駐屯地だけの土地では価値がありませんが、曲がりなりにも行政府を置いてあれば相手も文句を言えません!」
と言うシュールの回答を得た。
つまり、何の価値もないはずの土地を将来捨て駒として利用出来るように大義名分を与えていたわけだ。
さすがに大貴族の子息であると感心した。しかも、
「そのお陰でこの地の正当権を主張しやすくなっているか」
「はい。
ただ、交渉に来ている相手ですが…」
奥の食堂から改めた応接室に待っていたのは、
「久しぶりですね。マウントホーク卿」
「シュールがお世話になっております。
ジオン・レッグと申します」
杉田の嫁の父親に当たるテミッサ侯爵とシュールの父親に当たるレッグ公爵だった。
「レッグ公爵閣下。
はじめましてユーリス・マウントホークです。
テミッサ侯爵閣下はお久し振りです。
やはり、この地の交渉に?」
「一応建前はね…」
「ジンバット側も同じですね」
うん?
どう言うことだ?
「正直に言って、ラーセン攻略中であればともかく今更この地を譲り受けたいなどと虫の良い話は通用しないだろう?」
「それを無茶な交渉でもしてこの地に関でも設けられたら大変ですし、縁のある我々が窓口になって交渉をまとめようと思いましてね」
苦笑しながら実情を明かしてくれる2人の高位貴族。
それはありがたいのだが、
「本国の貴族は納得しますか?
目の前にこのような土地が広がっているのに…」
「王家が抑えにまわってくれているし、ここにいるのはウチの愚息を含めそれなりの家柄の者ばかり、その者達が竜となったあなたを実際に見ている。
それもあって上位貴族は王家の意向に理解を示していますよ」
あの竜化の目的はマウントホーク家内部の引き締めだったが…。
……俺でもアイツらの立場なら同じように手紙を書くか。
板挟みになった時はマジで命の危機だ。
「下級貴族が多少のやっかみをしていますが、元々マウントホーク卿の解放した土地ですので表立って批判は出来ますまい」
「テミッサ卿。
それはそれで困ります。
普段ここにいないのに変な暗躍で被害が出る度に呼ばれるのは…」
「まあまあ。
こちらもそうなればそれなりの被害を覚悟しなくてはなりません。
それは避けたいので、この地へ出資させていただくと言うのはいかがでしょう?」
眉を潜めた俺を宥めてきた侯爵が提案してきたが、それは侵略の常套手段ではないか?
「…数十年と投資をして、莫大な金額となった後に回収を名分として接収すると言うなら」
「お待ちください!
出資と言っても資金援助ではありません!
我々の国から人材や資源を提供すると言う話で彼らへの給金等はそちらにお任せしますから!」
俺から険呑な気配を感じた侯爵が慌てて弁明してくる。
その内容ならよほど問題はないか。
「それなら…。
しかしそれは出資ではなく人材派遣では?」
「卿の言い分も分かりますが、国としては出資なのです。
他国の辺境伯家に頭を下げるわけにはいかないので…」
「ああ、そういうことですか」
いわゆる、序列的なものと言うことだな。
出資なら出資元が上だが、人材派遣だと派遣先が上になるわけだから、表現は大事と言うわけだ。
「遅れてすみません。
話し合いは終わりましたか?」
「おお、ジューナス公爵閣下。お久し振りです」
「こちらこそ、ご子息のデビュタント以来ですかな?」
所用があると少し遅れてやってきたジューナス公爵がレック公爵と握手を交わす。
「そうなりますかな。こちら側の書類です」
「ありがとうございます。ファーラシア側の書類も確認していただけますかな。
テミッサ卿も久方ぶりですね」
「そうですな。
普段、領地に籠る無精者ゆえご容赦ください。
こちらジンバット王国より預かった書類です」
テミッサ侯爵のような立場に俺もなりたいなと思いつつ、やり取りを眺める。
話の内容からして、事前に事務方の調整は終わり、後は俺と各国の代表による調印だけみたいだな。
「ありがとうございます。
こちらの書類も確認してください」
「…問題なさそうですね。
しかし、このベネット高地への予算を国から出すと言うのは驚きです」
「ちょっと待った! 俺聞いていないぞ?」
ある程度書類を読み進めたであろうレッグ公爵の言葉に待ったを掛ける。
「え?
王宮からの手紙では陛下から直接説明するとありますが?」
「あ」
「どうなされたので?」
「…急いでいて王宮には寄っていない。
ジンバル侯爵に会ってすぐに西部に向かったから…」
「「「「……」」」」
沈黙が流れる。
さすがに自国の国王を放置プレイしたのは不味すぎると思ったらしい。
「……私も同行しましょうか?」
「頼みます。ジューナス公爵閣下」
「ひとまず書類を確認してもらい、サインをもらえますか?
それが終われば、本国の方が動きますので…」
「こちらもお願いします。
夜会は参加出来ずと伝えましょうか?」
「お願いします」
ジンバット王国への招待に参加している暇はなさそうなので、テミッサ侯爵の提案に頭を下げた。
レンターには早めに謝罪しておきたい。
レンター本人はともかく周辺貴族の進言の振りをした口撃が厄介だ。
ジューナス公爵もそれを見越して同行してくれるのだろう。
とにかく、書類を片付けてベネット高地の問題は肩から降りた。
後はこのグリフォスに残す従士と連れていく従士の仕分けだけさっさとして、『狼王の平原』に向かいたい。
あそこが片付けば、俺の仕事も一段落のはずだから…。
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