第98話 ミーティアに着かなかった日
ミーティアから南には山脈があり、その山脈を越えた先にアタンタルが存在する。
地図でそれを確認した俺は竜化して、山脈をひとっ飛びと言う発想に思い至った。
基本的な人格は変わらないので、人がいなければ問題ない。
この山脈はワイバーンくらいしか住んでいないから安全だと言う後付けの理由で山脈をショートカットしようと考えた。
本音?
もう2ヶ月くらいマナやユーリカに会ってないんだ。
こっから1週間も掛けて迂回したくない! だな。
と言うわけで半月ぶりに竜化した俺は襲い来るワイバーンをおやつにしながら、山頂手前までやって来た。
そして、途方にくれた。
「思った以上に山がでかかった…」
10分の制限時間内に山頂までも到達しなかったのだ。
「とは言え歩いて5分くらいだから問題ないが。
問題はその先だな」
時間切れ寸前で慌てて着陸したからよく見えなかったが、この山の向こうに盆地があり、その先にミーティアらしき街がうっすらと見えた。
「正直な話、下手なことすると遭難するな。これ…」
選択肢は2つ。
盆地まで降りて、3日のリユースタイムを待つか。
強行して、ミーティアを目指すか。
1つ目の選択のメリットは遭難の危険性が減ること。
どうせマジックバッグに食料は詰め込んであるんだから飢える心配はない。
デメリットは次の竜化でミーティアに辿り着けないかもしれないってこと。
思った以上に距離があるし、鬱陶しいワイバーンを追い払いながらの飛行は距離を稼げない。
「それなりに旨いけどな。
魔力量はグリフォンよりだいぶ下だが、素材の味はこっちの方が上だ」
と、今大事なのは食べ比べではなく、遭難回避のための方針だな。
2つ目のメリットは、運が良ければ3日以内にミーティアに着くかもしれないってこと。
デメリットは当然遭難の危険性が跳ね上がるってことで…。
「ひとまず盆地まで移動しよう…」
どちらにしろ、こんな山の上では野宿も出来ないので盆地を目指した。
半日かけて盆地へ辿り着いた俺は、広さに絶句した。
数十キロはありそうな広大な土地だったのだ。
…しかも砂漠である。
所々に多肉植物のような物は見えるが後はひたすら、
「砂、砂、砂、石、砂」
マジものの砂漠だった。
「あれか?
四方を高い山に囲まれた地形のせいで雨が降らない地形ってヤツ。
…さて困ったぞ?」
砂漠ってのは森より遥かに迷い易い。
目印がないから自分の位置が分からなくなるのだ。
下手に踏み入るとまずいので、
「山裾に沿って砂漠を進むか…」
間違いなく、テレビなら良い子は真似しないでのテロップが出る方法だが、それ以外の方法がない。
一日だけ進んでそこから山越えすればファーラシアか、ミーティアのあるノレット共和国に出れるだろうと言う推測の元に一般人には無謀な行動を起こした。
砂漠をひたすら歩いて、日が暮れ出した頃。
山へ向かう獣道を見付けた。
「これは人がいるのかもしれないな…」
獣道は幅が狭い割に木々の半ばほどの高さまで傷が付いている。
4足獣の物とは考えにくい道だ。
加えてそれなりの頻度で行き来があったと思わせる程度には踏みしめられている。
山裾からわざわざ砂漠へ降りてくると言う非動物的行動からして、理性を有する存在がいることを思わせる。
「問題は草の繁り具合から見て、結構な期間使用されていないこと。
まあいきなり未開の地に放り出されて、思考が悪い方を向きやすいだけだろう」
無謀な真似をして自分から未開地に飛び込んだとは思わないことにした。
この獣道も冬の間、砂漠へ日光浴に来るためのものかもしれないしな。
「……行くか」
ゆっくり分け入れば、頭の高さくらいにある枝が切り落とされているのが分かる。
少なくとも道を整えると言う文化的な行動を取れる人に準ずる者はいるな。
「そんなに深い所じゃないのか?」
邪魔な木を5本ほどすり抜けた先で視界が広がり、村落らしき物へと到達した。
……そして後悔した。
「半ば廃墟と化した村落か…。
こういう限界集落ではちょっとしたことで滅亡もあり得るだろうし、それ事態は珍しくないだろうが、時系列がおかしいよな?」
獣道は使われなくなって、1年も経っていないだろうと言う感じだった。
対して苔の生えた屋根や倒壊した家屋から見て、家々の補修は数年単位で行われていない。
……嫌な予感がする。
現状を見るに生き残っているのは子供や年寄りのような弱者で、労働力となる成人男性が不慮の事故で死んだ村と言う推測が立つが、そんな連中を連れて山越えなんてしたら、1ヶ月くらいは掛かるんじゃないか?
「奥にある比較的まともな建物を覗いたら、すぐに引き返すか…。
!
…おかしい。
飛んで山越えを始めた時からか?」
俺の行動が迂闊すぎる。
理性的に考えれば、ここですぐに迂回するべきだ。
この村で生き残りがいたとしても、今なら知らなかったとやり過ごせるのに!
村の探索をしようとしている。
これが水や食料を求めてなら分かるが、俺は自分用のマジックバッグに必要な物資を入れているのだからその必要性がない。
…鑑定、解析
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 鷹山祐介 性別 男
種族 人竜
状態異常 誘引
レベル 11
能力
生命力 1792/1903
魔力 2233/2233
腕力 571
知力 582
体力 588
志力 511
脚力 590
スキル
技能 鑑定(13)
解析(2)
剣術(13)
ユニークスキル
竜へ至る魂(11)
アビリティ
竜の心臓(ー)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「誘引。
…引き寄せられていたのか。
俺の志力でレジスト出来ないって、どんな化物。
…ユニークスキルの類いかな?」
そうこうしている間にも俺は村の中央に向かって歩いていた。
……はいはい。抵抗しませんよ。
どうせ無駄なんでしょ!
素直に向かった他より少しマシな廃墟には、胸に短刀を突き立てて血を流す老婆がいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます