第26話 神殿訪問
前日にロッド翁に改めて、神殿について聞いてみた結果。
この国では大きく3つの宗教が幅を効かせているらしい。
拓く者 サンティア。
冒険者や学者が良く信仰する神で教義が緩く、暇な時に礼拝と寄付をする程度で良いらしい。
導く光輪 トランタウ。
主神的な立場にある神で王侯貴族に信者が多い。
年に2度、大礼拝と呼ばれる集会がある。
職業を得る宝玉が管理されている。
護る者 バーントルム。
騎士や兵士、行商人等の信仰が篤く、契約を護るが転じて、一般の商人も信仰する。
「この3つがメインでな。他にもトランタウの子供で正義の神のジェネットとか色々いるらしいが、ひとまずこのどれかで洗礼を受けるべきだろう」
「それでここまで来たの?」
俺の簡単な説明を聞いていたまなが訊ねてくる。
目の前には白を基調とした建物がある。
トランタウが光輪、太陽を象徴しているので白をメインカラーにしているらしい。
ヨーロッパの教会風の建物で、宗教施設は何処の世界も似たようなものらしい程度の感想だ。
「ああ。まずは主神トランタウ。ここで俺達も職業を貰う。
まなが問題ないと思ったら洗礼もここで良いが、サンティアも覗くべきかなっと思っている」
「私達も冒険者だものね」
「…まあな。
さて、そのまま中に入って良いと聞いたが」
見た感じ、正面の大扉が開放されており人の出入りもある。
そちらから入った俺達一家と勇者達の7人を迎えたのは年配の女性シスターだった。
「ようこそ! トランタウ=ラーセルへ!
本日はどのようなご用件でしょう?」
「クリスタルで職業を確認したいのだが?」
「あら、皆さんですか?
地方からお越しの方々ですの?」
「そんなところだ。案内を頼めるかい?」
「それではこちらにどうぞ」
女性シスターが手を差し出して歩き出すので付いていくと正面のステンドグラスの脇にある扉を通り、中庭を抜けた先にある部屋に誘われた。
「あちらのクリスタルが職業を授けてくださいます『トランタウ神の慈愛』ですわ。
どうぞお近くまでお越しください」
その部屋の中央にある台座に据え置かれたクリスタルは例えるなら巨大な紫水晶と言う感じだった。
あまり神聖な雰囲気を感じないのは俺が日本人だからだろうか。
「これに触ると職業が付くのね!」
はしゃいでいる様子から、まなも特になにも感じてないようだ。
「けどさ、これって貴重なアイテムだろ?
こんな簡単に入れるところにおいといて良いのかな?」
「ご心配には及びません。
これは見た目に反して、非常に重く、また何人たりとも壊せぬように出来ておりますから」
勇者の1人、中野が問い掛けると自信満々にシスターが答える。
少し解析してみるかな?
職業矯正治療装置 ミーティア。
トランタウン・カンパニーが開発した職業矯正治療装置。
自分の能力値と希望の職業能力値にある落差を緩和する為に開発された矯正機器。
これにより、筋力の高い魔術師や体力の低い騎士のような者を減らすことに成功した。
トランタウン・カンパニーはその功績でジルド王国国有企業へと昇格を果たした。
「…色々繋がったな」
「何があったの?」
小声で呟いた言葉だが、隣の優香には聞こえたらしい。
後で話すと言って打ち切っておく。
…さすがにシスターの前で言える内容じゃない。
「ふーん。
まな、私が先に触るわ。少し待ってて」
「ええ?!」
「良い子だからこっちに来ような?」
ミーティアに触ろうとしていたまなを止めて、先に触れに行く優香。
解析結果を見る限り危険はないと俺の様子から判断しているのだろうが、子を守りたい感情は別物みたいだ。
数秒で手を離した。
「……不思議な感覚ね」
「じゃあ私も触って来るね。」
「そうでしょう!
初めて触れた者は皆さん、そうおっしゃいます」
ウズウズしていたまなを置いておいて、優香に近付く。
「どういう感じなんだ?」
「頭の中にずらっと選択可能な職業が羅列されるの。
そこから選ぶんだけどこれにしようと思うとそれが光って確定しますか? 小さいウインドゥが出てくるのよ?
まるっきりパソコン操作みたい」
「そうか。地球にも視線を感知して、カーソルを動かすシステムが試作段階まで来ていたが、それを脳波でやってるのかもな。
それで、何を選んだ?」
「魔道戦士よ。…ユニークスキルに合わせたわ」
「正解だな」
「私は賢者にしよう!
あ、聖女も何か凄そう!」
優香と話している最中にまなが大声を上げた。
…しまった。
注意しておくのを忘れた。
案の定、
「しばらくお待ちください!」
と言って、シスターが部屋を駆け出していく。
「失敗したな。
職業を大声で言うのはまあ良いとして、聖女に成れるって情報が宗教団体に伝わったのは不味いな」
「え、そうなの?
ただの神官の上級職でしょ?」
「ああ、まなの感覚で言えばその程度の認識だったんだ。
詳しく注意しなかった俺が悪いな」
ゲームに親しんだ現代っ子に聖女の特別性なんて分からないよな。
物によってはありふれた上級職にすぎない。
「お前は自分がイエス・キリストの生まれ変わりですって言うやつがいたらどう思う」
「頭を疑う?」
「……例えが悪かった。
本物の生まれ変わりと証明されたら?」
「……びっくりしてサインとか貰うかな?」
「いまいちピンときてないようだが、あのシスターは正にそんな感じだと思うぞ?」
「どうなるの?」
「そうだな?
まずダンジョンに潜るのは無理。
それで最悪はこの教会に監禁されて俺やママから引き離される」
「え?」
「……可能性はあるわね」
日本にあるカルト集団だってそれぐらい平気でするのだ。
強い権力を持つこの宗教団体がどう出るか。
「なあ、どうするんだ?」
「向こうの出方次第だな。逆に言いなりにならない聖女なんて向こうもいてほしくはないだろう?」
「そうなの?」
「さっきの例えだが、地球のカトリック教会はローマ法皇がトップにいる。
けど、キリストの生まれ変わりがそれを否定したら? プロテスタントの方が正しい何て言ったら?
カトリック教会その物が崩壊するかもしれないだろ?」
人は既得権益を侵害されることを嫌う。
それはさておき、
「今の間に職業を得ておくか」
「そんな呑気な…」
「何を言っている。もしかしたら、二度と機会を失うかもしれないんだぞ?
今のうちにやっておくべきだ」
「え?」
「まなが殺されそうになったら、俺はこの教会と敵対する。
そうなれば機会を失うだろ?」
呆れ気味の杉田にそう返して、クリスタルに触れると、ビーッ! ビーッ! と警告音が響き、
『人外存在の接触を確認!
機密保持の為、機能を停止します!』
と言う音声と共に、クリスタルが砂のように更々と崩れ落ちた。
「…敵対確定かな?」
「…じゃないの?」
「逃げるぞ! まな背中に乗れ!」
「「「「おいぃぃぃ!!」」」」
勇者達の絶叫と共に俺達は教会を後にした。
……治癒魔術をゲットし損ねたことに気付いたのはガンツの工房に辿り着いた(逃亡完了した)後だった。
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