第57話 魔狐の森 3

 結局、離れられない森の主の代わりに、今年で10歳になる双子の霊狐を引き連れていくことになり、森の主に豊姫(トヨヒメ)、双子の姉妹に春音、秋音と名付けた。

 豊姫は伊勢外宮で祀られる稲荷の豊宇気毘売命(トヨウケヒメ)から。伏見稲荷の宇迦之御魂(ウカノミタマ)と迷ったが、字面から豊姫にした。

 双子に関してはネタ切れで実りの秋、秋の対義的に春と言う安直なネーミング。

 その事を笑われたが、まなから聞いた黒姫の由来が某世紀末覇王の馬だと知って同類だと思ったのは内心に留める。

 主達の住む森の奥で夜を明かし、翌朝を迎え…。


「おはようございます」

「おはよう。

 …何故にメイド服?」


 俺達を起こしに来た豊姫がメイドになっていて固まった。


「今日から祐介様の配下ですのでそれに相応しい格好に化けてみましたが?」

「……まあ良いけど。

 それで森の外までは案内してくれるか?」

「お任せください。

 東側のロウンのそばまでご案内します」


 森の中でメイドがいる状況にシュールさを感じながら話題を剃らす意味も込めて、昨日の再確認を行う。

 昨日は夕暮れまでに森を抜けれるであろう状況だったがそうなると街道での野宿か、ロウンの町で泊まるかの選択を迫られ、必要以上に目立つと言う。

 結果、豊姫達の住む森の奥で1泊となった。


「助かる。ついでにロウンからの行き先だが…」

「おはようございます!

 ご主人様!」


 更に詳しく話を聞こうとした所で、黒姫よりも大きい2頭の狐がやって来て、1頭が元気良く挨拶してきた。

 もう1頭もペコリと頭を下げる。


「……どちら様で?」

「春音ですわ」

「秋音です…」

「…昨日の3倍くらいになってないか?」

「ユニーク化によるランクアップですわ」

「それで大きくなったと?」

「はい。

 ご主人様の竜気を受けて霊狐から竜霊狐になりました!」

「私は狐竜に…」


 姉と妹で種族が違うのか?

 ひとまず、鑑定&解析。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 春音 性別 女

種族 竜霊狐

レベル 7

能力

 生命力 121/121

 魔力  89/89

 腕力  46

 知力  98

 体力  51

 志力  71

 脚力  90

スキル

 才能 霊術の才(4)

 技能 霊術(8)

    治癒魔術(3)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 秋音 性別 女

種族 狐竜

レベル 7

能力

 生命力 211/211

 魔力  54/54

 腕力  89

 知力  50

 体力  94

 志力  49

 脚力  98

スキル

 才能 高身体能力(5)

 技能 槍術(3)

    弓術(5)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 前衛系と後衛系のステータスの差か?

 レベル7で既にレベル20くらいの勇者と同格。

 やはり魔物は人間より基本的な能力値が高いな。


「確かに竜霊狐と狐竜となっているな」

「はい!

 全てはご主人様の導きです!」

「コクコク」


 2頭の狐が楽しそうに俺の周りを回る。

 それは、


「お前達!

 少し落ち着きなさい!

 祐介様のご迷惑です!」


 豊姫の一喝を受けるまで続いた。


「豊姫もやはりランクアップを?」

「そうでした。

 ご報告が遅れ申し訳ございません。

 私は大竜狐へと昇格しております!」

「そうか。

 …能力が上がればこの森を護るにも優位となるだろうな」

「はい!

 よほどの相手でなければ負けはないかと思います」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 豊姫 性別 女

種族 大竜狐(人化中)

レベル 34

能力

 生命力 326/326

 魔力  167/167

 腕力  211

 知力  351

 体力  190

 志力  302

 脚力  296

スキル

 才能 巫術の才(24)

 技能 巫術(28)

    霊術(21)

    治癒魔術(19)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 豊姫のステータスは高いけど…。


「レベルの割には低い気もするな」


 春音や秋音のステータスでレベルを27上げたとすれば、これより高いステータスになるのは間違いない。


「私はダンジョン外で暮らしてきた魔物ですので…」


 恥ずかしそうに謝られた。

 ダンジョン産かどうかで魔物にもコンプレックスがあるのだろうか?


「まあ、戦闘能力を重視してるわけじゃないから…。

 それよりもここの護りは頼むぞ?」


 この辺は相談の結果だが豊姫にはこの森の管理を行ってもらい、俺が爵位を得る時にこの森を俺の領地に入れる。

 森から得られる産物と近隣の物品を交易してその利益で領地を運営と言う寸法だ。


「お任せください!」

「よろしく頼む。

 そう言えば、うちの嫁と娘は?」

「一族の娘達と一緒に朝食の準備をなさっておいでです。

 私どもでやるとは申したのですが…」


 うちの嫁さんは元々料理好きだしなぁ。


「そうか。

 では出来たら呼んでくれ。

 俺はまなの騎獣の所にいる」

「あのバイコーンの所ですね。

 畏まりました」


 試すべきは名付けの効果の確認。

 黒姫は名付ける前のステータスしか確認していなかったからな。

 近くの池で水を飲んでいる黒姫のもとへ向かった。


「黒姫、ステータスを確認させてもらうぞ?」

「どうしたの?

 私は全然戦ってないから弱いままよ?」

「いやいや、名付けで能力が上がっているだろ?」

「……そんな感じはないんだけど?」

「そうなのか?

 まあとりあえず…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 黒姫 性別 女

種族 バイコーン

レベル 2

能力

 生命力 60/60

 魔力  20/28

 腕力  28

 知力  20

 体力  61

 志力  38

 脚力  77

スキル

 才能 疾風(1)

 技能 偽装(3)

    風魔術(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……」

「どうなの?!」


 何だかんだと言いつつも期待があったと思われる。

 鼻息荒く見つめられるが。


「多分変動なし」

「そう…」


 ガックリされてもしょうがないんだが。

 魔力の影響なんだよな。

 ……やってみよう。


「お前は"黒姫"だ!」

「何よ! 急に魔力を込めた威嚇なんて!

 …え?」


 黒姫を中心に膨大な魔力が渦巻き、筋肉が肥大化し骨格から作り変わる。

 魔力の奔流が治まった所に現れたのは2本の角の間に鋭く長い角を持つ馬。

 解析の結果は、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 黒姫 性別 女

種族 ドラグホーン

レベル 2

能力

 生命力 79/79

 魔力  46/46

 腕力  41

 知力  39

 体力  91

 志力  53

 脚力  115

スキル

 才能 疾風(1)

 技能 偽装(3)

    風魔術(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…成功だな」

「どう言うこと?」

「俺の魔力でお前の名付けをし直したのだ。

 名付けと言うのが魔力を相手の魂に刻み込むドーピングだと思ってな。

 俺の魔力は120ほど消費をしているな」

「そう。……ありがとう」

「気にするな。

 さて、もう一泊することになるかな……」


 朝食を準備する嫁達の元へ向かいながら呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る