第31話 レベリングの相談

「ウワッ!」


 オークに剣を弾かれた杉田が呻く。

 バカ者め!

 速やかにオークの腹に剣を斬り付ける。…杉田の脇腹すれすれを通して。


「死ぬ!

 マジで死ぬ!」

「騒ぐな。もう片付いた」

「……ふう。前途多難だな」


 大騒ぎの杉田に注意をしているとガンツのため息が響いた。


「情けない…」


 自身は、ファイヤーボールを5連チャンでぶつけて問答無用にオークを焼き殺したまなが呆れて、杉田が更に凹む。


「これは6層に戻るべきだろうな…」

「そうだな。優香とまなは問題ない。攻撃魔術で倒せているし…。

 問題は勇者達か」

「うむ。恐怖で腰が引けとる。

 そのせいで武器に力が乗らん」

「しかも勝てないから更に怖くなるって悪循環ね」


 7層で突出して戦えているのは優香。

 ファイヤーボールで顔面を焼いて、相手を怯ませたところを大剣(俺のお下がり)で差し貫く。

 魔術の飽和攻撃で敵を焼き尽くす。

 そんな戦い方のまなも継戦力には問題があるが、この娘は勇者と違って俺の近くにいるのだから問題ない。


「これは1度ダンジョンを出ることになるな」

「誘魔香の残量か?」

「ああ、元々お試しで3つ買っただけだ。

 残り2つで目標レベルは難しい。

 それに勇者の方はレベル以前の問題がある」

「そうだな。騎士団に放り込んで数日置くと良いぞ」

「…考えておく」


 そう言って階段に向かっていると、


「…それに比べてお前はとんでもないな」

「どういう意味だ?」

「ジーザスのパーティへの対処だ。

 あいつらのパーティ『ヴァンガード』には勇者と同年代の子供もいたはずだが?」

「知っていたか」

「それなりに有名な連中だったからな。

 そんな連中を殺して、平然としている」

「殺すと考えるから躊躇する。

 あれらはもっても明後日くらいだった。

 それとあのジーザスに関しては三流だな」

「あいつらが?

 王国では指折りのパーティだったのだがな」


 ガンツの不審そうな視線、意味はお前基準で言うなかな?


「…あいつがすべきはどんなことをしてでも仲間と共に地上に戻ることだった」

「実際にそうしようとしたんじゃないか?」

「こっちは8人、まあまなは除外しても7人もいるんだぞ?

 人質取るなんて意味がない。

 それを実行したのは、この期に及んで損をしたくないと言う愚かな発想が奴を後押ししたからだろうな。

 誰かを人質にすれば言うことを聞く何て虫の良い妄想をしてしまったのだろう。

 …努力せずに人を利用して生きてきた男が今回それを清算させられただけの話だ」

「努力出来ないから三流か」

「いや、人を煽てて一生上手くやってけるのならそれはそれで問題ないだろう?

 俺が奴を三流と称したのは、目的がズレたことだ。

 人なんて大して優れた生き物じゃない。

 なら、目標を定めたらそこに向かって全霊を掛けるくらいでないと成功せん」

「お前が言うと違和感があるが、納得は出来るな。

 儂だって最高の武器を造ると言う目的に邁進している。

 他の鍛冶師は錬金術に手を出す愚か者と嗤うがな」

「そう言う連中は何処にでもいるな。

 昔のやり方に盲信して、考えることをやめた癖に、新しいことを始めた者をバカにする小物」

「そう言う奴は本当に迷惑だ。特に鍛冶師はハンマーを振るった回数が優秀さの証明と思っているバカが幅を効かせている」

「それでこの国に居着いたのか。

 …大変だったな」

「だが、お前と出会った。

 お前なら最下層の希少な素材を持ち帰れるかもしれん。

 楽しみにしているぞ?」

「まあ最下層へは行くことになるだろうな。

 元の世界に帰るために…」

「恋しいか?」

「いや、元の世界に帰るのは手段であって目的ではない。

 無理なら無理で次のプランに移るさ」

「ほう。その目的とは?」

「娘の幸せ」

「…そうか」

「俺は父親なんだ。当たり前だろう?」

「どうだろうな? この世界で我が子を売る親は決して珍しくない」

「必要に迫られてだろうに」


 そう言いつのった俺のコトバはガンツを納得させるものではなかったらしい。

 肩を竦めて返事にされた。


「まあ良い。

 少なくとも俺はまなを幸せにしてやりたい。

 そう言う目的から言えば、この世界の貴族よりあちらの平民は良い生活をしているのだから、あちらに帰りたいと言うのは分かるだろう?」

「それは信じられん。

 貴族より良い生活なんてどうやって…」

「あちらではこちらの魔道具に似た物が大量にある。

 例えば、洗濯機。

 衣服を洗い、濯ぎ、脱水する。

 物によっては乾かす機能もあるな」

「それを1つの魔道具で再現しているのか!」

「魔道具じゃなくて機械って言うんだが、それがこちらの物価で金貨1枚から3枚くらいの値段で手に入る」

「…冗談だろ?」


 ガンツには信じられなかったのか真顔で詰問された。


「本当だ。

 更に空を飛ぶ乗り物は数百人を乗せて大陸の端から端まで1日で運ぶ」

「大陸の端なんて人外魔境だ。誰も辿り着いた奴がいねえ」

「医療では人の体を開いて有害な箇所を取り除いて治す技術すらある」

「それはレッドサンド王国でもやってる。

 貴族にしか受けられないがな」

「まあ他にも色々あるが、ガンツに説明できそうなのはこれくらいだろう。

 俺が帰りたいと言うのは理解できたか?」

「ああ。

 それなら納得だ。

 …そう言えば他のプランってのはなんだ?」

「ああ、領地を持つ上級貴族になることだな。

 領内は治外法権になるし、下手な貴族とは距離を置けば良い。

 それが一番安心だ」

「簡単に言うが難しいぞ?

 どうやってやる気だ」

「この国には魔物が住み着く領域を解放すれば、そこは解放者が占有できると言う法がある。

 それを利用して土地を手に入れたら、ダンジョンで稼いで人民を養いながら、産業を育てる。

 30年あれば軌道に乗るだろう」

「…お前は残りの人生をそれに費やす気か?」

「子供のために自分の人生を切り売りするのは生物として正しいことだと思うぞ?」

「…そうか。

 応援だけはしとくぜ? 頑張れよ」

「ああ、ありがとう」


 益体もない雑談をしながら、階段に向かって歩を進めたのだった。

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