第14話 そして暇になる

 異世界舐めてたわ。

 ネットもない。本も(娯楽になるのは)あまりない。

 3日間の休みは半日が過ぎた所で既に手持ち無沙汰になった。

 ……思った以上に現代人には辛い世界だぜ。


「……なあ、娯楽の類いって何があるよ?」

「そうですね。私は寝る前の晩酌が楽しみですけど…。

 ちょっとした金を得た冒険者なんかは花街に繰り出したりしますね」


 俺の問いかけに最初に口をひらいたのは、ベックだが、衛生的にも倫理的にも論外だった。


「一児の父としてそんなことは出来ない。

 他には?」

「教会でお祈りはどうでしょう?」


 ミニア曰く、信心深い者は結構教会に入り浸って、お祈りをしたり、坊主の説教を聴くらしい。

 キリスト教圏やイスラム教信者には一定数いるが、普通の日本人には厳しい。


「後は賭博場での賭け事くらいでしょうか?

 そもそも私達はあまり休みを取るって感覚がないのですが…」

「そうなのか?

 今も休みみたいな物だろ?」

「今は護衛中ですよ?」

「けどあまり気は張ってないだろ?」

「いえ、それなりに周囲を気にしてます。まあ、祐介殿は我々より強いのでそれなりにですが…」


 よくよく考えてみれば、余暇と言う考えは産業革命の以降か。

 現代の日本ほど職の専門性が増してはいないのだろう。

 だから仕事自体のハードさは低く、ある程度の緩みは許容される。

 その代わり、あまり丸一日休むって発想が生まれていない。

 例外は冒険者。

 命掛けで危険なダンジョンに潜り、その分出てきたら数日の休みで英気を養っている。


「明日はダンジョンの浅い階層でも彷徨いてくるかな」

「さすがにそれは……」

「冗談だ。修練でもするさ」


 内心では状況次第だがと呟きつつ、ベック達へ返す。

 …冒険者ってのは、つくづく人がよく生まれよく死ぬから成立する業種だよな。

 娯楽が少ないから、男女の営みが多く行われ、結果多産となる。

 子供が沢山産まれれば、所得に対して支出が増えて貧乏になり、生きるのに困らないところから切り詰められる。これが現代なら娯楽だが、中世の文化レベルなら教育になる訳で。

 学がないから労働価の低い仕事しか出来ないが、そう言う仕事の供給量は需要を満たせない。

 その状況だと働きたくても仕事がない者が増えて、その内スラム化するのだが、そこにダンジョンと冒険者が加わるとあら不思議!

 ダンジョン探索と言う仕事で学のない人間が命の切り売りをして、一部の才能ある人間や知恵の回る人間が上流や中流の階級へと昇格していく。

 行政は学のない人間をダンジョンに誘導するだけで、経済をすんなり回せる訳だ。


「そう言えばファイトが…」

「ファイト様がどうかしたので?」


 うっかり、貴族の子女にも冒険者に憧れる者がいるのは少し問題だと言う主旨の話をしそうになった。

 ベックめ意外と耳聡いな。


「いや、ファイトは冒険小説を読んでいた気がしてな?」

「ああ、『剣聖ベインの冒険』ですね。

 親としては子供にあまり読んで欲しくない本ですけど、実際の冒険者が監修しているので、臨場感はあるようですが…」

「なるほど」


 親としての懸念は正しいと思うから相槌を入れておくが、コイツは自分の今の仕事が漏れることが危険とまでは理解してない気がする。

 俺も他人事ではないが…。

 うちのまなにも困っているし、……そうだな。やはり明日はダンジョンに潜ろう。

 まなを連れて行ってゴブリン狩りを見学させれば、冒険者になるなんて無茶は収まるだろうし。


「すまないが、明日はダンジョンに潜る。最上層でうちの娘が無茶をしないように釘を刺す」

「それは止めた方が良いのでは?

 小さな少女にはトラウマになりかねませんよ?」

「だからやる。

 批判はされるだろうが、娘の命には代えられない」


 眉をひそめるベックとミニアに断言して、俺は侯爵邸への道を急いだ。

 

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