第15話 侯爵の説得
侯爵邸に戻った俺は、まなを探していると入り口近くのメイドに告げ、修練所にいると聞いたらロッド翁に会いたいと言伝てて、裏庭にある修練所へ向かった。
これでセイル辺りが呼びに来るだろう。
そんなことを考えながら歩いていたからか、
「危ない!」
修練所まで辿り着いた俺に掛けられたのは警告。
目の前に火の玉が迫っていた。……邪魔だな。
と片手で軽く払って、目的の人物を探す。
すると、まなは掌を突き出した格好で目を見開いて驚愕していたのだった。
まなと一緒にいた優香、ファイト、リリーアに講師らしいローブ姿の爺さんも一緒に。
「優香も一緒か。丁度良い。
まな、明日ダンジョンに連れて行ってやるぞ?」
「え? ええ! 本当にダンジョンに行っても良いの?!」
「あくまでも見学だけだがな。俺がゴブリンを狩るのを後ろで見学させてやろう」
「わーい!」
「ちょっと祐介」
両手を挙げて大喜びのまなを見ていようとしたら、優香が俺の襟首を掴んで引き寄せた。
「どういうつもり?」
「どうやらこの国には、子供を冒険者に誘い込む有害図書が蔓延しているらしい。
多少小さな内からダンジョンが怖いところだと言う認識を植え付けておく方が安心だ」
「そんな上手くいくかしら?」
「大丈夫だろ。
今のまなはゲームやアニメの影響で憧れているだけだ。
魔物でも斬れば血を吹き、錆の匂いが鼻を突く現実を知れば怖じ気付くさ」
「本当に大丈夫かしら?」
「大丈夫だって。
お、セイルが来たな」
不安そうな優香を宥めていると修練所の入り口にダンディな家令が現れた。
来るのが早い。俺達への対応優先度の高さが透けて見えるな。
「ご当主様がお会いになるそうですので、こちらにどうぞ」
「じゃあ、ロッド翁を説得してくる。結果は後で話すから」
優香はセイルの後に従う俺に不安な顔をさせていた。
……心配性だな。
「…すまん。儂にも理解できるように説明してくれんか?」
ロッド翁の執務室に入って、早々に提案を出したが、俺の提案を聞いたロッド翁が額に手を当てて、考え込む。
「そんな難しい話じゃないだろ?
まなにダンジョンの怖さを教えておきたいのだ。
下手に大きくなってから無鉄砲に突っ込んだら危なすぎる」
「言いたいことは分かるが危険ではないか?」
「ゴブリン相手ならよほど安全だ。
俺が独りで戦い。それを後方から見せるだけだしな」
そう説明しても難しい顔の侯爵だったが、
「どうじゃろう?
儂の孫も同行させてくれんか?」
「どういうことだ?」
「お主の言い分も正直言って一理ある。
けれど危険に違いはあるまい。
そこでじゃ、真奈美嬢の護衛をファイトにやらせて、それを騎士に守らせれば安心じゃろう。
儂の孫もダンジョンに憧れていて困っているし、丁度良いと思ったんじゃよ」
「なるほど。では実際に連れていくのは明後日に先延ばしにした方が良いかもしれないな」
「いや、明日にしてほしい。
明後日は少し不安な要素がある」
「不安な要素?」
「明日辺りに勇者達が目覚めるじゃろうし、それに対する対応がのう。
ロランド王子がやらかさないかと」
「よほど大丈夫だろ。
相手の勇者も子供だし」
召喚の裏事情に気が回るとは思えない。
互いに都合の良い未来を見て意気投合してやってくだろう。
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