第16話 ゴブリン狩り

 最初にステータスを確認しておくべきだった。とダンジョンにやって来た祐介はすぐに後悔した。

 目の前には、


「『ファイヤーボール』」


 と叫んで右手をかざす娘の姿。

 そして飛び出す人の頭ほどもある炎の玉。


「ギエェェ」


 後は断絶間の叫びを挙げて消滅するゴブリン達。

 …まなは既に魔術を習得していたらしい。昨日俺に飛んできたのもまなのファイヤーボールだったのだ。

 てっきり講師の魔術師のものだと思っていたのだが。


「ねえ、うちの娘は嬉々としてゴブリンを倒してるんだけど?」

「…なんでだろ?」


 最初はこうじゃなかった……。

 ここに入ってすぐに出会したゴブリンに俺はこの間ドロップした鉄の剣で斬りかかり、倒した所までは嫌そうな顔をしていたんだ。

 今も騎士の背中で青い顔をしているファイトと共に。

 けれど、ゴブリンがダンジョンに呑み込まれ、1粒の魔石になった所で平然とし始めた。

 そこで嫌な予感はしたんだが、討伐数が3体を越えた辺りで私も戦うと言って前に出てきた。

 正直困ったがまなと、


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名前 鷹山真奈美 性別 女

種族 人間

レベル 1

能力

 生命力 28/28

 魔力  45/45

 腕力  8

 知力  16

 体力  7

 志力  15

 脚力  9

スキル

 才能 炎魔術の才(1)

    癒し魔術の才(1)

 技能 詠唱加速(1)

    炎魔術(1)

ユニークスキル

    浄炎の担い手(1)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 出てきたゴブリン、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 なし 性別 男

種族 ゴブリン

レベル 3

能力

 生命力 12/13

 魔力  2/2

 腕力  8

 知力  5

 体力  10

 志力  3

 脚力  9


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 両方のステータスを比べて許可を出した。

 危険を認識もしないでゲーム気分でいられるのは困るからっと。

 しかし、予想の斜め上を行かれて、いきなりファイヤーボール。

 で瞬殺されてから、計画が狂った。

 しかもそこでレベルアップをしたから質が悪い。

 ゴブリンなら一撃で確殺出来るらしく、大喜びでゴブリン狩りを始めた。


「…ええと、当初の予定はお嬢さんとファイト様にダンジョンの怖さを教えるでしたか?

 多分、最初から無理でしたね。これ」


 同行してくれている騎士のポールが呆れ気味に口を開いた。


「どういう意味だ?」

「基本的に下級の魔物は魔術に弱いんですよ。

 しかも王都近郊のダンジョンは元から魔術抵抗の低い系統モンスターの棲み家ばかりですし…」

「そうなのか?」

「はい。

 まあお嬢さんはちょっと強過ぎますけどね。

 普通の駆け出し魔術師はファイヤーボールなんて使ったら、1時間は役立たずになります」


 その言い方に違和感を覚えた俺はまなを良く観察することにした。


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名前 鷹山真奈美 性別 女

種族 人間

レベル 3

能力

 生命力 28/41

 魔力  40/62 → 32/62

 腕力  12

 知力  29

 体力  14

 志力  31

 脚力  19

スキル

 才能 炎魔術の才(2)

    癒し魔術の才(1)

 技能 詠唱加速(3)

    炎魔術(3)

    深呼吸(1)

ユニークスキル

    浄炎の担い手(3)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああ、ファイヤーボールの消費魔力は1発辺り魔力値8なのか」

「どれぐらいの消費なの?」

「優香なら10発以上行けるな」

「それじゃあ意味ないでしょ!」

「冗談だ。昨日ギルドで見たレベル8の魔術師は魔力値17だから2発撃てるくらい?」

「…まなちゃん。かれこれ10回以上使ってるわね」

「ああそれは、まなの魔力が多いんじゃなくて、深呼吸ってスキルを得たせいだ。

 深呼吸、1回使用毎に魔力をスキルレベル掛ける2回復。

 再使用待機時間5分」

「…20分あれば、ファイヤーボールが1回使えるのね」

「ああ。これは壊れ性能なスキルだと思うぞ?

 スキルレベルがどれだけ上がるかわからないが、仮に10まであったら、5分で20回復する計算だ」

「ファイヤーボール2回分ね。

 確かに凄いわ」

「私らから見たら一番凄いのは、ユーリス様の『解析』ですね。

 スキルを見ただけで詳しい能力を知ることが出来るなんて羨ましいです」

「そうなのか?」

「ええ。今聞いた深呼吸ってスキルは、魔術師は獲得しません。

 大抵前衛職が獲得するので前衛向きスキルくらいにしか…」

「使わないと効果がわからないのか」

「はい。しかもその情報が間違っていることも…」

「…ああ。きついな、それ」


 例えば物理耐性のあるモンスターをひたすら武器で殴るような非効率に陥るかも知れず。

 その上現実ではリセットボタンはない。

 ん?


「一仕事するかな!」

「『ファイヤーボール・ダブル』」


 2体のゴブリンが同時に出てきたので剣を手に駆け付けようとしたら、娘に出番を奪われた件。


「一仕事するかな?

 一仕事?」

「うるさいよ。まな強過ぎじゃない?」

「ふふーん♪」


 からかってくる嫁に文句を言ってからまなを見て呟く。

 こちらは胸を張って心なしか嬉しそうだった。


「しかも今ので初レベルアップ…。

 なんか悔しい。」

「良かったじゃない。

 強くなるのは良いことよ。…プッ」

「笑うな。ひとまずどれくらい能力が上がったのだろう?」


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名前 鷹山祐介 性別 男

種族 人間

レベル 2

能力

 生命力 250/297

 魔力  220/260

 腕力  82

 知力  85

 体力  88

 志力  91

 脚力  84

スキル

 技能 鑑定(2)

    解析(1)

    剣術(4)

ユニークスキル

    竜へ至る魂(2)


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「…深刻に人間やめてない?

 生命力なんて300寸前じゃない」

「言うな。本当に人間をやめることになったらどうするんだ」


 しみじみと呟く嫁に疲れた声で返すものの冗談抜きでドラゴンになる未来が見えそうな能力の上昇幅だった。


「まあ強いのは良いことですから!

 それよりもそろそろ帰還しましょう?

 夜までに戻るように指示されてますので…」

「そうだな。まな!

 そろそろ帰るぞ!」

「ええ! もうちょっと遊んでく!」

「遊んでって、遊園地じゃないんだぞ!」

「むう。また来て良い?」

「俺かママと一緒ならな」

「その時はもっと奥まで連れてってよ!」

「考えとく」

「……ユーリス殿も十分遊び半分では?」


 ポールの呟きを黙殺して、帰路に付くことにした。

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