第95話 森の変化
グリフォン3頭を連れてやってきた『竜狐の森』。
この前案内された森の奥ではなく、森の南側から少し入った所に誘われたのだが、そこは、
「町だよな。これ?」
木造の家が数十件と建ち並び、中央にレンガ造りの道も敷かれた集落があった。
「お久し振りでございます! 主様!
…このグリフォン達は?」
困惑している俺に奥の方からやって来た豊姫が、声を掛けてくれた。
「久し振りだな、豊姫。
こんな所が森の中にあったんだな…。
グリフォンは手違いで保護した」
竜になって暴れた罪滅ぼしとは言えなかったので、当たり障りなく答える。
追求なく、町へと関心が移って幸いだった。
「いえ、ここはこの一月程で整えた場所でございます。
これから人間達との交流もありますし、宿屋と物品交換所を大至急で整えました!」
「え?
森の奥で必要以上に人と関わらない生活がしたかったんじゃないのか?」
「え?」
お互いに見つめ合ったまま固まった。
だってこう言うのって、大抵静かな昔からの生活を望むだろう?
ローラッドの冒険でもダークエルフの集落は近くの町との細々とした交易で終始していたし。
「折角の交易の機会ではないのですか?
主様が反対されるのでしたら、残念ですが諦めますが…」
狐耳と尻尾があからさまに下がってしまった。
「いや、賛成だぞ?!
だが、集落を今まで隠してきていたのだろう?」
「それは平原の狼達が人間をつけてやって来る可能性があったのでですが、今は我々の方が強いので問題なくなりました」
あ、問題なのは狼達の攻撃なのね。
じゃあ不味いことをしちゃったかも。
「俺は森への極度の干渉を嫌うかなって、街道を森の外縁上に敷くように依頼したんだが…」
「そんな…」
「いや今からでも訂正は効くし、宰相辺りは大喜びで計画を修正するだろうから。
けど年配の狐達は反発しないか?」
「しませんが?」
こういう時によくあるパターンを口にしたら、あっさりと返された。
しかし、
「けど、ミーティアへ送られてきたのは若い連中が大半だったぞ?」
年配組は精々賢寿くらいだったはずだ。
何処からが年配世代と言われても困るが…。
「逆です。
森を拓きたくないと反発する若い世代を主様の住んでいたミーティアへ送り、保守的な考えを無理やり変えたのです」
「?
年寄りよりも若年層が保守的だったのか?」
普通そこは集落の外に憧れる若者を年寄りが諌めるんじゃないのか?
外は危険だって。
「最近の若い世代は森の外に出たがらない引きこもりが多くて困っていたんです。
だから主様の要請と言う名目で無理やり追い出しました。
その後は森の解放が楽しみな年配層と一緒に町造りをしてましたが?」
「普通は外の方が危険じゃないか?」
「いいえ、森に襲来する狼の方が危険でした。
逆に冒険者になって出ていった同族も結構いるんですよ。
飢饉とかで一時的に人の世界に入り、森では小物扱いだった者が人の世界では活躍出来ると帰ってこないことも。
この森にいる年配層も説得されて戻された連中がかなりいます」
そういえば、コイツら並みの魔物より圧倒的に強い精霊獣だったな。
「対して最近の若いのは、森の中で事足りると森から出ようともせずに満足していて、不甲斐ないと嘆いていました」
外の世界を知らずに満足しちゃったパターンなのな。
「なるほど。ひとまず俺の使者として手紙を持たせよう。
王城に行く者を選定しておいてくれ」
愚痴が長くなりそうだったので強引に話題を逸らす。
「賜りました。
折角ですので宿に泊まって感想を教えてください。
最近は人の世界の情報に疎いので、流行り廃りが分かりません」
「ああ…」
豊姫に圧倒されて、『狐のお宿』宿泊客第一号になることとなった。
そこでは、木糖と言う特定の樹液を煮詰めて作る水飴、要するにメープルシロップだが、それを利用した多くの料理を味わい、更にそれを発酵させた木糖酒を味わった。
ただこの酒が旨すぎて前後不覚に陥った挙げ句、翌朝二日酔いで出立が1日遅れたのだけが蛇足だった。
……相当呑んで暴れたのか、豊姫が少し困った顔をしていたので、頻りに謝って森を後にした。
なお、グリフォンはここに残すことになった。
さすがに連れたまま他の領地に入るのは不味いと配下の狐達が申し出てくれたので…。
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