第63話 初めての戦争

 森を抜けて数日。

 辿り着いた先には兵士が軍陣地を建設中だった。


「…これは一体?」

「妙よね。

 何でこんな所に集まっているのかしら?」

「……最悪の最悪かねぇ」

「と言うと…」

「この紛争自体がレンターを殺すための狂言ってことさ。

 ちょっと信じがたいがな…」

「そうよね。

 そんなことになれば戦争になってしまうものね」

「ああ。

 国としてのメンツを潰されたファーラシアが全面戦争以外の選択肢をとれるはずがない。

 でなければ貴族の離反を招くぞ?」


 自分の身内も守れない奴が子分を守ってくれるなんて誰も思わない。


「そうよね。

 でどうするの?」

「素通りするだけさ。

 ここに陣を敷いてるってことはここより先にいるってことだ」

「それもそうね。

 おバカなのかしら?」


 まあ重要人物が近くにいますよって言ってるようなものだしな。

 けど、


「どうだろうな。

 例え無理をしてでもここで殺す必要があるのかもしれん」

「無理をしてでも?」

「例えばメンツを潰されるような目に遭わされたとかな」

「あの子達はあなたと違って無茶はしないと思うけど…。

 事故でもあったのかもね」


 俺と違うって言い回しは引っ掛かるが、事故ねぇ?

 殺し合いがあれば当然そう言うこともあるが…。

 さすがにあんな子供達に返り討ちに遭う馬鹿に同情は出来んな。


「さて行くぞ」


 この時俺はロウン以降、人の女性に化けている春音と秋音を加えた俺達は俺以外女性のパーティで、立派な軍馬に見える黒姫を連れた兵士の格好の的になるものだと言うことを忘れていた。


「止まれ!

 お前達何者だ!

 この先に何のようだ!」

「ただの冒険者だ。

 ここから東のアガーム王国に抜ける予定だ」


 陣地の前で呼び止める兵士に冒険者であることを明かす。

 極秘任務中なら当然干渉はしない。

 下手な干渉で疑われた場合はリスクが大きいから。


「待て!

 こんな女子供ばかりの冒険者など聞いたこともない!」

「怪しいな。

 連れている馬も妙に立派だ」


 …アホな難癖を。


「冒険者なんてそれぞれだろうが!」

「うるさい!

 今は軍事統制中だ!

 この馬は徴収する。

 ついでにこの女達もな!」

「はあぁぁ」


 呆れながら一閃する。

 アホな難癖を付けてきた奴の首を…。


「へ?」


 ゴロンッと言う音を聞いた周囲の兵士が間抜けな声を上げ、次いで青い顔になる。

 状況をみるに王子とその護衛を追い詰めている自分達を強者とでも勘違いしていそうだな。

 …しかし勇者のガキ共め、人が殺せなかったな?

 でなければこの程度の雑魚がここまで増長するはずもないだろうに。

 自分から戦火を広げやがって。

 10人ほど殺しておけば、追撃なんてされないだろうが!

 コイツら格好だけは兵士だが、職業は農民になってるんだから徴兵だろ?

 今も悲鳴を上げて逃げていく。


「何事だ!」


 奥のテントから鎧を着た貴族らしき男が出てくる。

 指揮官か。頭に無能が付くだろうが…。

 何で現場監督の出来る者を常駐させない。100%不測の事態になるに決まってるだろうが。

 そいつは兵士の耳打ちを聞いているが、


「貴様ら! 冒険者風情が作戦行動中の我が軍を攻撃しただと!」

「馬鹿を言え!

 急に略奪行為をしようとしたから反撃しただけだろうが!」

「何を!」

「俺達が連れている馬を奪い、女性陣を拐かしそうになっただけだろうが!」

「な、お前達!

 何故そんな馬鹿な真似をした!」


 俺の怒鳴り返しで、実状を知った貴族が兵士を叱りつける。

 馬鹿はお前だろうに。

 ただの領民兵を拘束してるんだぞ?

 監督放棄すればアホな小銭稼ぎくらい考える。

 しかもここで訊いたぞ!

 更に犠牲を広げる結果になるのに! ……いや、わざとか?

 コイツも想定外の長期戦で鬱憤が溜まっていたら、それを晴らすために弱い者虐めをしたくなるかな?

 ……竜化出来るだけの体力もあるし、開戦直後にブレスで一撫でするか。

 ユーリカに耳打ちしておく。


「襲撃中の王子への援軍かと…」

「声が小さい!

 全然聞こえんぞ!」


 ボソボソと報告する兵士に声を上げさせる…。

 やはり確信犯だな。


「我々が襲撃中の王子への援軍かと思いました!」

「馬鹿者!

 時間を考えろ!

 王都に連絡が行くまでまだ数日掛かるわ!

 しかも民間人に聞こえるような大声で報告しおって、この者達を拘束する事態になったではないか!」


 しれっとよく言う。


「すまないが拘束させてもらうぞ?

 食事は提供しよう。

 貴重な兵糧故にそれなりに働いてもらうがな!」

「断ると言ったら?」

「もう冒険者は出来んよ」


 取り繕うなよ。

 どちらにしろ殺す気だろうが!


「何で勝った気でいるかな?

 こんな立派な軍馬を所有出来るほどの高位の冒険者だと言う推測も出来んのか?

 まあ俺は違うが…」

「何を言ってる!

 男は殺せ!

 女達は捕らえ、……え?」


 貴族の言葉を無視して竜化する。


「ドラゴンだ!」

「助けてくれ!」

「ええい! 騙されるな!

 人が竜になどなるものか!

 ただの幻だ! ほれこの通りに手が素通り…しない?」


 逃げ始める兵士を止めようとする貴族が俺の自慢の鱗に触る。

 下衆が穢い手で触れおって!!


「ガアァ!」


 収束させた高温ブレスで殺菌もかねて焼き尽くす。

 それだけでガラス状に溶けた地面を残して消え失せる。

 ……生命力を120くらい使ってしまった。

 勿体ないし、時間もないのに!

 カッとなってやってしまったか。


「フゥゥゥ!」


 今度は広範囲を炙るブレスに切り替える。

 弱く広く炎を撒き散らすつもりで、…テントや薪などにも火が付くのでかなり高温みたいだが。


「いだい!」

「だずげ…」

「「ううぅ…」」


 不運にも直撃しなかった連中の呻き声だけが響く地獄がそこに生まれる。


「ドラゴンじゃん」


 竜化により強化された俺の耳が森から聞こえた呟きを拾う。

 これは御影の声だな。

 思ったよりも近くにいたらしい。

 翼を広げてそちらに向かう。

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