第35話 ロベルト達とダンジョンへ

 王宮に勇者を送り出した俺は、1日の休養日を取ってからダンジョン探索を再開した。

 同伴者はいつもの4人だが、今回からは探索方法が変わる。

 7層の大裂孔まで進み、そこで岩影にキャンプを構築。

 4人はロープの安全を維持する保安要員となり、俺が深層を探索する。

 なお、報酬の取り分は2対1とすることに。

 最初は1割で良いとも言ってきたが、せっかくダンジョンに入って、レベル上げもドロップ収集も出来ない状態で待機だけさせるのだから。

 と、押しきった。

 まあ実際は多めの報酬で釣って、裏切りを防止しているだけだが。


「そして、ロープに掴まりながらの降下が思った以上に怖かった件」


 降り立った階層で一息付いて呟く。

 何本も切れた縄のあった辺りに目星を付けて降下したが階層によっては足場になるような岩壁がないところもあり、その時は一旦ロープを放してその階層に着地し、再び降りていく作業を再開する方式で降りたのだが、日本にいた頃の俺では絶対不可能な降下作業だった。


「とはいえ、結構下まで辿り着いた」


 ……と思う。

 ロベルト達のいる7層は完全に見えないし、体感でもかなり長時間降った。

 ダンジョンは階層の高さがまちまちで、いまいち自信がないが。


「さてと探索を始めるか」


 呟いて、気持ちを切り替えたら、壁に背をくっ付けながら、ジリジリと進む。

 何階層かも分からず、敵の強さを想定出来ないからしょうがないけど、気分は昔のスパイ映画だな。これ。

 そんなことを考えながら、進んで曲がり角からコッソリ覗いて力が抜ける。

 これは安堵か? それとも落胆か?

 視線の先にいたのは、緑の皮膚の小鬼が3体。

 毎度お馴染みゴブリンでした。

 念のために視線がこちらにないタイミングで背後から忍び寄り、上段振り下ろしをしている最中にゴブリンと目が合った。

 ソイツが掲げようとした盾ごと一刀に斬り伏せるが残りの2体が短剣を突き付けてくる!

 あ、これもらうわ……。

 そんなことを思いながら、もう一体を払い除けるように斬り飛ばし、左脇腹の痛みに顔をしかめた。

 その犯人は俺の腹に刺さった短剣を抜こうと必死に力を込めていたので、その頭を握って宙吊り視線を合わせてから握り潰す。


「何かの映画の怪物の気分だな…」


 そう言ってから短剣を引っこ抜くと、スッと傷口が閉じる。

 ステータス上のダメージは『3』。


「…この前までは、壁で擦ったりしても、ダメージを受けてじわじわ減っていたんだがな。

 ついに本格的な攻撃でもダメージを受けない怪物君になってきた」


 ため息を付きつつ、状況を整理する。

 先ほど目を合わせた時に見たステータスは、曖昧なので死体を改めて確認…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 なし 性別 男 

種族 古き邪妖精

レベル 38

能力

 生命力 0/120

 魔力  41/41

 腕力  102

 知力  58

 体力  117

 志力  89

 脚力  102

スキル

 才能 

 技能 剣術(8)

    危機感知(6)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 と、ゴブリンじゃなかったのか。

 能力値で見た限り、俺の奇襲に対応できるステータスじゃないし、技能スキルの危機感知の能力だな。

 能力的には正面からの戦闘が余裕で、奇襲がムダである以上は普通に歩こう。…疲れるだけ損だ。


「あ、ベックがいないからドロップの回収もあるな…。

 イテッ!」


 ドロップ品の回収でしゃがむと脇腹にピリッとした痛みを感じる。

 …しっかり刺さっていたからな。 

 我慢しながら拾ったドロップ品は、魔石が3つに奇妙な宝石が1つ。

 魔鉄鋼製の短剣が3本だった。

 魔鉄鋼製の短剣は金貨3枚くらいになるが、魔石はゴブリンと瓜二つなので多分安いし、利益は奇妙な宝石次第だな。


「解析っと、…お!」


 結果はスキルジェム。強く握ることでスキル『危機感知』を習得出来る消耗品。

 素晴らしいアイテムだった。

 この世界にスキルをドーピング出来るアイテムがあったとは…。


「しかし何で誰も話題にしない?

 副作用でもあるのか?」


 ひとまず、使用を控えてロッド翁に相談することにした。

 気を取り直して獲物を探して徘徊する。



 2時間くらいが経った所で久しぶりのレベルアップを確認した俺は大裂孔まで戻って、持ち帰るものを選別する。

 ここはゴブリンモドキの領域らしく、それがメインのせいで魔石は安物ばかり。これらは放置して、魔鉄鋼製の短剣16本と霊獣の杖と言うレア装備? を鞄に積めて、スキルジェム8個は懐に隠した。

 …後はひたすら登るだけ。

 登る時に気付いたけど足を置きやすいような窪みが等間隔に並んでいた。

 ここまで潜るヤツがいるのかもしれないなっと思いながら拠点に戻ったら、収入の件で呆れられた。

 ベック曰く、


「1日で私の1年分を超える稼ぎを稼がないで下さい」


 だそうだ。

 まあ大体金貨50枚の儲けだし、理解は出来る。

 なお、霊獣の杖を売らない代わりに、短剣の売却益は全てロベルト達に渡すことにした。


「そう言えばこれを落とした奴らの種族が『古き邪妖精』になっていた。

 見た目はゴブリンだったけど…」

「それはイービルゴブリンってヤツですね!

 トランタウ神と敵対する魔神ラバロックの眷属です!」


 皆が首を横に振る中、アリエスが説明をしてくれた。

 この世の破壊を企む邪悪な神の一派らしい。

 …トランタウが古代の会社名由来と知っている俺はアリエスの熱弁を他人事のように聞いていたのだった。

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