第39話 初の撤退

 順調により深く昨日より深くとダンジョンを攻略していた俺はダンジョンの壁の色が今までの茶色から青に変わって、最初の階層に降りた。


「下の方が見えなかったのはこう言う理由か?」


 途中で極端に色が変わるせいで、目の錯覚が起きているのかっと干し肉を齧りながら上を見て、純粋に高低差だと判断した。


「目算で100メートルくらいはあるんだろうか?」


 大型駅近くの高層マンションに匹敵する高さ。

 しかし、下は底がついに見えた。

 …まだ数十メートルはあるだろうが。


「この落差だと確実に死ねる。

 改めて気を付けよう」


 口に残った干し肉をぬるい水で流し込み立ち上がる。

 …いい加減俺も生活魔術くらいは習得しよう。

 そんなことを考えながら歩きだした俺。

 いつものようにスパイ映画歩きで進む。

 1つ上の階層で、出てきたオークジェネラルが平均能力値で290くらいで、階層を下る毎の上昇幅は10から15とすると出てくるのは310以下の雑魚のはずだが。

 壁の色が変わったのが怖い。

 急激に強くなるのでは? と想像してしまう。

 俺の能力値は、平均値で450前後。

 …場合によっては即撤退も有り得る。


「え?」


 急に青白い何かが壁を抜けて噛み付いてきた!

 ……予想外に痛みはなく、通り過ぎただけ?


「なんだコイツ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 なし 性別 なし

種族 ゴースト

レベル なし

能力

 生命力 -8/-21

 魔力  0/0

 腕力  0

 知力  0

 体力  0

 志力  0

 脚力  0


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 生命力がマイナス?

 どうなってるんだ?

 困惑しながらも再び向かってきたゴーストを手で払い、通り抜ける様子に戸惑う。

 うん。ゴーストが消えて、石になった?

 これは見覚えがあるな。

 確か、スキルジェムと言う名の。…スキル持ってなかったはずだが?

 「解析してみるか…」


『スキルジェム(空)』


 …なんじゃそりゃ。

 全然役に立たんじゃないか!


「モンスターも訳が分からずに消えたし、マイナスがゼロにでもなったか?

 …ゼロになった? じゃあプラス分は」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 鷹山祐介 性別 男

種族 人間?

レベル 9

能力

 生命力 986/1007

 魔力  1164/1180

 腕力  462

 知力  439

 体力  477

 志力  441

 脚力  452

スキル

 技能 鑑定(8)

    解析(1)

    剣術(12)

ユニークスキル

    竜へ至る魂(9)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 …やっぱり!

 俺の生命力を奪っていきやがった。


「攻撃も防御も効かずに問答無用で生命力を奪われる。

 …これは逃げるしかないな

 え?」


 道の奥に爛々と輝く無数の赤い光。

 …逃げる!


「洒落にならん!」

「げ!」


 退路方向にもゴーストが現れ初めて…。

 強行突破!

 3体まとめてくらいだと痛い。

 これは…!


「死ぬ、死ぬ、死ぬぅぅ!」


 絶叫しながら大裂孔まで辿り着き、ロープを懸命に掴み登るが、そうしている間にもゴーストが俺の生命力を削っていく。

 1層分上がったところで、700を下回って倦怠感が、…って言ってられん! 根性で登る。

 2層分で生命力500以下。ゴーストはまだいる!

 3層分登って生命力210。ゴーストが軒並み消滅したらしいので近くの階層に降りて、大の字に寝転がる。


「ハアハア。

 …死んだと思った。

 休憩したら今日はダンジョン出よう」


 …初めて収穫ゼロのダンジョン攻略と相成ったのだが、


「どうしたんですか? 真っ青な顔で?」

「ゴーストに襲われた」

「ゴーストですか?

 物理攻撃は効きませんが、魔術には極端に弱い雑魚ですよ?」


 拠点のロープ設置地点で待機番をしていたアリエスに事情を話して、バカにされた。


「じゃあお前は40体のゴーストに襲われても平気なんだな?」

「はい?」

「下で俺を襲ってきたのは40体ほどのゴーストの大群だ。

 …振り切ったのもいるからそれ以上か」

「鳥肌立っちゃったじゃないですか!

 そんな冗談言わないで下さいよ!」

「冗談だったらよかった…」

「……本当なんですか」

「……」


 黙りこくった俺に真実を悟った少女が、青い顔をしていた。

 こうして、1人の少女にトラウマを植え付けてダンジョンから帰ったのだった。

 ……ちなみに大裂孔までの行き来分を換金分配した取り分は銀貨30枚。

 それでも普通の冒険者なら十分な収入らしい。

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