第97話 廃王子ロランド

 意気揚々とユーリスが、ミーティアへ向かっている頃。

 ファーラシア王国第1王子だったロランドは、アガーム王宮で国王のアガーム8世に土下座で面会していた。


「それで貴殿がファーラシア第1王子のロランドであるか?」

「はい。その通りでございます」


 鷹揚に問うアガーム8世に縮こまって返答するロランドは視線が合わないことを良いことに歯を食い縛って屈辱に耐えていた。


「目的はファーラシア王国の奪還であると訊いたが?」

「はい。現在ファーラシアは我が弟を名乗る不届き者が王位を奪い、私欲の限りを尽くしております。

 私は民のために故国を解放する義務が!」

「なるほど…。

 しかし、現在のファーラシアはマーキル王国とジンバッド王国の支援を受け、トランタウ教国も味方している。

 更に言えば、貴殿が起こしたレッドサンド王国との不要な争いを調停中とも聞いているのだ。

 現在の情勢で貴殿を援助したところで我が国が勝った後、貴殿はファーラシア王国の王として国政を担えるのかな?」

「私の後ろには守るべき民がおりますれば!」


 ロランドの根拠なき自信に首を振るアガーム8世。


「無理だな。

 我が国が侵攻すれば彼の4国とも互角に戦えようが、貴殿が王となった途端に再び反乱が起きて、次はその命を失うだろう」

「え?」


 大国の王の言葉に顔を青くするロランドを現実の見えていない小物と判断した王。


「貴殿とレンター王とでは状況が違うのだよ。

 レンター王には従う優秀な配下がおり、地盤となる諸侯もいた。

 彼は遠征先の事故で一時的に消息を絶っただけだからな。

 対して貴殿は王城にて差配していながら、王都を陥落させられて逃げ出した。

 貴殿とその配下の貴族に戻るべき地盤がないのだよ」

「ではどうすれば!」

「うむ。私も頼ってきた貴殿を放逐はしたくない。

 貴殿はパンプル侯爵家の血筋だったな?

 彼の家の孫娘と婚約して彼の家を継ぎ、ファーラシア解放後は、アガーム貴族のファーラシア侯爵として、現在の直轄領を治めると言うのはどうかな?」

「是非お願い致します!」


 これまでとうって変わって優しい口調で助言するアガーム8世を自分を案じてくれる恩人と思い込んだロランドは売国の提案を心から受け入れる。


「ではパンプル侯に迎えを寄越すように指示するので部屋で休みなさい」

「はい! ありがとうございます!」


 退室したロランドを見送ったアガーム8世は内心笑いが止まらないが、現実的な思考に切り替える。

 アガーム王国からファーラシアへ攻め込むルートは魔物の領域ばかりで細い街道を抜けねばならず、補給も儘ならないままになる。

 その状態で戦えば絶対に勝てない。

 ファーラシア単体ですら勝利は危ういと言うのが本音だ。


「将軍はどうすべきだと思う?」

「現状で攻め込めば、今回は干渉を避けた伝統貴族と新たに取り立てられた新興貴族が一致団結して、勝利出来ないばかりか、相手を利する結果となりましょう」

「だろうな。

 しばらく待つとどうなると思う?」

「ファーラシア王家の登用に不満を持つ伝統貴族と肝心な時に手を貸さなかった伝統貴族に不信感を持つ王家とは互いに対立していくかと思われます」

「そうだな。

 内乱の後はその辺の舵取りも難しい」


 小飼を贔屓しすぎれば古参の貴族が怒り、古参に気を使えば小飼が怒る。

 実に難しい舵取りだろう。


「…既に妙な差配をしているようですぞ?」


 宰相が口を挟む。


「何があった。

 密偵からの報告ですが、ベイス侯爵家を伯爵家に降爵し、その広大な領地と他の幾つかの領地を合わせた大部分を新参のマウントホークなる家に与えて、辺境伯としたとか…」

「そのマウントホークと言うのはあれか?

 レンターを護衛したマウントホーク名誉男爵の?」

「はい。そのようでございます」

「ククク。バカな奴だ!

 早速伝統貴族に気を使って、優秀な小飼を魔物の領域だらけの危険地帯に押し込みおった!

 早速、彼の可哀想な辺境伯を我が国へ誘ってやれ!」

「ではそのように」

「……」

「どうした? 将軍」

「いえ、マウントホークとやらが不憫でして…」


 沈黙する将軍に水を向けたアガーム8世は、将軍の言葉にため息をつく。


「…本当にですな。

 話に聞けば、彼の御仁は低層探索を単独で行える優秀な冒険者とのこと。

 それほどの人物がレンターなる小物に不遇の扱いを受けるとは。

 我が国へこれば、栄達出来たものを……」


 アガーム8世の内心を代弁するように宰相が愚痴る。

 実力主義を掲げるアガーム王国でマウントホークは既に人気者だった…。


「ウチに来たら優遇してやろう」

「頼みます。陛下」


 アガーム王国の上層部は意外と良い人が多いがそれをユーリスが知る術はなかった。

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