第83話 闇ギルド=?

 予定は早まり昼前からの行動開始。

 原因は『ディープライトニング』に訊いた内容の返答による。と言うのも闇ギルドと称すべき連中の所在。

 経済制裁では対抗出来ないと判断したマジメーノ達はそういう連中を使って脅してくると踏んだのだが。


「そう言う連中は冒険者ギルドで雇うだろうな」


 と言うアドバイス? をもらった。

 曰く、


「大抵の国にはそう言う裏仕事専門の組織があるが大抵その土地の領主が運営している」

「ミーティアは各国の貴族子弟が集まるのでそう言う組織は出来ると同時に潰されて行くみたいよ」

「冒険者ギルドで『美味しい仕事』と言えば斡旋してくれることもあるみたいですが、余所者は断られるのが普通ですね」


 以上がフルヒートの仲間達による補足だった。

 前にも考えていたが、冒険者と言う形であぶれ者を『掃除』するシステムが構築されている国では、ゲームや漫画にあるような闇ギルドが、あまり発達しないらしい。

 だが、そう言う組織を必要とするのも事実。

 特に社会的権力の強い者が。

 だから力の強い権力者が治める領地にはそれなりの闇ギルドがあるらしいが、このミーティアには皆無。

 苦労して金喰い虫の闇ギルドを設立しても各国の集中攻撃で潰されるのがオチと言うわけだな。


「…つまり我々は冒険者の攻撃に注意すれば良いと言うわけですね?」


 一通りの説明を聞いた強面が総括する。

 暫定で冒険者パーティ『フォックステイル』のリーダーを任せた狩牙だ。


「ああ、考えられる攻撃として店で暴れるとかがメインになるだろう。

 安い賃金でそう言うことをしないと生きていけない連中だから能力も押して知るべしと言うところだ」

「冬の連中でも余裕でございましょう」

「そうだな」


 狩牙の弟、賢印(けんいん)の推測に頷く。

 生産系の冬の名を持つ女性陣でも基本ステータスは50超えである。

 一般的な上級騎士と互角レベルなのだから、ダンジョン探索も満足に出来ない底辺冒険者に負けないのは当然だ。

 それより気になったのは、


「…しかし、お前ら兄弟って本当に似てないな」


 『フォックステイル』として登録した5人は実の兄弟だ。

 元が狐の魔物だから兄弟が多いのは不自然でないが、長男の狩牙と3男裁牙は強面の大男で次男の賢印は線の細い美形。

 長女春風(はるかぜ)と次女春雨(はるさめ)の2人も美少女だし、狩牙達が異常なのか?


「それはしょうがないかと」

「と言うと?」

「我々は生まれて少し経つと能力に合わせた役割を与えられ、それを心掛けて生きます。

 それに合わせて能力も伸びていき、微妙な種族変化を起こしながら成長していくのですよ」

「なるほど」

「更にユーリス様の名付けで、それがより鮮明に作用した結果です」


 そう言えばコイツら精霊に近い生物だったな。

 肉体が精神に引っ張られやすいのか。


「納得。

 さて、お茶を飲んでの一服はこれくらいにして、ダンジョン探索を再開するぞ」


 ダンジョン『地獄の入り口』6層にある縦穴周辺は幾つか焚き火の後があるが、俺達はそれらと距離を取った一角に寝袋などを置き、火を焚いて一服していたのだ。


「当初の予定通り、1名がここで番をして残りの5名で探索。

 年下から上に上がって交代で数時間ほど13層付近を探索する」

「「「「「はい」」」」」

「最初は最年少の裁牙に頼む。

 今日の動きをみて、明日は他の層に挑むか、帰還するかを決めるのでそのつもりで」

「謹んでお引き受けします。

 兄さん達も気を付けて」

「頼むぞ。裁牙」


 俺の指示に頷いた裁牙が兄弟に声を掛け、狩牙が代表して肩を叩く。

 本当はもっと下の階層でも問題はないのだが、『ディープライトニング』の連中が主に潜っている13層をメインにして、ウチの『フォックステイル』が同格だと周囲に喧伝する。

 そこから冒険者ギルドに俺達への行動は不利益だと暗に伝えるつもりだが、こればかりは相手がいることだから上手く行くかは分からない。

 行政府や賢寿の掘出し物屋でも売って周囲に喧伝すべきか?

 だが、やり過ぎてこの街の冒険者ギルドの反感は買いたくない。

 ラーセンと違ってここは恒久的に拠点を置く予定の街だし、最低でも俺がそこそこの権力を得るまで避けるべきだろう。


「難しいバランスだな」

「どうされましたか?」

「裁牙か?

 『フォックステイル』の強さを喧伝するためにどこまでやるかのさじ加減を迷っていてな」

「全力でやれば良いのでは?」

「それをやって反感を買うと後々不利益を被る」

「…はあ?

 その不利益は我々では対処出来ないものでしょうか?」

「出来るが時間と労力の無駄になる」

「そうなのですか?

 ではダンジョンの入手物を3等分してそれぞれに納めても駄目ですか?」


 一瞬、単純な答えをっと思ったが、


「良いなそれ。

 公言しておけば互いの物が相手への喧伝になるし、喧嘩はそちらで勝手にとなる」


 例えば回復薬を6本手に入れたとして、それを2本づつ各所に納める。

 問題はギルドと行政府の価格差だが、そこは冒険者ギルドに対する借りだと証書を書かせておけば良い。

 ギルドが拒否れば、そのやり取りを告知するとすれば行政府の不満も買わないだろう。

 意図的に3すくみを作って牽制させてもらおう。


「詳しい調整は賢寿にやらせるかな?」

「それが良いでしょう。

 少なくとも自分は荒事専門です」

「そうだな」


 俺は仏頂面になる裁牙に苦笑してロープを降りる準備を進めた。

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