第87話 ドラゴン VS. グリフォン

 レンターの王太子就任に続いて、子爵へと昇爵した俺は、早速マウントホーク子爵軍を編成し、遊撃軍として、本隊に先行することになった。

 子爵軍とは言うが今回戦うのは俺だけ。

 軍の内実は、ジンバットやマーキル貴族のそれなりの家柄の三男以下とそれの護衛として、各々の実家から貸し出された兵士数人の集まり。

 …軍隊と言うより群衆である。

 そんな俺達はマーキル王国とファーラシア王国の国境付近に広がるベネット高地の攻略を目指す。

 ここは土地としての価値は低いがこの高地に住み着くグリフォンが近隣の街道を襲うので、レンター王太子軍やジンバット王国軍の行軍の妨げになる。

 ここを解放して物資の移送路を確保するのが目的だが相手はグリフォンである。

 魔獣としてはかなり上位に入り、過去には数体のグリフォンに壊滅した軍と言うのも多い。

 だから戦うのは俺だけ。

 竜化した俺がグリフォンを蹴散らすわけだ。

 なら何故、軍を率いてきたのか?

 …答えは脅しである。

 この貴族の子弟達は将来俺が治める領地の運営を手伝う家臣となるので、圧倒的な力を見せ付けてアホな考えをさせないように釘を刺すのが目的だ。


「この辺で良いか?」

「…水場もありますし、見渡す限りの草原で見通しも良いです。

 陣を張るのに適しているかと思われます」

「じゃあ準備を頼む。

 俺も準備が終わったら早速グリフォン退治に向かうから…」

「ハッ! お任せください!」


 俺の言葉に返答してきたのは、副官であり実際に軍を指揮することになるシュール・レッグ。

 マーキル王国レッグ公爵家の三男と言う高貴な血筋だが、軍内で肩身の狭い立場にいた可哀想な男だ。

 公爵家出の騎士など下手な任務はやらせられないのでしょうがないのだが、彼は暇な時間を剣の鍛練と軍略書の学習に充ててきた秀才君で、人当たりも良いので引き抜いた。

 将来はマウントホーク家の軍幹部となることを期待している。

 そんな彼は自分の護衛と手分けして、各人へと指示を伝えて回る。

 相手の実家に合わせた対応は見事。

 ……良い人材だ。




「閣下! 陣営構築完了しました!」


 シュール君に任せて、昼寝していた俺は彼に起こされて、ぐるっと周りを見回す。

 ……数十分程度でこれだけ準備が出来るのだし、本当に優秀な連中が多いな。

 ただし、俺に対しては不満げ。

 当たり前だな。自分の国の準王族とも言える少年を顎で使う元平民だ。

 表面上は隠そうとするだけましだ。


「さてじゃあ、俺はグリフォン退治に向かうから、後は頼むぞ?」

「はい!」


 シュール君良い子である。

 軍で燻ってるのを拾ったためか、忠誠心がいきなりマックスだった。

 ……彼にだけは俺がスキルでドラゴンになると言ってあるのだが、

『さすがは閣下!』

の一言で終わりだった。

 とまあ彼に後を任せた俺は家臣となった者達の作る輪の中心で竜化を行う。

 驚愕して震えている人間どもの中で目を輝かせているシュール君に若干引きながらも、


「それでは行ってくる!」


 と声を掛ければ、


「はい! 御武運を!」


 と頭を下げた。

 …うむ、人の身の程をわきまえた小僧だ。

 小僧に後を任せてそのまま飛び立つと、高地方面から10を超える数のグリフォンの群れがこちらへ飛んでくる様が見える。


『敵だ! 殺せ!』

『殺せ!』

『殺せ!』

『殺せ!』


 奴らの鳴き声は思念となって我へと届く。

 トリアタマ風情が我を殺すなどと戯れ言を!

 我は先陣をきるグリフォンの首へと一直線に向かい噛み付きに掛かる。

 驚いて首をのけ反らせようとするが遅い!

 ゴキッと言う骨の折れる音とグギュっと言うグリフォンの断絶魔を聞きながら、口に流れ込む血肉を味わう。

 ……豊潤な魔力を帯びた血の味が恍惚とした旨味をもたらした。

 最初は屈服させて、騎獣化を目論んでいたのだが…。

 そんな思考は目の前の旨い肉の前では無力であった。

 目の前の獲物を喰らえ、と言う本能にただ従うのみ。

 そもそも我ほどの上位者がこのような鶏肉を飼い慣らすなどと無駄な労力である!


『ヒィィ!』

『殺される!』

『逃げ、…グキュ!』


 逃げ出そうとする奴らの1体の翼を引っ掻き、バランスを崩した所を後ろから噛み殺す。

 …先程より旨い。魔力量が多くて血の雑味が消えているのか!


『お、落ちるぅぅ!』


 次はあえて翼に喰らい付いて引き千切る。

 翼のパサつく感じがいまいちだ。

 …地面に落下していく。面倒だし後で食うか。


『ウインドカッター!』

『墜ちろ! 化物!』


 墜ちていく1頭から目を放して前を向いた所を風の刃による斬撃。

 …なるほど軽い。

 鱗に凹み1つ付けられないとは情けない連中だ!

 なおも飛んでくる風刃を無視して、左側の首を噛み殺し、


『我が番を!』


 叫んで突進してくるグリフォンの体当たりに体勢をやや崩す。

 幾ら我でも空中では踏ん張れんからな!

 しかし、相手が離脱する前に体を捻ったテールアタックを加える。

 それだけで首が折れて落ちて行く脆さ…。

 体格こそ同程度だが、筋力や体力に倍近い差があるらしい。

 当然か。

 竜である我とグリフォンごとき、比べるまでもない!

 結局、3体を地面に落として残りは全て噛み殺す形で決着が着いた。

 3体も既に飛べなくなっているので、人化後に1体づつ首を刈れば良い。


 こうしてグリフォンの住むベネット高地は、マウントホーク子爵領に一旦組み込まれる。

 飛び地など役にも立たんので扱いは、レンターに任せようと考えながら、配下に命じてグリフォンの解体を行わせる。

 きびきびと指示に従うその姿に先程までの敵意を感じないので目的は達せられたようだった。

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