第34話 レベリングのダメ押し

 怒りで我を忘れているトロルの攻撃を御影が必死に盾で受け止める。

 その身に纏うのは地属性魔術の『プロテクション』の黄色い光と技能スキル『ラージシールド』の茶色い光。

 ……あまり綺麗ではないな。


「こっちだ!」

「掛かってこいよ!」


 両端からの『挑発』にどうしようか迷って、動きが止まるトロルは風魔術『ヘビーエア』で更に鈍くさせられる。


「……こうなると勇者達の勝ちが確定かな?」

「そうだな。トロル1体ってちょっと物足りないよな」

「あんたら少し自重しろ!」


 俺とガンツの勝手な論評に今しがた風魔術を放った大池から文句が飛ぶ。


「しかし、ただのデカイ的(まと)を殴るだけじゃ格上との戦闘訓練にならないな」

「いっそ魔術禁止は?」

「それだと命の危険がある。

 10層のフロアボスって絶対に1体なのか?」

「……そう言う話だな」

「そうか。騎士団の訓練に要期待だな」

「上手く行くか?

 正直な話4人でトロルを倒せる猛者がいるなんて聞いたこともないぞ?」

「そうか。

 いっそ俺がトロルを援護するかな?

 例えば後方から飛んでくる石に注意しながら倒すとか」

「そこまで行ったら虐待だろ?」

「それもそうだな……」


 ガンツと話している間にもトロルは動きを弱らせていく。

 ……これは決まったな。


「しかし急に強くなったな」

「元々万能職タイプの勇者が物理オンリーで戦えば劣化版の前衛職にしかならん。

 それが本来の形に収まった分強くなるのは必然だ」


 本当は、レベル20を超えた所で、杉田が『疾風の勇者』、中野が『万槍の勇者』で、御影が『鉄壁の勇者』に大池が『魔撃の勇者』とそれぞれユニークスキルを得た影響だろうが、幾らガンツ相手でも伏せておくべきだろう。


「それにしてもどうすべきだろうかな?

 一応、約束のレベルは超えたが……」

「て言うとあれか?

 もっと潜りたいってことか?」

「正直な話で言えばその通りだ。

 11層なら素材を集めて魔鉄鋼の武具を与えておきたいが、現状のメンバーではきついかなと思ってもいる」

「……欲を出すもんじゃねえぜ?」


 魔鉄鋼の素材を鍛えて腕を磨きたいっと顔に書いてあるが、敢えて忠告をしてくれるガンツ。

 実際の問題で一番大きいのはガンツの護衛だ。

 それを自覚しているからこその発言だろう。


「終わった……」

「キッツいね。これ」

「「……」」


 トロルを倒し終えた勇者達の声が響く。

 大池と中野の2人だけだが……。


「おう。よく頑張った。

 これで安心して第2王子に預けられる」

「卒業試験って感じだな」

「ただの成り行きだ。

 お前達はこの国の騎士の上位に食い込める実力はあるだろうが、騙されればそのくらいの実力者でも容易に死ぬのが現実だと弁えておけよ?」

「分かりました」

「妙に返事が良いな?」

「そりゃそうですよ。例えば騙されてまなちゃん誘拐に手を貸したらどうします?」

「殺す」

「……ですよね。

 一瞬くらい躊躇って躊躇ってほしいんですけど……」


 涙目の大池。

 身に染みて騙される恐怖を理解しているなら問題ないか。


「明日は休んで明後日には城に入るつもりでな」

「「「「うっす」」」」

「……これで儂の冒険も終わりだな。

 だいぶレベルを上げさせてもらったし、武具の補修はこれからずっとただでやってやる。

 なんぞあったら来い」

「私達も少し侯爵邸でおとなしくしている必要があるわね。

 良いわね? 真奈美」

「はぁい」


 渋々だが、名前をきっちり呼ばれた時に下手を打つと危険と知っているまなも頷く。


「俺はロベルト達とより深部を目指すことになるだろうな」

「どうやってだ?」

「アイツらと大裂孔まで降りて、そこから連中にロープを護衛してもらって降下。

 12層くらいから徐々に攻めていく予定だ」

「師匠は意外とあの騎士達を信頼してるよな?

 危ないと思わないのか?」

「4人とも俺を殺す理由がない。

 下手に俺が死ねば、全員責任取って辞職。

 場合によっては裏から手を回されて事故死だぞ?

