第40話 ロッド翁とのやり取り

「大丈夫かのう?

 まだ少し顔色が悪いぞ?」


 珍しく向こうから訪ねてきたロッド翁がこちらの顔を見るなり問い掛けてきた。

 まあ現時点で生命力が半分程度になっているので調子が良いとは言いきれない。

 しかし、


「まあ大丈夫だろ。

 持ってる生命力自体はロッド翁の数倍はある。

 どちらかと言うと精神的な物さ」

「精神的?」

「壁の色が変わった先は事実上攻略不能だ。

 そうなるとダンジョンの攻略自体が不可能になるだろう?」

「うむ…。

 ゴーストの大群と言う話じゃな。

 儂らの感覚ではゴーストは大した事のない相手なんじゃが…」

「多分、ダンジョン産で強いと言うのがあるだろうな。

 不意を突かれて2体ぐらいに体当たりされただけで並の冒険者なら死ぬぞ?」

「そうか…」


 ロッド翁の青い顔を見る限り、ダンジョン以外のゴーストはそこまで危険ではないのだろう。

 ダンジョン以外なら他にも動植物がいるから、好んで人を襲う必要がないからかもな。


「攻略するなら詠唱破棄して広域攻撃魔術の使える魔術師が大量にいる。

 それも日に数回は放てる一流が…」

「おらんぞ」


 即答されたが予想の上だ。いくら宰相と言えど宮廷魔術師とかは引っ張って来れんだろう


「だよな。

 今から鍛えても数十年越しの計画に…」

「じゃから、広域攻撃魔術等と言う非常識な物は存在せんのじゃ!」

「は?

 ちょっとまて、マジで?」

「本当じゃ。

 そもそも魔術とは不安定な物でな、遠隔攻撃なら弓の方が遥かに優秀じゃ!」

「いや! これ! ここ!」


 娘から渡された『剣聖ベインの冒険』の2巻中盤を示す。

 そこには貴族の家出娘アンネが、広域魔術でゴブリンの大群を殲滅して、引き替えに昏睡となる描写があった。


「読んどったんかい。

 それは脚色演出の類いじゃ。

 魔術の基本は収束じゃぞ。

 不安定な魔力をどうにか攻撃手段にしたのが今の魔術じゃ」

「それはおかしいだろ! そんな非効率な手段が何故淘汰されん!」

「簡単じゃよ。

 『必要だったから』その一言に尽きる」

「どういう意味だ?」

「貴族が他の貴族に会う時に護衛もなし、身を守る道具もなしでは危険じゃろう?

 かといってそう言う物を持っていけば、警戒されて話が進まん。

 そこで着目されたのが魔術と言う技術じゃ」

「なるほど、それはソイツの技能だから手放すことは出来ない。

 …つまり、魔術が使えたから貴族じゃなくて」

「貴族じゃから魔術を習得するが正解じゃ」


 前提条件が間違っていた。

 魔術は地球での創作にあるような万能な力ではなく、必要に迫られて発展した技術と言うことだ。

 望みがあるとすれば、


「貴族以外の魔術師は…」

「お主と同じ考えじゃよ。

 貴族に憧れる者が魔術を習い始めたのが始まりだ」

「…そうか」


 これは色々と方針を変更する必要があるかもしれないな。

 選択肢として、1つ目は他のダンジョンの攻略に移る。

 王都近郊だけでも他に2つのダンジョンがあるんだし、可能性はあるだろうが、他のダンジョンでも同じ状況にならない保証がない。

 そうなると他に潜る冒険者がいる分、経験値効率が悪くなる。

 何よりショートカットがない他のダンジョンは深層探索が難しい。

 2つ目は、レベルアップをして無理矢理押し通る。

 今の時点で俺の生命力は1000超えしてるんだ。このままレベルを上げれば、大量の生命力で強行突破も可能性はある。だが、シビアな生命力の管理とゴーストとのエンカウントの運と言う不確かさがある。

 3つ目、帰還を諦めてこの国に根を張る。

 現状の戦闘力でも東のアトーボル山嶺のトロルロードの討伐は可能だろう。

 そうなれば有用な鉱山地帯を解放したとしてその地を治める貴族にはなれる。

 ……そもそも土地の解放ってやった奴への罰ゲームじゃないか?

 アトーボルを解放したら残党勢力の掃討に治安機構構築。移民政策に収税システムの周知徹底と面倒な仕事の山積みになる。

 鉱山地帯なら良いけど、これが森や草原みたいな簡単に収益化出来ない領土だと資金難で詰むぞ?

 ダンジョンから金を持ち出し、それを利用するにしても信頼できる腹心がなくては頓挫しそうだし。

 やるならレベルを上げてからの方が良いな。

 結局は、


「…ひとまずレベル20を目指すか」

「どうしたんじゃ?」

「これからの方針についてな。

 勇者達がレベル20でユニークスキルを得たり、まなが成長度合いが変わったりとレベル20がある程度の節目になっているようなので、少なくともここまではレベルを上げる。

 そこで状況が変わらなければ、本格的に土地を開放して、貴族を目指すかなっと思って」

「ほう。その時は最大限手を貸すので言ってくれよ!」


 嬉しそうな表情で協力を約束してくれた。

 …人の治める地域が増えれば国力に繋がるしな。

 嬉しくて当然か。

 それが嫌なのは仕事の増える下っ端だけだろう。


「そうする。

 とりあえず数日休んだらレベル上げに勤しむことにする」

「分かった。ロベルト達にはこちらから伝えよう」

「感謝する」


 意気揚々と去っていくロッド翁を見送ってベッドに横になった。

 ……帰れないかもな。これ。

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