第124話 謁見

 連れてきた新人従士とベネット高地の古参組の半分を入れ換えて、ベネットを発った俺達は4日ほどかけて街道の各街で宿を取りながら、ラーセンまでやってきた。

 この4日は俺と公爵に数名の護衛役を除けば、全員野営を行っているので、多めの給金を渡して2日間の休暇を与える。

 その後は、『狼王の平原』解放を行うと言ってあるので、羽目を外さない程度にストレス発散して来るだろう。

 俺はジューナス公爵と共に謁見の間に通されて、


「ジンバル侯爵からも話は聞きましたし、レッドサンド王国との緊張は至急課題でしたので、あまり責めたくはありませんが、王都に寄ったら顔は見せてください。

 お願いしますよ?」

「…申し訳ない」

「さて、それで『狼王の平原』の件ですが…」

「陛下!

 忠臣たるべき辺境伯が陛下を蔑ろにしたのですよ?!

 そのような甘い態度では…」

「…ミッドナー儀典長」


 ジンバル侯爵が宰相として諌めに入るが、


「申し訳ございません。

 しかし、辺境伯の行為を黙認すれば、国の綱紀が緩むかと思います故に」

「おや? おかしな話ですな?

 そもそも辺境伯閣下が多忙なのは、私も含め他の貴族が頼りないのが原因でしょう。

 もっと言えば王宮の権威を守るべき儀典官が、ロランド王子の国王代理となることを認めたのが遠因ではないですかな?」


 儀典長の奏上に対して、ジューナス公爵が反論してくれた。


「そのような…」

「…そういえば直接政務に関わらないからと儀典官に対しては、人事の更新をしておりませんな。

 王に権威を与える地位である儀典官がそのままと言うのもおかしな話だ」


 口ごもるミッドナー儀典長に対して、ジンバル侯爵も援護射撃に出てくる。


「まあ良いのでは?

 儀典作法を伝えるだけの家ですから。

 …しかし、そういう家柄にありながら、陛下のお言葉を遮ったことは少し問題ですな」

「しばらく謹慎させるべきかもしれませんな?

 それこそ陛下を軽んじられる要因となりましょうし、儀典長と言う地位にある方がそれを理解しないはずもないでしょう」


 その宰相の尻馬に乗って、軍務卿や内務卿も儀典長への糾弾に出る。


「そうだな。しばらく休みを取ってはどうかな?」

「何故!」


 宰相の勧めに大きく声を挙げるミッドナーだがそれに答える者はなく、レンターも何も言うことなく放置する。

 何処の派閥も『狼王の平原』解放による利権確保に集中したいのだ。

 足を引っ張られて、『狼王の平原』解放が中断するのは嫌だった。

 それを理解してしないミッドナー儀典長の敗北だった。

 項垂れる彼を放置して、本題に移る。


「それで軍務卿。

 王国軍の用意は?」


 宰相が改めて最終確認に入り、厳つい筋肉親父に問い掛ける。


「万全です。

 北の方面軍も呼び寄せていますし、マーキル王国軍とジンバット王国軍の一部も本作戦に派兵していただいておりますので、総勢5万を用意いたしました。

 平原の西部に分散して駐留させています!」


 俺の狼王討伐後にファーラシア王国内を残党に荒らされないようにするための軍。

 対策もなく放置すれば厄介この上ないが、他の魔物の領域やアガーム王国側へ追いやればちょうど良い戦力となる。

 普段の偶発的な解放とは違うからこそ出来る運用だな。


「内務卿、糧食手配は?」

「完了しております。掃討戦が多少長引いても問題ありません!」


 広範囲に散開する作戦であるが故に、糧食移送を内務卿が、主導して軍務閥の負担を減らす。


「外務卿、各国の反応は?」

「マーキル王国とジンバット王国を除いて、困惑しておりましたな。

 少なくとも邪魔をしてくる様子はありません。

 …ただ、レッドサンド王国軍の一部が義勇兵を出すと」

「他国の反応は予想通りだ。

 それでこそ、マウントホーク卿の情報を隠してきた甲斐がある。

 しかし義勇兵と言うのは?」

「分かりません。

 レッドサンド王国にマウントホーク卿のことがバレているのは間違いないのですが…」


 利権に嘴を突っ込みたいなら援軍を出す方が良い。

 義勇兵ではその場で働きに応じた褒賞金の支払いに終始するのだから。

 しかし、


「…試し斬りだろうな」

「ジューナス卿もそう思います?」


 横でこっそり呟くジューナス公爵に俺も同意する。


「見せるために持ってきているのだろう?

 ここで出すべきでは?」

「そうですね。

 …先程の包みを」

「ハッ!」


 あーでもないこーでもないと言い合う他の貴族に見せつける意味も込めて、事前申請しておいた3つの武器を近くの騎士に持ってこさせる。


「…先生は心当たりがあるようですね?」


 俺の動きに最初に気付くのが対面しているレンターであるのは必然で、その呟きを聞いて静まるのも彼の立場なら当然だった。


「まあな。

 ひとまず現物から見てもらいたい。

 話はそれからで…」


 それなりに上質な布に包まれた品を騎士達が持ってくるのを待つ。

 …何が来るか知っている公爵がイタズラでもするかのように笑っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る