第20話 勇者との遭遇

 他のパーティとの遭遇に緊張していたものの、呆気なく3層を降り、4層の半ばまでやって来た俺達。

 まあ半日以上先行しているパーティに追い付くのは至難のワザだろう。

 …そう思っていたんだが、4層に入った直後から血痕まみれの魔石が見付かるようになった。


「…おそらく4層に入る寸前で数時間の休憩を取ったんでしょう」


 と言うのはベック。俺はと言うと、


「そうか」


 と返して剣を振るう。

 俺達の目的が6層以降。

 ボスフロアは1度誰か入ると、討伐が終わるまで入れないらしいので4層中に追い越してしまいたいのだ。

 ゴブリンの殺られ方が、復数回の斬擊だからオーガ相手では数時間掛かる可能性があり、下手すると今日は諦めて帰ることになりかねない。


「…前の方から喧騒が聞こえるな」

「追い付きましたかね?」

「多分…。マジか」


 前方では数人がかりでゴブリンを惨殺する猟奇集団がいた。

 しかも残念なことに内の4人が黒髪のアジア系。

 高確率で勇者パーティのよう……。


「あの騎士の鎧は王宮騎士のものですね」


 ……確定したようだ。

 5分としない間にゴブリン狩りを終わらせた勇者達もこちらに気付いたらしい。


「他の冒険者もいるんだ!

 …黒髪。日本人?」

「そう言うお前達は勇者召喚された中学生か?」

「やっぱそうか。おじさんも召喚されたの?」

「いや、お前達の召喚に巻き込まれた」

「ええ!

 そんな話聞いていないぞ?!

 どういうことだよ! ロランド王子」

「……訊かれなかったからだ」


 勇者の問に視線を外して答える様は、明らかに意図的な隠蔽を物語っている。…が、俺は関わりたくないので、


「そうか。それじゃあな」


 と脇を抜けようとして腕を掴まれた。


「ちょっと待ってよ、おっちゃん。

 巻き込まれってことはチートあるんだろ?

 ダンジョン攻略手伝ってくれよ」

「あいにくとチート持ちじゃないんだ。俺のスキルは『鑑定』と『解析』で、情報収集系のスキルでな」

「なんだよ。使えないな。『鑑定』って貴族が結構持ってるやつじゃん」

「悪かったな。…と」


 そこまで言って剣を一閃する。


「ゴブリンを一撃で…。おっちゃんステータスが高いチートかよ!」

「大人な分強いだけだ」

「それでも良いから手伝ってくれよ!」

「おい! 勝手に決めるな。

 こんな胡散臭い輩を…」

「そうかな?

 巻き込まれた異世界人がいたって情報黙っていた王子もかなり胡散臭いけど?」


 …これが噂の駄目王子か。噂以上の逸材っぷりだな。

 何で既に勇者から不信感持たれてるんだよ。


「私がリーダーだぞ!」

「リーダー解任しまーす」

「「「異議なーし」」」

「なぁ!」


 まあ、中坊と傲慢野郎だとこうなるな。


「貴様ら! 助けてもらった恩を忘れたのか!」

「あ、それもう良いから」

「なんだと!」

「普通助けた時に他に助けられなかった人がいたら言うよね?」

「しかも助けられなかった人が普通に冒険者してる」

「結論、勇者召喚した悪党はお前。ファイナルアンサー?」


 顔を真っ赤にした王子だったが、勇者4人に畳み掛けられて、反論が出来なかったらしい。


「何より」

「「「「このおっちゃんと戦いたくない」」」」

「何を!」

「この手の話で巻き込まれた人がいると大抵勇者って咬ませ犬なんだぜ?」

「次から気を付けなよ?」


 …まあこの子達もアニメや漫画全盛期の現代っ子だしな。


「この!」

「良いの?」

「何がだ!」

「僕達はこのおじさんと行きますけど、2人でここに放置されて大丈夫かって話ですよ?」

「な!」

「いや、連れていくとは言ってないぞ?」


 俺に付いてくるのを決定事項のように言われても困る。


「同じ異世界人の誼じゃん。連れてってよ?」

「そう言われても…」


 いや、日本の中学生と言えど、こちらの大人よりは学力があるな。連れていく価値はあるか。


「…しょうがない。勝手な行動はするなよ?」

「やりいぃ!」

「良かったよ。咬ませ犬サイドから主人公サイドに移った」

「阿呆。現実に咬ませも主人公もない。努力しなければ、結構簡単に死ぬぞ?」

「……」


 念のため、少し脅しておく。 

 知らないところで死ぬなら、ともかく目先で死なれては夢見が悪いからな。


「すまない、我々もここから出るまで同行させてくれないか?」

「……」


 これまで黙っていた護衛騎士が申し出てくる。

 王子も反論しないところを見るに自分達の状況の悪さを理解する程度の頭はあったか。


「俺達は6層で少し馴らして、明日帰る予定だが、食料とかは?」

「ある。勇者達のアイテムボックスに入れてもらった」

「……ほう」


 じっとりとした視線を向けるとビクッと肩を震わせる勇者君達がいた。


「もしかして僕達の方がチートだった?」

「みたいだな。

 アイテムボックスって、マジか?」

「うん」

「…そこに並べ、鑑定と解析を掛ける」


 勇者を一列に並べさせる。

 まず、俺の腕を掴んできた少年。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 杉田凉 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 5

能力

 生命力 48/52

 魔力  34/34

 腕力  31

 知力  27

 体力  21

 志力  25

 脚力  28

スキル

 才能 剣の才(4)

 技能 見切り(6)

    剣術(4)

    深呼吸(1)

ユニークスキル

    アイテムボックス(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ついで、隣の腕白そうな坊主頭、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 中野伸二 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 5

能力

 生命力 53/55

 魔力  21/21

 腕力  34

 知力  22

 体力  30

 志力  23

 脚力  29

スキル

 才能 槍の才(1)

    治癒魔術の才(1)

 技能 見切り(5)

    剣術(2)

    深呼吸(1)

ユニークスキル

    アイテムボックス(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 隣の茶髪君。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 御影地神 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 5

能力

 生命力 35/44

 魔力  22/22

 腕力  33

 知力  20

 体力  36

 志力  28

 脚力  22

スキル

 才能 盾の才(3)

    頑丈(3)

 技能 見切り(7)

    剣術(2)

    深呼吸(1)

ユニークスキル

    アイテムボックス(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「地の神?」

「…ガイアです」

「マジか?」

「……」

「…すまんな」


 キラキラネームに謝る以外の選択肢がなかった。

 気を取り直して、最後に眼鏡君。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 大池道也 性別 男

種族 人間

職業 勇者

レベル 5

能力

 生命力 30/32

 魔力  41/41

 腕力  21

 知力  32

 体力  24

 志力  29

 脚力  19

スキル

 才能 風魔術の才(1)

 技能 見切り(3)

    剣術(2)

    深呼吸(1)

ユニークスキル

    アイテムボックス(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 やはり思った以上に優遇職のようだ。

 ユニークスキルが皆一緒の辺が違和感があるが、


「何で皆して剣と盾を装備してるんだ?

 才能に合わせた武器にしろよ」

「はあ?!

 そんなの基本だよな?

 どうなってるんだ、ロランド王子」


 びっくりした顔で詰め寄る御影。

 まあそうだな。


「実際、才能と武具の一致している杉田は他の連中に比べて剣術のスキルレベルが良く上がっている」

「ちょっと待て!

 スキルレベルと言うのは何だ?!」

「ああ、スキルにもレベルがあるが、ただの鑑定では分からないんだったな」

「やっぱおっちゃんもチートじゃん」


 俺の説明を聞いていたロランドが声を荒げ、杉田が呆れて肩を竦めた。


「解析のスキルがあれば誰でも分かる。チートじゃないだろうに」

「けど、今まで誰もスキルレベルの話をしてないんですよ。

 解析自体が激レアスキルかも…」

「……その可能性も確かにあるか。

 まあ良い。さっさと先に進むぞ!」

「誤魔化すなよ! おっちゃん!」


 追及されると面倒だと思った俺は先を急いだのだった。

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