第12話 まずはギルドへ

 前日に比べゆっくりとした朝を迎えられた俺は、家族で朝食を取り、迎えに来たミニアとベックと共に侯爵邸を出る。

 昨日に続いて留守番のまなが怒るかと心配したが、


「私、魔法を習うから!」


 と満面の笑顔で送り出され、複雑な気分となった。

 まあ、外へ出れないストレスを溜め込むよりマシだろうと気持ちを切り替える。


「それでは昨日の戦利品を買い取ってもらいにギルドへ行きましょうか」

「一応、2人が護衛ってことで良いのか?」

「そうですね。必要ないと思いますけど」


 そう言ったベックの視線は俺の背に括られた大斧に向けられる。

 ……だよな。こんなでかい武器を背負った人間に喧嘩売るやつはただのバカだとしか思えん。


「一応、街を案内する役割を担っておりますわ」


 ミニアの言い分はフォローになってなかった。

 道行く人が数人分の間隔を空けて離れていく様を眺めながら、辿り着いたのは3階建てのレンガ造りの建物。

 昨日はまともに外観を観る余裕がなかったし、1人だったら通り過ぎた可能性があるな。…これ。


「私は換金をしてきますんで、その辺のテーブルで待っててください」

「頼むよ」

「ちょろまかしたらダメよ?」

「そんな命知らずじゃありませんよ」


 ミニアの冗談に笑いながら、空いているテーブルを探していて、トラブルがやってきた。


「おいおい、その斧は俺の親父の奴じゃねえか!」


 トラブルは髭面のおっさんの顔をしていた。


「どういう事だ?

 これはダンジョンで手に入れたものだぞ?」

「そらそうだろ!

 ウチの親父はダンジョンで死んじまったんだ。その時取り込まれた斧に違いない!」

「ああ、そう言うこともあるのか」

「それを俺にくれ!

 もちろんただとは言わねえ。金貨3枚でどうだ?

 俺にはそれが精一杯なんだ!」

「何を寝言を言ってる…」

「おいおい、コイツの親父の形見だろ?

 そこは多少安く譲ってもバチは当たらんだろ?

 俺達冒険者から義理と人情を取ったらただの無法者になっちまう。

 なあそうだろ!」


 横から入ってきた男が周囲の人間を煽って、アウェーな空気を作り出す。

 面倒だが、しょうがないか。


「お前の親父の名前は?」

「いきなりなんだよ?」

「この手の武器は鑑定すれば、誰の遺品か分かる。

 お前の親父と同じ名前ならこれをくれてやる」

「それなら……」

「慌てるな。

 仮間違っていたら、迷惑料として先ほど指定した金貨3枚を貰う。

 義理と人情を重んじる冒険者が他人に迷惑を掛けるんだから当たり前だよな?」

「そんな暴利な…」

「暴利?

 本来なら金貨30枚の代物を金貨3枚掛けるだけで手に入るかもしれないのに?」

「ウグッ」


 言葉を詰まらせる髭面を睨み付けていると、


「よう!」


 昨日忠告をくれたおっさんが肩に手を回して来た。


「ラ、ランスターさん…」

「昨日忠告をくれた人か」

「無事帰ってきたみたいじゃないか。

 それでグラッブ。

 本当にこの大斧は親父さんの形見かい?

 よぉく見てみな?」

「ああ?

 あ! 違うな!

 俺の勘違いだ!

 すまんかったな。今度昼飯を奢るぜ!

 ハハハ!」

「…まあ良い。

 丁度、換金も終わったようだし、それで勘弁してやる」


 怪訝そうな顔から驚いた顔になった髭面が笑いながら去っていく。

 俺もこのギルドで出禁を食らうわけにはいかないので見逃すことにした。


「すまんな。俺も今度奢ってやるから勘弁してやってくれ」

「……そうだな。明日の昼飯を奢ってくれ。

 この場で迷惑を被った全員分な!」

「ちょっ!」

「ゴチになります! ランスターさん!」

「明日はただ飯だ!」


 俺の意趣返しを慌てて止めようとするランスターの声は歓声に飲み込まれていった。


「ちくしょう! 分かったよ! 奢ってやるよ!」


 ランスターの敗北宣言と共に拍手が巻き起こる。

 さて、錬金術師の所へ向かうかね。


「おい、仲間にも声かけ……」

「あんま調子乗ってると絞めっぞ? こら」


 冒険者の1人にアイアンクローかましているランスターを放置して、騒がしいギルドを後にした。




「…行ったか。

 おい! グラッブ。

 喧嘩を売る相手ぐらい考えろや。

 そんなだからお前は三流なんだよ! ど阿呆!」

「すみません。

 けど場馴れしてる雰囲気もありませんでしたし…」

「バカ野郎。

 あの手の化け物に場馴れなんて関係ないんだよ。

 間違いなく俺よりつええ。

 下手したら、ロンドより上じゃねえか?

 マジでおっかねえ」

「まさか、ロンドさんより上だと深層探索者レベルってことですぜ」

「興味深い話をしているな。

 少し詳しく聞かせてくれ」


 グラッブへの説教に割り込んできたのは、王都ラーセンの支部を預かる支部長のレッグス。


「良いですけど、来客中じゃなかったんですか?」

「さっき帰った。かなり無茶な要請を出してな」


 心から苦々しいと言う顔のレッグスに興味をそそられたランスターが尋ねる。

 周辺の冒険者も耳を傾ける。


「何があったんです?」

「さっきの客はコッスイの使者だったんだがな。

 深層探索が出来る実力者で出来るだけ無名の冒険者を紹介しろだと!

 居るわけないだろ!」

「そりゃそうでしょ。

 それなりに潜って稼げる時点で結構な知名度になってますよ?」

「そう言ってやったさ。

 騎士でも探せってな!」

「どうなりました?」

「……使者も分かってたんだろうな。

 一応探してくださいって、苦笑いして帰っていった」

「じゃあ、冒険者が無謀な冒険にかり出されることはないんですね?」

「大丈夫だろうと思うぜ。

 お前らも命が惜しいなら美味しい話にホイホイ乗るんじゃねえぞ!」


 そう締めくくるレッグスの言葉に皆一応に頷くのだった。

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