第13話 次いで錬金術師の工房へ

 ギルドから南に少し行った所で奥まった路地に入り、その先にある小ぢんまりした家が錬金術師の工房だった。


「すみません、ガンツ殿。

 ボーク侯爵家の使いの者です」

「おう。入りな!」


 ベックがノックすると威勢の良い声が響く。

 錬金術師? 鍛冶師と間違えてるんじゃ?

 とも思ったが、工房の中は巨大な鍋が置いてあったり、フラスコ等の科学で使うような器具もあった。


「それで何のようだ?

 魔道具でも欲しいのか?」

「いえ、今回は侯爵家の客分であるこのユーリス殿を案内してきたのです」

「コイツを?」


 怪訝そうな顔をする小太りのおっさんに会釈だけしておく。


「背負ってるそれが用件か?」

「ええ。これはダンジョンで手に入れた物なのですが、大斧なのに『剣の才』が付いてましてね」

「なるほど。

 だが、そのサイズを形状変化させるとかなりの大剣になるぞ?

 お前さんのようなひょろいのに振るえるか?」

「重さは変わらないでしょ?

 ダンジョンの帰りには結構使ってましたけど、問題なかったですよ?」

「ほう。なら問題ないな。

 3日ほど預かるが良いか?」

「3日…。

 分かった」


 意外と時間がかかるものだとは思うが、現実問題それくらいは時間がいるのが当たり前だな。

 どうせ2日はロベルトの謹慎期間だし、丁度良い。

 そんなことを考えているとノックの音が響く。


「なんじゃ、今日は来客が多いのう」

「タカール伯爵閣下のお越しである。

 平民共、平伏してお迎えせよ!」


 文句を言いながら扉を開けようとしたガンツだが、その前に騎士姿の男が入ってくる。

 後ろにネズミのような眼をした男を伴いながら。


「久しぶりですな。名匠ガンツ殿」

「なんじゃ、タカールか。

 まだ貴族を除籍されておらなんだか」

「ウグッ、相変わらず口が悪いですな。

 今日は折り入って頼みがありましてな」

「断る」

「せめて内容を聞いてから断って下さいませんか」

「興味がない。

 今回面白そうな仕事が出来たしな」


 そう言って俺が持っていた大斧を見る。

 いやそう言うことされるとこっちに矛先が向くんだが。


「なんだ。平民の仕事等後回しにしろ。

 こっちは勇者の武具を用意する名誉ある仕事だぞ」

「勇者?

 そんなの何処にいるんだ?」

「ウッ。

 それは……、あれだ! 近々召喚の儀が行われるかもしれなくてだな」

「じゃあ、そんときで良いだろうが!

 目の前にいる客といつか召喚されるかもしれない勇者のどちらを優先するかなんて考えるまでない」


 これは面白い。この変な伯爵は勇者召喚が行われたことがバレるのを嫌がっているみたいだ。

 ……つついておくか。


「いや、ガンツ殿。

 勇者召喚は既に行われているぞ?

 弟に王位を奪われそうな第1王子とその配下が独断でやらかしたんだ」

「おいおい。正気か?

 そんなことしたら、極刑にされても不思議じゃないだろ!」

「貴様!

 平民のクセに何故それを?!」


 出来損ないの貴族だな。

 しらばっくれるくらいの機転もないのか?


「おいおい酷いな!

 巻き込んだ挙げ句、放置していったクセに顔も覚えていないのか?」

「な!」

「初めまして?

 異世界人の鷹山祐介と言います。以後お見知りおきを!」


 優雅に挨拶をすれば、明らかに狼狽して後ろに下がる。

 そして、


「コイツは国を混乱に陥れる不届き者だ!

 殺せ! 殺してしまえ!」


 と護衛に呼び掛ける。

 その言葉に迷いながら剣を抜く護衛達だが、こちらにいたベックも前に出た。


「お止めください。この方はボーク侯爵家の客人ですよ。

 そのような狼藉は……」

「なんだと!」


 激昂し始めたタカール伯爵(笑)だが、ベックの言葉に顔を青くする。


「異世界人だからこの世界で後ろ楯がない。

 けど、それを放置したのを勇者が知れば、最悪反乱だってあり得るかも知れない。

 そう言う意味ではボーク侯爵はお前達の恩人だな」

「チィ。帰るぞ!」


 ロッド翁の話から水面下で第1王子と第2王子の派閥がぶつかっているだろうとは思っていたが、この程度なら大して大事にはならなそうだな。

 ……第1王子閥がショボすぎる。

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