第17話 勇者覚醒

 勇者が召喚されて3日目、ついに目覚めたと聞いたロランドは早速勇者4人が寝ていた貴賓室の1つへ向かったのだった。そして、


「はじめまして勇者諸君。

 私はこの国の第1王子ロランドと言う。

 まず、無理やり異世界へ召喚してしまったことを犯人達に代わって詫びよう」


 部屋に入ってすぐに謝罪を述べる。


「犯人達に代わって?」

「どういうこと?」


 異口同音に疑問を口にする勇者に対し、ロランドは悲痛な表情を浮かべた。


「君達を召喚しようとしたのは、私の弟で第2王子のレンターとそれを支持する大臣達だ。

 彼らは私の王位継承を邪魔立てしようと、君達を召喚して戦力にしようと企てた。

 それを憂いた愛国者が密告してくれたので、君達を保護することが出来たが、儀式そのものは止められなかったのだ。すまない」

「つまり悪者の大臣とその人に騙されている第2王子が敵で、俺達は悪者に利用されそうだったってこと?」

「そうだな」


 勇者が暴走してしまえば、自分達の命が危ないと自覚している貴族達の描いたシナリオに沿って、ロランドは儀式の犯人を自分達の対抗馬だと捏造する。


「じゃあ、その大臣を倒しに行けば良いの?」

「いや、それは無理だ。城の中は大臣達に占拠されている。

 下手に騒げばこちらが殺されるかもしれない」

「殺され!」

「嘘だろ!」

「皆慌てるなよ。これはあれだ。

 俺達がヒーローになる演出だぜ」

「そうか。漫画とかで失敗したら殺されるって、最初に言われるけど、滅多に死なないもんな」

「だろ?

 それに今の俺達は主人公の立場みたいだから…」

「安心だね。

 僕達が勇者かぁ」


 実際のところ、主人公サイドの者でも見せ場で死ぬことは良くあるが、全員が自分こそメインの主人公で死亡要員だと思っていない。


「それで俺達は何をすれば良い?」

「そうか、こう言う一番最初に出てくる人が主人公に目的を教えてくれるもんな!」


 一方のロランドも勇者達の不思議な言動を気にせずにいた。

 そもそも彼は勇者を自分が王になるための道具としてしか見ていない。

 誠実に対応する気なら互いの自己紹介くらいはするだろう。


「大臣に操られていない私と一部の貴族や騎士はダンジョンにあるマジックアイテムで洗脳を解こうと考えている。

 しかし、現状では戦力が足りずに困っているのだ。

 勇者達も私のダンジョン攻略を手伝ってほしい」

「王道だな!

 ダンジョンを攻略したら元の世界に帰れるから頑張るって感じじゃねえ、これ」

「多分ね。けど、何で主人公達は元の世界に戻りたいんだろ?」

「あれじぇね?

 漫画を描いてる大人は収入のある安定した仕事についているんだから、帰りたいのが当たり前なんだぜ、きっと」

「そっか。僕らは大人になる頃どうなるかもわからない不安な世界に生きてるから、帰りたくないって思うのに、リアリティーほしいよね!」

「むしろ妹とか連れてきたいぜ! 俺は」


 自分は特別で優遇されるのが正しい。

 それは老若男女誰でも心の根底にある願望、それが子供の頃から満たされることは稀で、思春期を迎えている彼らはよりその傾向を強くする。

 異世界に飛ばされたと言う非日常は彼らのその感情をより強固な物に変えた。

 特別だから死なない。

 特別だから厚遇される。


「それでは頼むぞ。

 早速明日からダンジョンに潜る。武器や防具は今日中に用意させる」


 そう言って出ていくロランド。結局お互いに眼を合わせることをしないまま、王子と勇者の邂逅は終わりを迎えるのだった。


「よし、やってやるぜ!」

「うん! 頑張ろう!」

「どうせなら貴族になってみようぜ」

「良いな! それ!」


 そして残されるのは、特別な自分に酔った少年達だった。

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