第122話 ドワーフ王との対話

 日本にいた頃。

 俺が買っておいたプリンが全てユーリカのお腹に消えたことがある。

 俺はその時の記憶を呼び覚まし…。

 この世界だとプリン何て食べられないじゃないか!

 本気で腹が立ってきた!!

 その怒りを蓄えたまま、竜に転じると周囲の騎士達が顔を青くして腰を抜かしているのが見渡せる。

 さて、これだけの威圧感を出しているなら頑固なドワーフ達相手でも通じるだろう。

 …ああ、プリン食いてぇぇ。

 沸々と沸き上がる怒りを維持したままに空を飛び、歩いて数時間の距離を秒で舞い戻る。

 そのまま平原上空を旋回して目標の着陸点を定める。

 それは両陣営の中間地点に設置されたテーブルの近く。

 ゆっくりと舞い降りた俺は1人だけ前に出て平伏するドワーフに声を掛けることにした。


「貴様が私を呼んでいると言うドワーフの王か?」

「自分は赤い砂の地の纏め役でギーゼルと申します。

 真竜様のご尊顔を拝謁する名誉と直接お声掛けいただきます慈悲を賜り光栄の極みにござります」


 ウエイ伯爵の話ではドワーフ達はかなり癖の強い言葉遣いだと言うがそんな兆候はないな?

 それに加え、纏め役?

 別人と言うことか?

 …ひとまず問い質そう。


「纏め役? 王ではないのか?」

「真竜様方の前で不遜な称号などを名乗りはいたしません。

 ギーゼルとお呼びいただければ、末代までの名誉となりましょう」


 竜と言う存在への敬意を感じる。

 ……いやコイツらが正しいのか?

 絶対に勝てん相手で、それが意志疎通出来るならわざわざ怒らせるのはバカバカしい。

 とは言え、これでは話し合いにならないので竜化を解く。


「さて対話を始めよう」


 と、呼び掛ける。

 …対話である。

 俺の命令じゃないし連中の奏上でもなく、お互いに1人の個人として話し合おうと…。


「はい。恐れながらお願いしたい!

 我らの渾身の一振りに御身の竜気をお授けいただきたく伏してお願い申し上げます!」


 いや、だからな…。


「もしお受けいただけますれば!

 今回の争いにおける全ての権利を放棄いたしましょう!」


 更に捲し立ててくるがそれには一瞬驚いて、公爵達を見るが、


「どうしました?」

「ギーゼル様は何と?」


 とキョトンとした顔で返される。

 どうやらギーゼルはドワーフの言葉で話し掛けてきているらしく、公爵達には通じていなかったらしい。

 …助かった。

 聞かれていたら、幾ら友好的なこの2人でも俺に対して嫌な気分を抱くだろう。

 考えてもみればわかる。

 自分が苦労して纏めつつあった契約を後から出てきた後輩が簡単により良い条件で結び直したら、それを表に出すか出さないかは別にしてもいい気分はしない。

 しかもその先輩はそれぞれ西部と中央に影響力があり、不利益を被るかもしれないのだから堪らない。

 ギーゼルがわざとやってるなら大した策略家だが、そんな空気は微塵もない。

 そして往々にしてそういう場合の方が相手のプライドをより傷付ける。


「ギーゼル王。

 私はファーラシアで辺境伯の地位を受けている。

 今回もジューナス公爵並びにウエイ伯爵の要請の元に推参したに過ぎないので、それらの交渉は両閣下に一任するべきと思う」

「そうですか…」


 目に見えてがっかりするドワーフ達。

 これで俺が帰った後に暴発でもされたら更に困る。


「そちらの武器に竜気を込めるのは別交渉としよう。

 そちらは白命竜として受ける。…それでどうか?」


 ひとまず、命を司る白竜なので、白命竜と言う称号を自称する。

 その上で別の契約を結ぼうと提案すると、


「是非に!

 この場で竜気を込めてくださるのであれば、それはそのまま御身に献上します!

 御身の眼にかなう者へとお与えください!」

「? 

 自分で振るう或いは飾ろうとはしないのか?」

「我らは鍛冶師でございます!

 英雄には成れません。ましては武具は使ってこそ!

 死蔵した武具に価値はございません!」


 武器に竜気を込めた物を持ち帰りたいと主張すると思っていただけに面を食らったが、理由を聞いて少しだけ納得した。

 しかし、


「それでは俺が納得出来ない。

 …白命竜はドワーフから名工の武器を取り上げたなどと不名誉はいらん」

「しかし…」

「ドワーフは最高の武具を造ることに人生を懸けるのだろう?

 それらの武具の銘をそれぞれから取ることと半分をそなたらの国で管理することで手を打たんか?」


 竜の力を帯びた強力な武具に自分の名前が付く。

 これほどの名誉はそうないだろう。しかも、自称ではなくドラゴンが後ろ楯となった命名だ。

 文句を言える奴はいない…。

 ……こうして、後に『聖竜三皇王』と『光竜三帝王』と呼ばれる2系統の伝説の武具が生み出されることに成った。

 案外伝説の始まりはこの程度の思い付きだったりする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る