第77話 ミネット王女のお茶会

 招待状差出人はファーラシア王国の第1王女ミネット。

 内容はマナをお茶会に招待したい。

 その際は是非両親も同席してほしいと言うもの。

 こちらとしてもレンターを堂々と紛れ込めさせれるので渡りに船とばかりに了承の返事をだし、レンターには念のため、『鬼の祠』にある宝物庫でゲットした『戦神の重鎧』を着せようとして、マジックバックに入れる際に解体した影響で装備品として使用出来なくなっていることが判明。

 次案として、『聖騎士の戦衣』を上から被らせることで顔を隠すことにした。

 その際に発覚した不具合を解析した結果。

 防具を解体して詰めた代物は優秀な錬金術師に依頼して修復してもらう必要があると分かった。

 なお、レンターが汚い布袋にくるんでいた『聖騎士の戦衣』を着ることに非常に難色を示したことは割愛する。

 貴族が乗るような箱馬車に乗って、王女の滞在する館にやって来た俺達は王女本人に迎えられて、中庭にあるテラスへ導かれた。

 …異常な厚遇である。

 既にレンターがいることを知っていたか? と勘繰ったのだが。


「マナ・マウントホークとそのご両親様、改めましてファーラシア王国第1王女のミネット・ファーラシアです」

「パパ…」


 主賓がマナで俺達がオマケである以上は、マナに話し掛けるのが正道であるとは言え、8歳児に振るなと言いたい。

 言い回しから見てレンターに気付いてはいないようだが?


「畏れながら私共は巷で言われるような貴族ではございません。

 無位無官の冒険者にございます。

 そのようにお扱いいただきたく」

「失礼しました。

 しかし御身は知性持つ魔の王の1柱でございましょうに?」

「何のことでしょうか?」

「御身もまた『鑑定』をお持ちの方でございましょう?

 どうぞご確認くださいませ」


 両手を広げて無防備に立つ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 ミネット・ファーラシア 性別 女

種族 人

レベル 11

能力

 生命力 38/38

 魔力  28/28

 腕力  15

 知力  36

 体力  14

 志力  38

 脚力  16

スキル

 才能 鋭き眼光(3)

    威厳(2)

    偶像(3)

 技能 鑑定(6)

    看破(4)

    水魔術(3)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「『鋭き眼光』鑑定のレベル習熟に上昇補正、看破を習得及び志力によるレジストの一部無効。

 『看破』レベル以下の偽装無効。

 …なるほど、私が『人竜』なので魔物と判断したのですね?」


 しかしそれ以上に素晴らしく権力者向きのスキル構成。

 周囲にプレッシャーを与える威厳と人の好感を上げやすい偶像とか、レベル次第では狂信者を率いる皇帝にさえなれそうなスキルだ。


「もちろん最初からあなた様を疑った訳ではございません。

 非常に優秀な成績で編入したと言うお嬢様に『魔竜の加護』と言うスキルを見て、御両親のどちらかが竜種と縁を持つのかと…」

「そうですか…」


 まあどんなカラクリがあるか疑うよな。

 8歳児が高難易度の試験に合格して誰が純粋にレベルによる実力と思うか。

 ましてや王族として裏の世界も多少は見てきた女性が。

 しかし逆に気になるのはそんな立場のミネット王女が俺の種族を見て遠ざけようとしないことだ。

 既に杉田達が勇者と見たのか? それかレンターがいるから?


「師匠、師匠が魔王ってどう言うことだ?」


 こちらが相手の出方を警戒していると御影がコッソリ聞いてくる。


「魔王じゃなくて魔の王でございますよ?

 勇者様」

「え、ええっと?」


 王女に返答されてまごついた。

 しかも御影の行動を不信に思ったのか、鑑定までされるおまけ付き。

 コッソリ聞くってのは相手の視線が外れている時に出来るものだ。

 俺を注視している現状で通用するはずがないだろうに…。


「失礼しました。

 魔の王とは人ならざる者を従える者を指します。

 知性有る者の敵対者足る魔王と呼ぶのは問題ですので指摘させてもらいましたわ」

「こっちこそすみません。

 真横で内緒話とか気分が悪いですよね」


 お互いに頭を下げる御影とミネット王女に、勇者と王族で立場的にもお似合いだし、このままくっつくかな。

 などと冗談を考える。

 ここには俺にとって都合の言い妄想も若干含まれている。

 ミネット王女が他国に嫁いだり、有力貴族に降嫁したりするとまた揉め事の原因になりかねん。

 その点、元から後ろ楯の弱い勇者との婚姻なら面倒にならんし、勇者と言うラベルは煩い貴族を黙らせる看板になる。

 少し揺さぶってみるか?


「勇者殿も王女殿下もすぐに謝罪できるのは人として立派なこと。

 それとも相性が良いので?」

「し、師匠!」

「今の私は学生の身分に過ぎませんので…」


 御影は当惑しながら若干顔が赤いし、脈はありそう。

 王女の方はアッサリとかわしてきたな。


「ですので御身も私共には目上として接してくださればと思っていますが?」

「王女殿下は良くとも配下の皆さんの気分はよろしくないでしょう?」

「でしたら、対等と言うことでいかがでしょう?

 勇者様のお師匠になられるのですよね?」


 俺の探りに気付いたのか、利用して逆撃してくる。

 本当にロランドの妹か?


「そうですね。

 これから同じ道を歩むのですからここは盟友として…」


 レンターのことを打ち明ける前振りに同じ道と表現したら、顔を真っ赤にした?


「まさかいきなりのプロポーズを受けるとは思いもしませんでしたわ!」


 …なんでやねん!

 内心で突っ込みを入れつつ対応を考える。

 しっかり否定しないとそう言う噂は怖いが、かといって直球で否定すれば王女に恥をかかせたと言うレッテルを貼られかねない。


「私は妻子有る身です。

 殿下には私などよりよほど素晴らしい方が現れるでしょう」

「そうですか。

 …ではそれを楽しみにしておきましょう」

「ええ。それと盟友と称した理由として、この見るからに怪しいのを見てもらえますかな?」

「敬語…」

「失礼。

 この見るからに怪しい奴を鑑定してください」


 ミネット王女の不満顔に言い直す。


「あら? 顔を隠していたのですっかりそう言う趣味の方とばかり…。

 レンター?

 やっぱり生きていたのね!」


 こちらの冗談に冗談で答えた王女は顔を隠した男がレンターと知って喜びの声を上げる。

 …やっぱりねぇ。

 この王女本当に優秀だわ。


「怪しい格好はユーリス殿の指示でしょうに!」


 戦衣を脱いだレンターが真っ先に俺に文句を言うが、


「指示はした。

 実行したのはレンターだ」


 と平然と返しておく。

 顔をひきつらせるレンターを尻目に、


「さてこれからの方針を含めて、情報交換をしよう」


 と提案をする。

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