第27話 ガンツへ依頼

 トランタウの教会でやらかした俺達はガンツの店に逃げ込んだ。


「大丈夫なのか?

 逃げてもっと状況を悪くしたんじゃないかよ?」


 御影が心配しているが、


「安心しろ。

 日本じゃないんだ。あの教会に近付かない限りバレはしない」

「それってクリスタルを壊したことは問題だってことですよね?

 ただ、捕まらないだけで…」

「証拠不十分で不起訴さ。

 あれが何かも知らないんだ。仮に見つかっても幾らでも言いくるめられる」

「つまりあれが何か、おっちゃんは知ってるんだな?」

「ダンジョンに潜ったら教えてやるさ」


 この情報も誰かに聞かれると厄介だから。


「慌ただしいなと思ったら、お前さんか?」

「覚えていてくれたのか。ガンツ」


 奥から小太りのおっさんがやって来て、俺を見て呆れた。


「貴族に喧嘩を売るバカの顔は出来るだけ覚える。でないと巻き込まれるかもしれんからな」

「ガンツもあの時喧嘩を売ってなかったか?」

「あの程度の小物は、怖くないわい。

 儂は元々レッドサンド王国の民じゃからな。

 この国に請われて、ここで錬金術師をしとる」

「それって、本来なら国賓扱いなんじゃ?」

「ふん。この国のバカ共は儂を雇い続けるだけの金が用意できんかった。

 かといって、儂も錬金術と鍛冶の両方に手を出す邪道のドワーフだからな。

 下手にすぐ帰れば、妬む自称正道派にここぞとばかりにつつかれた。

 その辺を取り成してくれたのが、ボーク侯だ」


 コイツやはり、


「錬金鍛冶師!

 スゲー伝手じゃん。

 俺らの武器もこの人に頼んでくれるのか?」


 俺の言葉を代弁してくれたが、それはない。


「何を言ってる。

 俺がここ以外の武器屋を知らんだけだ。

 お前達は数打ち物で十分だろ?」

「酷いな!」


 勇者組から批難が上がるが、


「まず、俺はお前達の保護者じゃない。

 同郷の誼で手を貸す善意の他人だ。

 次にお前達はうちの娘の護衛がメイン。そんなに良い武器は必要ない」


 正直な話、パワーレベリングはプレイヤースキルが向上しないからやりたくない。

 最強を目指すならむしろ遠回りだ。

 しかし、コイツらは史上最悪の魔王を倒しに行くでもなければ、邪神に挑む予定もない。

 この国の実力者に仲間入りできる程度で十分。

 そこで参考になるのが、召喚された時にロッド翁の護衛をしていた女騎士だ。

 宰相って立場のロッド翁の護衛ができるならこの国の中位以上に属する実力者のはず。

 …城内だったし、上位の実力者ではないだろう。

 勇者達は現時点で彼女に匹敵するステータスなのだから、レベル20くらいまで上げれば、十分上位クラスを数字の暴力で倒せると思う。


「それにしたって!」

「オーガを倒した収入で装備を整えろ。

 デモスレだって、魔神素材を集めないと良い装備にならんだろ?」

「オーガを自力で倒せって! 無理だろ!」

「お前達でもオーガの攻撃を防げただろう?

 まなの攻撃魔術ならオーガにダメージが通る。

 十分勝てるさ」

「どう言うこと!」


 勇者への説明にまなからクレームが掛かった。

 そう言えば説明をしてなかったな。


「パーティ編成は俺と俺以外の6人って組分けだ。

 まなが魔術によるアタッカーで勇者が盾役。優香が遊撃」

「えぇぇ!」

「この場合はまなが勇者を助ける役回りだぞ?

 3話でローラッドがやってた立ち位置だ」


 不満のあるまなに効果抜群の説得を行った。


「それじゃあ、仕方ないかな…」


 迷う素振りのまなを見つつ、大池の肩を軽く叩く。


「まなちゃん。僕達弱い勇者を助けてよ。

 ローラッドはいつでも弱い奴の味方だったよ」

「フフーン♪

 『これだからひよっこは』」


 俺の意向を汲んだ大池が情けない懇願をするとあっさり堕ちて、ローラッドが言っていた台詞を口にしていた。

 ……我が娘ながら、チョロいな。


「さて、中野は槍、御影は大盾の使いやすそうなのを探せ」

「俺達は?」

「杉田は才能が剣の才だから要らんだろ?

 大池は、……あ!

 大池魔術師寄りじゃねえか。

 風系統の魔術って何処で覚えられるよ?」

「風か? 補助系が充実してるし、冒険者の中には使える奴も結構いる。冒険者ギルドを当たるのが一番だな」


 俺の独り言を拾ったガンツが答えてくれた。


「そうなのか?」

「ああ、魔術ギルドってのもあるが、風系はとにかく攻撃力が低い。

 冒険者で攻撃魔術に使う奴はいないな」

「逆に攻撃魔術として覚えるなら魔術ギルドに行く必要があるのか?」

「そういうことだ」

「……ひとまず、武器を槍にしておくか?

