第84話 出立の日

 『フォックステイル』とのダンジョン探索から数日。

 行政府前から北門へ抜ける通りは多くの人が集まり、眼前を通るファーラシア王家の馬車を一目見ようと待ち構えていた。

 これは俺達からしたらミーティアにレンター王子がいたと言う証拠作りだが、何も知らない民衆からしたら、王族の顔を間近で見れるパレードだからしょうがない。

 パレードの開始は行政府前の広場を借りて俺の叙勲式。


「我、ミネット・ファーラシアの名の元に、汝、ユーリス・マウントホークを名誉男爵に叙す」

「謹んで拝命致します」

「うむ」


 片膝を付いて畏まる俺の返事を聞いた王女は、凝った作りの勲章を俺の胸元に付ける。

 これで俺はユーリス・マウントホーク名誉男爵。

 名誉男爵は実際の貴族ではなく一時的な叙勲のような物でしかないがこの爵位の効力は俺が死ぬまで。

 平民を一生男爵相当の者と認めた証となるのでその意味は重い。


「続いて、汝にこの短剣を貸し与える物とする」

「お受け致します」


 今回の護衛の最高責任者として任じられた証にミネット王女から与えられたのは、王女個人の紋章が刻まれた儀礼用の短剣。

 これは王女がいざと言う時に身を守るための短剣のレプリカであり、王女が自分の持つ最後の手段を弟に貸し与えたと言う儀式。

 これでこの道中にレンターにもしもの事があれば、その責任は全て俺が負うことになる。


「この剣に誓って責を全う致します」


 短剣を掲げてゆっくり一回りした後、北門へ続く道の手前に立つ。

 俺の後に続くのは女騎士ゲーテ。


「ゲーテ・ホウバッハ。

 汝を我が名代として、指輪を貸し与える」

「謹んでお受け致します」


 先程まで俺のいたについて、片膝を付いた女性騎士は王女が人差し指から外した指輪を受け取り、チェーンで首に下げる。

 こちらは王族の普段身に付けている装身具を授けることで、その代理としたことを喧伝する儀式だな。


「よろしくお願いします。マウントホーク卿」

「こちらこそよろしく。ゲーテ殿」


 隣にやってきた女性と挨拶を交わす。

 名誉男爵の俺とホウバッハ子爵令嬢の彼女だと身分は俺の方が上と言う扱いだが、王女の名代なのでほぼ対等と言う関係性なのだそうだ。

 ちなみに彼女が嫡子であれば、俺と対等の名代でやや向こうが上となるらしい。

 その話を聞いた俺とユーリカはウンザリとした顔を見合わせたものだ。


「レンター王太子殿下。ご武運をお祈り申し上げます」

「姉上も身体に気を付けなさい」


 俺が考え事をしている間にも王女が担当する最後の儀式が行われる。

 レンターが次期国王であり、ミネット王女より上だと周囲に喧伝する儀式。

 前に立つレンターに膝を曲げて軽く礼をするミネット。

 レンターは片手を挙げてそれに答える。

 そのままレンターが残って、王女が下がり、


「勇者杉田涼、勇者中野伸二、勇者御影地神、勇者大池道也。

 前へ」

「「「「はい」」」」


 今度は勇者達が前に出てくる。


「汝らを我が騎士とする。

 この身を守り、その任を遂行せよ」

「「「「我が剣に誓って!」」」」


 4人が近くにいたゴンザレスから剣を受け取り、それを掲げた。

 …さて再び俺の出番かな。

 4人が剣を腰に差して下がり、見届けたレンターも馬車へ向かう。

 それと入れ替わりに今度は俺が王子のいた位置に立つ。

 次の儀式は俺が護衛の最高責任者だと言うことを内外に示すもの。


「勇者杉田涼、勇者中野伸二、勇者御影地神、勇者大池道也。

 ソナタらを旗下に認める。

 異論はないか!」


 4人のフルネームを口にして問い掛ける。


「「「「ありません!」」」」


 4人とも右手を左手で包んで会釈をしながら答える。

 …これで指揮系統までハッキリした。

 『ディープライトニング』は出立式には参加しないので街門で合流する手筈。

 一応、彼らは外国貴族の扱いなのでここにいると後々問題になる。

 俺はそこまで黒姫に乗って移動し、そこでマナに黒姫を返しながらユーリカに後を託す予定だ。


「出陣!」


 パッパラパーパパパパー!


 俺が声を挙げると同時にラッパが鳴り響く。

 それを聞きながら黒姫に乗って先頭をゆっくりと進み始める。

 すぐ後ろにレンターとゲーテを乗せた馬車が続き、御者として杉田と大池。

 馬車の両脇で馬を歩かせるのは中野と御影と言う配列だ。

 ゆっくりと進み始める隊列からそれぞれ思い思いに手を振る。

 これが戦地に赴くなら旗手や兵士隊を組織するのだが今回の名聞は外遊なのでパレードはこれだけ。

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