 まあアリエスは別だが……」

「そのアリエスは大丈夫なのか?」

「ソイツは殺す理由がないし、よほど安心だとは思うが残りの3人が全力で止めるだろう。

 そもそもアイツらだけでこのダンジョンを出れるかも疑問だ。

 フロアボスのオーガが2体で詰むんだぞ?」


 まあ、人間は怖い生き物だ。

 誰かを人質に取られたら分からないでもない。

 しかし俺は勇者と違って要人ではないので費用対効果が悪すぎる。


「寧ろお前達の方が狙われやすい。

 お前達は敵の懐に入り込むようなものだからな?」

「はあ? 第1王子は組織がガタガタで怖くないんだろ?」

「そっちじゃない。

 お前達は勇者って肩書きがあるんだ。下手な差し入れを食べたら、気を失って気が付いたら隣で筋肉隆々の兄ちゃんが『気持ち良かった』とか言ったらどう思う?」

「「「「ヒィィ!」」」」


 具体的な想像をしたのか。ダラダラと汗を流し始めた。


「洋の東西問わず、戦闘職の同性愛は珍しくないからな?

 まあ同性愛を否定する気もないし、お前らが構わんならそれで良いが……」

「「「「肝に命じておきます!」」」」


 あり得る未来を提示したら直立不動で答えたのだった。

 その様子にガンツが苦笑する。


「さて、ひとしきり笑ったしさっさと帰るとするかね」

「ええぇぇ!

 もうちょっとだけ遊んでいこうよ!」

「帰り道でやりなさい」

「この父娘だけなんか違うんだよな……」


 杉田のぼやきを最後に9層行きの階段を登り始めた。


「そうだ。解析だけさせてもらうぞ?」


 一言断って能力を見る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 鷹山祐介 性別 男

種族 人間?

レベル 6

能力

 生命力 721/721

 魔力  496/510

 腕力  268

 知力  211

 体力  284

 志力  238

 脚力  255

スキル

 技能 鑑定(6)

    解析(1)

    剣術(9)

ユニークスキル

    竜へ至る魂(6)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……ついに種族に?マークが付いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 杉田凉 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 23

能力

 生命力 89/91

 魔力  18/72

 腕力  78

 知力  59

 体力  67

 志力  63

 脚力  82

スキル

 才能 剣の才(4)

 技能 見切り(6)

    剣術(4)

    深呼吸(3)

    炎魔術(3)

ユニークスキル

    アイテムボックス(1)

    疾風の勇者(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 中野伸二 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 24

能力

 生命力 93/98

 魔力  52/62

 腕力  64

 知力  55

 体力  60

 志力  49

 脚力  77

スキル

 才能 槍の才(4)

    治癒魔術の才(2)

 技能 見切り(5)

    剣術(2)

    槍術(5)

    深呼吸(6)

    治癒魔術(5)

ユニークスキル

    アイテムボックス(1)

    万槍の勇者(2)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 御影地神 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 21

能力

 生命力 30/138

 魔力  11/52

 腕力  48

 知力  90

 体力  101

 志力  98

 脚力  52

スキル

 才能 盾の才(8)

    頑丈(6)

 技能 見切り(9)

    剣術(3)

    深呼吸(5)

    地魔術(6)

ユニークスキル

    アイテムボックス(2)

    鉄壁の勇者(5)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 大池道也 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 22

能力

 生命力 68/68

 魔力  21/98

 腕力  49

 知力  80

 体力  52

 志力  79

 脚力  61

スキル

 才能 風魔術の才(4)

 技能 見切り(4)

    剣術(2)

    深呼吸(8)

    風魔術(7)

ユニークスキル

    アイテムボックス(3)

    魔撃の勇者(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 勇者の仕上がりは万全だろう。

 御影は体力が3桁に達したし。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 鷹山真奈美 性別 女

種族 人間

レベル 25

職業  聖女

能力

 生命力 89/89

 魔力  109/109

 腕力  48

 知力  102

 体力  67

 志力  111

 脚力  51

スキル

 才能 炎魔術の才(8)

    癒し魔術の才(2)

 技能 詠唱加速(9)

    炎魔術(10)

    深呼吸(5)

    癒し魔術(1)

ユニークスキル

    浄炎の担い手(6)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うちの娘、なんかすごく強くなってた。

 …あれ? 癒し魔術? 中野は治癒魔術だったような?

 うん。間違いないな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 鷹山優香 性別 女

種族 人間

職業 魔道戦士

レベル 19

能力

 生命力 122/122

 魔力  140/140

 腕力  104

 知力  89

 体力  101

 志力  91

 脚力  98

スキル

 才能 炎魔術の才(4)

    高身体能力(7)

    器用

 技能 炎魔術(6)

ユニークスキル

    炎の魔道戦士(4)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うん。まなの能力から予想はしていた。うちの一家でダンジョン攻略できるんじゃないか?

 ガンツは……、止めておこう。

 俺にそんな権利はない。

 にしても、つくづくレベルって当てにならない数字だな。

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