第104話 フォックステイル+1
久し振りに嫁と娘に再会出来たし、さあ『狼王の平原』解放にといきたいところだが、そうは問屋が卸さない。
まず、資材の発注をミーティアで行う。
木材などの建材や道路に敷く砂利やレンガのような資材。
…後は大量の食料品だな。
これらの資材を購入して確保するように命じてある。
異世界において、特に建築材料や敷材料は普段は非常に安く、時々高騰すると言う性質がある。
これは現代日本と違うこの世界に置ける建築頻度の問題だ。
基本的に住居は再利用。
所々の手直しはするだろうが、それで使用される木材は僅か。
そのような低需要な状況だが、時折発生する災害や魔物の襲来による建築物の倒壊が稼ぎ時でその時は大幅な値上がりが起こると言うのが、この世界の建材事情らしい。
一応、建材の供給源を維持するために軍が訓練用に定期購入しているようだが、それが税金を財源にしている以上は購入価格はつり上げられない。
更に言えば、この世界には専業として建材を扱う業種すらなく、木材は木工職人、敷材は石細工職人が兼業しているものだと言うのが驚きだった。
そんな状況にあるのだから、『狼王の平原』解放前に大量の資材を安く確保しておこうと言うわけだ。
後は資材の定期購入契約を結び、将来の経費を抑える。
それらをこの街で店の方の『フォックステイル』にやらせる。
俺の現在の一般的な認知は、1人でも深層探索が出来る実力者? と言う程度。
そんな俺が長年王国軍さえ退けてきた平原の狼王とその眷属を倒せるなんて誰も思っていない。
だから殆どの商人は、『フォックステイル』の購入計画をバカにして、言い値で契約してくれた。
ここには俺への仕返しの感情もあっただろう。
失敗して大損すれば溜飲も下がる。
実際、解放に失敗すれば毎月山のような不良在庫と赤字を抱えるのだからな。
連中が大喜びで相場の1割引きで1月辺り10軒分の資材購入の15年契約を結んでくれたのも分かる。
「…少し可哀想になるな」
「どうしました?」
昨日の交渉を思い出した俺の呟きに狩牙が尋ねてくる。
「うん?
昨日、商人ギルド仲介にして建材を扱う奴らと契約を結んだんだがな…」
「上手くいかなかったので?」
「いや、上手くいきすぎて困ってる」
「そんなこともあるのですか?」
「うむ。
建材を1割引で5年分購入する契約を結びたかったんだがな?」
「新都建造用の奴ですね?」
「ああ。
結局、フォックステイルのせいでギルドの財源と資産を大いに目減りさせたマジメーノが茶々を入れて、契約期間が15年になってしまった」
「悪いことなのですか?」
首を傾げる狩牙。
森で生きてきたコイツらには分からないことだろうが、今後を思って説明しておく。
「…悪いな。
5年毎に再契約していけば、お互いに有益な取引になったはずなんだが。
このままだと8年後くらいに相手は大赤字。
10年後くらいには廃業して、一家心中になりかねん。
それだけでも目覚めが悪いのに新しい供給源を探す苦労を思うと今から憂鬱だ」
……この間までの俺なら気にもしなかったかもしれないが。
「何故そんなことが?」
「アイツらは樵が切った木や石切場で出た石を買って俺達に売るんだが、今は安く買い叩いていても新領都建設で大量消費が起これば値が上がる。
…誰だって高く買ってくれる人に売りたいからな。
結果、原料価格が高騰するんだが今契約している以上、原料費が上がったので値上げしてくださいとは言えないわけだ」
「何故です?」
「契約ってのはそういうものだからな。
逆に俺達が失敗して大量の建材を余らせても向こうは毎月決まった額で納品するぞ」
「…難しい物ですね」
眉を潜めている狩牙にその兄弟達。
幸い、次男の賢印が理解しているので良いけど、大丈夫かなこのパーティ…。
「向こうが頭を下げてこれば、こっちも救済出来るが、そうでなければどうにもならない。
プライドより命を大事にして欲しいのだがな」
フーッとため息をついて、嫌な想像を追い払う。
最悪フォックステイルの傘下に組み込めば双方にメリットがあるだろうが、人は時にプライドを優先する生き物だ。
特にマジメーノ辺りは俺を疎ましく思っているだろうし…。
まあ良い。
俺達はこの『地獄の入り口』で頑張って大金を稼ぐお仕事が待っているからな。
5年はこっちの持ち出しで領都を運営する気でいないとやってけんだろう。
まあ王国もガンガン支援金を出して、利権に食い込もうとするだろうが、お互いにメンツやらがあるので自前で出来るところは出来るだけやるべきだ。
ミネット王女がウチに降嫁すれば向こうは金を出して利権に食い込めるし、辺境伯家は初期の運営資金に余裕が出来るのだが、嫁の反対を押しきる自信はない。
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