 剣より相性は良いだろう」

「そうだな。投げ槍なら使い勝手も良いぞ?」


 大池の適性で魔術があるのを思い出したが、結局、槍を探させる。


「それでお前さんはどういう用件だ?

 お前みたいなのが、初心者の付き添いで来るとは思えんが?」

「失礼なって言いたいが、これを見てほしい」


 取り出したのは昨日ドロップした鉄のインゴットだったもの。


「2つは鉄のインゴットだが、こっちの2つは…」

「魔鉄鋼だ」

「ほう。これなら上質の武器になるな。何処で手にいれた?」

「昨日鬼の祠の5層でドロップした」

「嘘をつくな。魔鉄鋼なんて、最低でも10層以降でしか手に入らん」

「やはりそれくらいの価値があるか。

 これは4つともオーガからドロップした物だが、2つは俺が魔力を込めた。

 最初は霧散しそうになったが、無理やり込めている間に急に手応えが軽くなってな。解析結果は魔鉄鋼になっていた」

「…魔鉄鋼はダンジョンの奥の魔力溜まりで手に入る。それを自力で再現したのか」

「ああ」


 本当は二束三文の鉄のインゴットを魔力で形を変えて、アクセサリーとして売れないか、試そうとしただけだ。

 そんで折角の魔力が霧散するのが勿体ないと無理したら出来た。

 棚ぼた物だが、鉄のアクセサリーなら売れても銀貨5枚程度だったことを考えれば、むしろ大儲けだ。


「どんだけ魔力を注ぎ込んだ?

 金貨5枚でなら買ってやる」

「それで良い。

 ちなみに魔力を150込めれば出来るぞ?」

「ハイエルフでもキツいな。その量は…」

「そうか」

「……例えばだが、儂が打った剣に魔力を込めたらどうなる?」

「……面白い。是非やろう!」

「コイツが良いか?」


 俺がニヤリと笑い返すとカウンターの奥から大振りの剣を取り出す。


「刀?」


 まなが首を傾げるが、これは……。


「どっちかと言うと中国の偃月刀の類いだな」

「槍じゃないよ?」

「関羽雲長をイメージしたかもしれないが、あれは『青龍偃月刀』、長い柄を持つものが青龍刀で、片刃の剣が偃月刀だ。

 だがこれは……」

「斬ることに特化した分、冒険者には不人気な1品だ。

 こう言うのは森で獲物を狩るハンターや言い方は悪いが盗賊のような連中にうける。……だろ?」

「ああ。何でこんなものを?」

「突くなら槍で十分だ。叩き斬るなら斧が良い。

 両方出来るがそれ故に器用貧乏だろ?

 そんで突くのに優れたレイピアは人気があるのにこう言う剣は外道呼ばわりされる。

 なら外道を極めてどうなるか知りたいじゃないか!

 って造ったんだがな……」


 ああ、浪漫武器の類いね。

 だが、


「俺が使おう。これでどこまでいけるか試してみよう」


 こう言うのは大好きだ。

 そもそも俺は突くより斬る方が圧倒的に多い。


「良いのか? 同情でコイツを使って死ぬようなら許さねえぞ?」

「任せろ」

「……そうか。

 ただでやる。いけるとこまでいってくれ」

「よし。早速魔力を注ぎ込むぞ」


 心臓の辺りから血の流れのような物を意識して右手を通して剣に注ぐ。

 やはり最初は弾かれそうだが、無理矢理押し込む。

 ガンガンと押し込むうちに手応えが軽くなってきて、さらに押し込む。

 ……立ち眩みのような気持ち悪さを感じるまで注ぎ込んだ。


「ああ…。気持ち悪いぃ。

 ステータスオープン。……残魔力12?

 ざっと238注ぎ込んだ?」

「これは何で出来ている?」


 黒かった刀身が紫の水晶のようになっていた。


「魔力ギリギリだけど、…解析。

 円月竜牙刀(擬似)、竜気に充てられて変質した偃月刀。竜の牙から造られた竜牙刀に近い性能を持つ宝刀。

 ……ああ、俺の魔力ってもう竜属性になっちゃってるんだ」


 そりゃミーティアも壊れるわけだ。俺はダルい頭で半笑いになっているが、ガンツはそうはいかない。


「お前さんは竜族か!

 どういうことだ!」

「……すまないがここで誰かに聞かれると不味いので言えん」

「うむ…。お前らはこれからダンジョンに潜るんだよな?」

「ああ」

「少し待て! 儂も付いていく」

「良いのかよ」

「こんな店に大して客は来ん。それよりお前のことが気になる」

「言い方!」

「何を言っとる? もしかしたら竜鱗が手に入るかもしれんだろうが」


 素材にされるっと一瞬恐怖を感じたが、


「もちろん、お前さんの許可は取る。でないと竜鱗は意味がないからな!」


 殺される心配はないようだ。


「小僧共! 儂の護衛をしてくれるなら、1品物をやるぞ? どうする?」

「「「「やる!」」」」


 そうなると思った。

 こうして同行者を追加した俺達は8人でダンジョンに向かうことになった。

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