第85話 (異)世界の窓辺から

 ミーティアを出てた俺達は小国家郡の外縁をなぞるように北へ伸びるリギア街道を進み、出立から2日で北の国フォロンズとの国境を越えて、フォロンズの西の玄関口と呼ばれるビーズ子爵領ティティケに到達。

 この街は冒険者の国フォロンズの特徴を表すように質素な土壁の四角い家々が並ぶ街だった。

 同行するビーズ姉弟の招きに従って、彼らの父親と挨拶を交わした。

 晩餐でもてなしてくれた彼と何故か翌日模擬戦をすることになり、拳の挨拶となった。

 老いたと言え、さすが元深層探索者。

 技巧だけで俺と互角にやり合う古兵だったが、スタミナ切れで判定勝ちを拾った。

 2日ほど滞在して西進を始める日、レンターはトランタウ教国の枢機卿宛となる書状をもらった。

 国境を顔パスで通れるような便利アイテムだが、俺に押し付けてきたフォロンズ王への紹介状が余分。




 街道沿いに1日、国境を素通りした俺達は更にトランタウ教国内を4日進んで法都ラ・トランタウに到達。

 異世界でも宗教が儲かるのを証明したような豪華な建物が多い街並み。

 枢機卿への謁見を翌日に控えて、法都1と称される豪華な宿屋に泊まり、ちょっとしたハプニングに遭遇したが、翌朝無事に枢機卿と面会して、その日は枢機卿の館へ招かれた。

 更に翌日には教会所属のシスターによるラ・トランタウ観光ツアーが行われて、様々な名跡を見学することが出来た。

 夜には俺だけが枢機卿と共に法王陛下への内密な謁見を望まれ、ラーセンのトランタウ神殿の出来事がバレたのかと戦々恐々としたが、どうやらレンターが着用している『聖騎士の戦衣』と同じものが国宝としてラ・トランタウにも納められており、同じものを手に入れたら譲ってほしいと言う交渉だった。

 冗談で金貨5000枚を提示したらアッサリと出した挙げ句に、至宝級の戦衣をこの程度の額で譲る高徳の人だと褒め称えられた。

 後日談だが、当代の法王陛下が至宝級のアイテムを聖者から譲り受けた高徳の方だと言う噂が流れ、真相を知っているレンターから『枢機卿の地位くらいは平気で買えたでしょうね』と笑われた。

 …なお、ちょっとしたハプニングの結果。

 御影君の将来が決まったがそれは些細な問題だろう。





 ラ・トランタウはトランタウ教国の西よりにあり、法都出立から3日で教国を抜けて国境に。

 そこでジンバット王国の王弟率いる騎士団に出迎えられた俺達はジンバット王城まで丁重に案内された。

 馬達と並走する俺に最初はビビっていた騎士達も護送の4日で大分打ち解け、王弟殿下にいたっては娘婿にしたいと冗談を言うほどになった。

 中華風の建物が多い王都では国王自らが歓迎のために出迎えてくれた。

 なお、ジンバット国王と王弟殿下はマーキル先王の妹の子供。

 レンターの大伯父に当たるらしい。

 レンターが王になるのとならないのでは、国益に雲泥の差が出来るだろうな。

 ちなみに慣れない酒をうっかり飲みすぎた杉田と中野がお持ち帰りされたらしい。

 杉田の相手は侯爵家の跡取りの娘で美少女、中野は伯爵家の伯妹の美女だし、翌朝会った連中の顔は満更でもなかったので、大事にすることもなく納めた。





 王弟殿下の護送は目的地のマーキル王国王城まで続いた。

 ジンバット王国の街並みに似て赤い屋根と柱の目立つ家屋が多いマーキルの首都に無事にレンターを送り届けた俺達だったが、そこで凶報を聞かされる。

 ロランドが元帥となり、レッドサンド王国と開戦すると言う話を聞いたのだ。

 元帥とは国軍の統括者であり、それは国王と同義である。

 ただ、ロランドが戴冠したと聞いていない点から、レッドサンド王国と戦争を起こして無理矢理緊急事態に陥れ、うやむやの内に王位を簒奪する気だろうと言うのが俺達の考えた推測だ。

 事態が事態なので、着いた翌日にはレンターの王太子就任を宣言し、翌日俺が子爵、勇者達の内、杉田が子爵。他が男爵となる叙勲式を執り行うことになった。

 俺の方は予定通り。

 杉田はジンバットの侯爵家の娘と懇ろになったので1階位飛ばし、他の勇者は順当にと言うわけだ。

 無論、勇者達で階位に差を付けるのは危険なので、杉田はジンバット王国の嫁の実家から、物資の支援をする役となり他は前線に出ることとなる。

 早速囲い込まれている勇者達の中で唯一婚約者無しとなった大池が真面目にお酒を断って損したといじけていた。

 だが、見た感じマーキル王城のそこかしこからヤツを狙う猛禽類ような目の令嬢達がかいまみえた。

 …出立までに喰われるんじゃないか? あれ。

 15歳の中学生だからこれって日本だと犯罪だが、まあこの世界だと成人だしな。

 …知らんふりしておこう。

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