第66話 バーニッヒ冒険者ギルドにて
街から少し南に行った先にある丘の麓で一夜を明かした俺達は眠い眼を擦りながら、冒険者ギルドの受付に依頼失敗の報告をした。
そこで返ってきた言葉は、
「…やはり出てきませんでしたか」
と言う突っ込み処満載の一言だった。
「やっぱりって何ですか!
街の近所で野宿する羽目になったんですよ?
いつ来るかもしれない山賊を待ちながら、必死に頑張ったのに!」
珍しく大池が激昂した。
コイツら俺が寝ずの番をするから寝ていろって言ったのに結局寝れなかったのか…。
朝方の一番襲撃が高いだろうタイミングでコンディションを整えてやろうとしたのに。
「えっとですね。
実は一昨日にちょっと変わった集団が来たでしょ?」
「変わった集団?」
「いたか?」
「さあ?」
受付嬢の話に首を傾げる。
勇者達も心当たりはなさそうだ。
「一昨日、貴族らしき少年と護衛の騎士が4人。
これだけでも警戒心を煽るんですが、そこに女戦士が4人と強そうな戦士の少年が1人。更に巨大な軍馬に乗った少女が1人。
どう考えても後者は家族でダンジョンや戦場を渡り歩いてる歴戦の傭兵集団でしょ?
こんな集団が現れた以上は、当分山賊行為なんてしませんよ?
少なくとも傭兵集団がこの街を去って数日は大人しくしてるでしょうね」
変わった集団は俺達だった。
…俺が山賊でも我慢するな。
騎士と傭兵が両方いる時点で裕福な上級貴族の子供とか疑うわ。
「どうするんだよ? 師匠?」
「…しょうがない。
依頼を放棄して先に進むぞ。
俺達にはあまり時間もないのだ。
…最後の餞別にするつもりだったんだがな」
「比較的簡単な依頼でしたら…」
気を効かせてくれる受付嬢には悪いが、
「いや、金の問題じゃない」
と断る。
「はあ?」
「この甘ったれたガキどもに人を殺す実地訓練がしたかっただけさ」
「超嫌な餞別だった!!」
「これから必要になる物だぞ?」
「そうですね…。
ギルドとしてもその経験があるかないかで依頼の選択幅を調整しています。
機会があればやっておいて損のない話ですね」
御影の絶叫に冷静に返すと受付嬢も同意した。
その内容に暗澹とした顔になる勇者組。
「やっぱそう言うのもあるんだ?」
「はい。山賊狩りなどを経験していれば護衛のような対人戦確率の高い依頼を受けられるようになります。
そして護衛を完遂出来れば信頼性の高い冒険者として高いリターンの依頼が増えますよ」
「なるほど」
「まあダンジョンメインの冒険者にはあまり見向きされないんですけど、歳と共にダンジョンでの仕事って難しくなるんですよ?
若いうちから移動時は護衛を引き受けれるようになっておくと将来安泰ですね」
受付嬢らしく冒険者を想った忠告だな。
問題は若い冒険者にこれが響かないだろうと言う点。
当たり前だが、これからダンジョンで一山当てようとしている連中が歳を取った後の心配をされても想像できまい。
「……そうなんだ」
「どこがファンタジーだよ…」
「帰りたい…」
「……」
案の定、意味合いは少し違うが心が折れてる勇者達がいた。
さて、ここにいても意味がない。
「依頼放棄の弁済は?」
「……今回はありませんね。
これは不測の事態ですし、結果的に数日山賊が大人しくなるのは間違いないので…」
「そりゃ良かった。
あ、今日の昼から北部にあるベンシャに旅立つ予定なんだが、地図ある?」
「地図ですか?
少々お待ちください」
「師匠、出発は明日じゃなかった?」
「予定は未定だ。
気まぐれで今日出るかもしれんだろ?」
…あの受付嬢の態度に違和感があったんだよな。
上手く行けば良いけど。
後は山賊との化かし合い。
馬車に全員隠して、俺だけが御者席に乗れば上手く行くかな?
……上手く行ったら儲けものくらいか。
元々、勇者達に殺しを経験させるのが目的の依頼だ。
依頼放棄してからだと報酬がどうなるかも分からんし。
「こちらでよろしいですか?」
地図はこの街を中心にしたもの。
カマ掛けかな?
「出来れば北部の詳しい情報が載ったものが良いんだが?」
「それでしたら、もう少しお待ちください」
「師匠、目的地って……。
何でもないです」
中野が余分なことを言いそうだったので睨んでおく。
さて、準備をするか。
「……何か悪どい顔してるな。危機感知が反応してる気がする」
「じゃあ、ガイヤがどうにかしてよ…」
「無理言うなよ。師匠だぞ?」
人聞きの悪い会話をしている御影と大池は後で説教するとして、宿で皆に今後の予定を説明しよう。
こんな街の近くにいる山賊が未だに討伐出来ていないんだから、内通者を疑うのは当然だがこの子供達がそこまで考えたかも聞いてみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます