第19話 冒険の再開

 ガンツから受け取った大剣を背に背負って、再びダンジョンに足を踏み入れた俺達は、順調にゴブリンを狩りながら、先を急いでいた。

 目的の階層を6層以下の層に定めたからだ。

 このダンジョン『鬼の祠』は5層以上の層はゴブリンしか出ないから稼げず、かといって5層に出るオーガを倒すのはある程度の実力がいるので、6層に進むのは難しい。

 そう言う性質からここは冒険者に不人気のダンジョンになっているのだが、6層まで消耗なく行ければ、意外と稼げる良いダンジョンだと言う。

 6層からはゴブリン上位種やオークが出てくるようになり、ゴブリン上位種の武器や防具は、魔鉄製で鉄よりやや丈夫だし、売れば良い値が付く。

 オークは魔力のこもった肝臓を取ることが出来、滋養強壮に効果がある。

 9層まで降りれば、オーガも出てきてそのドロップ品の皮は上質な鎧の材料になるらしい。


「後、このダンジョンは7層に巨大な亀裂があり、そこからかなり下の階層まで降りれるらしいです。

 最も一気に降りて強敵に出会えば危険だと思いますが」

「どれくらい下まで通じているんだ?」

「分かりません。

 噂では16層にも同じ亀裂があったとのことですからそれよりも下でしょうね」


 今日の話し相手はヒーラー見習いのアリエス。

 この間のオーガ戦でかなり強くなったロベルト達騎士組は安定してゴブリンを狩れるようになり、俺が下手に手を出して利益を独占するのが望ましくなくなった。

 そして怪我を負わなくなったのでアリエスも暇になったのだ。


「レベルが順調に上がれば利用しても良いかもな。

 …そう言えば、何でアリエスはこのパーティに参加したんだ?」

「何ですか、急に」

「いや、俺はレベルアップとダンジョンの秘宝目当て。

 ロベルト達は侯爵閣下の指示だろ?

 けど、アリエスは別じゃないか」

「そう言うことですか。

 まず、1つは私はミニアの従妹なので、ミニアに協力したかったのですが、もう1つは純粋にレベルアップです。

 私の知力だと『ヒール』の効果は1回に生命力を5ポイント回復出来るぐらいなんです。

 しかも魔力が少ないので3回くらいしか使えません」

「それでレベルアップしたかった訳だ」

「はい」

「それなら案外目的を達しているかもしれんぞ?

 能力値を確認しようか?」

「ああ、ユーリスさんは『鑑定』持ちでしたっけ。

 それじゃあお願いします。

 支払いは相場の銅貨50枚で良いですか?」

「銅貨50枚?」

「あ、冒険者ギルドだと銀貨1枚でしたっけ?」

「いや、仲間の能力値を知るのはパーティの生存率向上に繋がるからタダで良い。

 …けど、結構するんだな」


 例えば、1日に10人鑑定すれば銀貨10枚。

 月30日働いたとして、金貨3枚となれば、従騎士のベックと変わらない。

 仕事の危険度を加味すれば非常に良い職だ。

 …専門技能が一般職より高給取りなのは当然か。


「早くお願いします!」

「お、すまん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 アリエス 性別 女

種族 人間

職業 神官

レベル 9

能力

 生命力 44/44

 魔力  29/29

 腕力  24

 知力  10

 体力  28

 志力  18

 脚力  11

スキル

 才能 見切り(2)

    体捌き(2)

 技能 治癒魔術(2)

    身体能力向上(3)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…何でお前ヒーラーやってるの」

「え?」

「お前、どう見ても盾を使ったディフェンダー向きのステータスだろうに」

「そうなんですか?

 神殿で神官の職業をもらったのでヒーラーになったんですが…」

「どういうことだこれは?

 …まあ良いか。俺も今度神殿に行ってみよう。

 そこでなにか分かるかもしれん。

 ステータスを伝えるのは口頭で良いか?」

「あ、魔力と知力だけでいいです」

「そうか。

 魔力29、知力10だな」

「あ! それならヒールが5回使えます!

 ……回復量は一緒ですけど」


 前半は嬉しそうに、後半は落胆を滲ませて複雑な顔でそう言うのだった。


「そうなのか」

「はい。

 教会ではヒールは消耗魔力6、回復量は4と知力の1割と習いました。

 ベテランになると不思議と少し増えるんですけど」

「ふうん」



 解析

 ヒール 消耗魔力6 基本魔術度3 回復量 基本魔術度+知力×0.1+治癒魔術スキルレベル×0.1

 端数は切り上げ


 と言うことは、3+1+1の回復力があるのか。

 微妙に違うのだな。

 経験則からの8割正解くらいか。


「この間の応急回復薬が高価な理由は良く分かった。

 けど、あれと同じくらいの回復力のある魔術もあるんだろ?」

「そうですね。『エルダーヒール』がそれぐらいの回復力があるはずです」

「どれくらいで覚えるんだろう?」

「レベル30を超えないと無理ですね…。

 私には無理な世界です」

「そうか。けど、それはそれとして暇だな」

「…そうですね」


 3層まで来たが騎士組の戦闘時間は、なんだかんだと1回に約10分くらい掛かるので、意外に時間が掛かり、その間待ってる俺達は暇をしていた。


「ユーリス殿達は余裕そうで良いですね」

「前に出ようか?」

「いえ、そうなると自分達では足手まといなので…」

「じゃあ言うなよ」


 緊張感を漂わせている騎士組としては俺達に文句を言いたい気持ちも分かるが、現状では俺1人またはアリエスとのタッグの方が効率が良いのだ。

 ベックが言うように若干足手まとい気味なのも事実。

 けれど、パーティを解散できない状態だからこその分担が、4層まで騎士組、5層から俺の参戦となっている。

 とは言え、


「暇なんだよな……」

「どうやらそれは解決しそうですよ?」

「ん?」


 ぼやくのをやめられない俺に、ロベルトが緊張した声で答える。


「これを見てください。

 ゴブリンの魔石です」

「うむ」

「これが落ちていて、周りに血痕1つないと言う状況。

 ……半日程前にここを先行したパーティがいます。

 しかもゴブリンの魔石程度は必要としないパーティが」

「深層探索の冒険者じゃないのか?」

「違うと思います。

 仮に邪魔になったらそこで棄てれば良い。

 最初から拾わないのは、ゴブリンの魔石程度は無視できる立場にいる者と言うことでしょう」

「そう言えば、剣聖ベインのライバル貴族冒険者が言ってましたね。

 『パン1つにもならない魔石を拾うのか』って」

「そうなるとこの先にいるのは、貴族か騎士のパーティか…。

 最悪勇者パーティの可能性もあるな」

「はい。気を付けてくださいよ?」


 勇者パーティがいるかもしれない状況に、ロベルトが注意を促すがそれは向こうに言うべきだろうな。

 ……どうなることやら。

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