第78話 今後について

「まず、ミーティア行政長に挨拶をしましょう。

 それでレンターの生存を公式に主張出来ますわ」

「…そうだな。

 その際は勇者が同行しろ。

 俺はやめておく」

「あら?

 なぜですか?」

「簡単な話だ。

 俺がレンターを連れてきたって情報は隠したい。

 俺達一家とレンター・ファーラシア一行はこの国で初めて出会うのだ。

 なんとか自力で落ち延びてきたレンター達が他国へ移動したい。

 そこにお節介な貴族が世話を妬くことを買って出る」

「よろしいのですか?」

「後で稼ぐ、咎められても困るしな」

「私もその方がありがたいですけど…」

「ん?」


 ミネット王女は超優秀だった。

 俺が省いた情報を即座に汲み取り、確認をしてくれる。

 そんな王女が少し口ごもったのが気になるが今は良いか。


「何かすごく意気投合していて怖いんですけど…」

「気にするな」

「気になりますよ!

 何でここで出会ったことにするんです?

 ユーリス殿がいなければ私達は死んでたかもしれないのに!」

「殿下、畏れながらそれこそが我が主達の思惑に御座いますかと…」

「ゴンザレス?」

「ユーリス様は殿下が侮られ、その威を落とすことを危惧されたのです。

 自力で窮地を脱せぬ王子に付いていって大丈夫かと将兵が不安を感じれば士気に関わります」


 ミネット王女に付いていた執事が解説してくれるらしい。

 コイツも何気に優秀だね。


「我が主はユーリス様がそれで得た多大な功績を棄てても良いかを問われ、ユーリス様にとってはすぐに稼げる程度の功績だと返されました」

「けど!」

「もっと言えば貴族足るマウントホーク家の方がファーラシア王国内で無断行動をしていたと糾弾されても困ると言うことにございますよ」

「くれないか?」

「セット販売ならよろしいですわ?」

「財務大臣に相談してくれ」

「光栄の限りでございます」


 ゴンザレスのあまりの優秀さに将来引き抜きたいと冗談を言えば、私を嫁にしたら付いてくわと冗談で返された。

 やり取りが楽しいけど、ウチの財務大臣ユーリカ様に相談してくれと言質を取らせないことにする。

 俺達のやり取りに、ゴンザレスは優雅に礼をして更に俺の購買意欲を高めてくれた。


「俺は数日で軍資金と戦力を用意して、貴族としての体裁を整える」

「私達からも出したいんですけど…」

「ギリギリの人数なんだろう?」


 何時か嫁ぐ王女に潤沢な予算は与えられないよな。


「ええ…。

 ツリーベル男爵邸に居候出来ないですか?

 レンターのこともありますし?」

「そんなに危ういのか?」

「3人ほどいますわ。

 下男下女だからよほどいいとは思うのですけど…」


 ロランド派閥の使用人が紛れていること事態は想定内だが、


「……多くないか?」

「姫様の立場で考えれば普通でございますね。

 しかし情報伝達の齟齬は有り得ますし、固まっていた方が安心かと…」


 妹の周囲にまでスパイを配置するのが普通ね。

 さすが王族、殺伐としている。


「怪しまれる可能性は?」

「本国の状況的に大丈夫かと思われます」


 ごたついていて気にかける余裕もないか。

 それはどうかな。

 …いや、それを含めてこちらで守った方が安心だな。


「今、ウチは部屋が余っているのは間違いないし、下宿料の代わりに侍従の教育を頼めるか?」

「貴族として取り繕える程度は保証します」

「ユーリカ、マナ。

 ミネット王女とその側近を家で面倒みたいが良いか?」

「良いんじゃないかしら?

 あの広い家の管理が大変だと思っていたし…」

「私も良いよ!」


 …決まりだな。

 王女との同居は学園に置けるマナの保護にも役立つだろうし。


「引っ越しは…」

「すぐにでも取り掛かります。

 元々あの家は予算の関係で断念したものですし。

 皆知ってるからそこまで驚かないでしょう」

「姫様、ゲーテ様についてですが」

「ええ、レンターに付けるわ。

 私の名代って形にします。

 学園に迎えを出してちょうだい」

「たまわりました」


 ゴンザレスが一礼で答える。


「ゲーテとは?」

「ゲーテ・ホウバッハ。

 私の側近をしてくれている騎士でホウバッハ子爵家の次女です」

「味方か?」

「師匠、何言ってるんだ?

 留学に付いてくるんだから当たり前じゃ…」

「半々と言ったところでしょうか?」

「え?」

「家との確執?」


 不信な顔で呆れて王女の即答に絶句する中野。

 それを放置して問う。


「そうですね。

 あの子は私に忠誠を捧げてくれてるのですけどホウバッハ子爵家は愚兄を支持するコッスイ伯の寄子なので」

「うむ。

 厄介な話だがこっちに同行させれば家族との連絡を断てるか…」

「ええ、ホウバッハ卿と嫡男があっち寄り。

 母親と姉はこっち寄りですわね」

「そうなのか?」

「母親のホウバッハ夫人はコッスイ伯の従妹ですけど、家族なりの確執があるみたいなのですわ」

「なるほど」

「従兄が嫌いって…」

「どれほど品行方正を心掛けた所で誰ぞ彼ぞに嫌われる。

 血族だから拗れることもあるしな」

「そうですわね。

 そもそも勇者様方は私の兄と弟の争いの巻き添えですわよ?」


 俺とミネット王女の会話に暗い顔をする勇者組。

 しかし王女の名代が付くのにマウントホークと言う貴族ってのは都合が悪いな。


「それでこれから内紛が起こるわけだし、まさに血で血を洗う争いとなるだろうな」

「本家への不満から相手の陣営に付く分家もあると思いますわ」

「…だろうな。

 さて、ゲーテ嬢は父親とやり取りさせなければ安心だと理解した。

 レンターの生存公表後、すぐに旅に出るわけだしよほど問題ないな」

「私からもそれなりに言い含ませておきますわ」

「助かる。

 …引っ越すまではレンターと勇者達はこの家に置いて貰えるか?」

「そうですね。

 この街へ一緒にやって来たのは身分を隠していたレンターと善意の第三者の縁。

 その縁から弟の護送を買って出てくださるのでしょうか?」

「そうだな。

 ついでに予定変更で形上のスポンサーそちらで良いか?」

「…よろしいので?」

「俺は花。そっちが実で良い」

「助かります」


 理解が早くて本当に助かる。

 ついでに勇者と仲を育んでくれると助かるが、そんな時間はないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る