第11話 子供達の交流会

 祐介がダンジョンに潜った日。

 侯爵家から貸し与えられた部屋の一室で1人の少女が不機嫌に頬を膨らませていた。


「パパだけズルい。私も冒険者やりたいのに!」

「ダメに決まってるでしょ!

 もうちょっと経ってから」

「けど、私やママの方が優秀なスキル持ちなんだよ」

「そんなことは分からないでしょ?

 スキルがあれば強いとは限らないでしょ?」


 優香自身もアニメを観るし、旦那と娘に付き合って異世界転移も観たことがある。

 それに祐介のスキルによる不思議現象も体験した。

 けれど父娘ほどに現状に付いていっているかと言うとそうでもない。

 正直に言えば祐介がダンジョンに潜るのだって反対だ。

 けれど、真奈美をこんな危険な世界に置いておきたくないと言う目的がある以上はと受け入れている。

 そんな優香にとって真奈美がダンジョンに潜るのは論外な話だった。


「けど!」

「失礼します。坊っちゃんとお嬢様がご挨拶したいとみえられていますけどどうしますか?」

「ファイト君とリリーアちゃんでしたっけ?

 案内してもらえます?」


 真奈美の反論を遮るようにメイドのグレアが部屋をノックしたので、これ幸いと優香はそれに乗った。


「それではお通ししますので」


 グレアがそう言うと同時に2人の子供が部屋に入ってくる。


「失礼するよ」

「お邪魔します」


 軽く手を挙げるファイトに行儀よく頭を下げるリリーアが対照的だった。


「ようこそ。ファイト君とリリーアちゃん」

「…こんにちは」


 母子の方も笑顔の母親に対して膨れている娘が対象的だが…。


「少しでも仲良くなりたいなっと思って訪ねてきたんだけど、お邪魔だったかな?」

「そんなことはないのよ?

 まなちゃんは自分も冒険者になりたかったって拗ねているだけ」

「分かります!

 僕も冒険者になりたかったけど、跡取りのお前に必要ないって皆言うんです!」


 事情を説明した優香にすごい勢いで食い付いて来たファイト少年。そしてその様子に少し彼への警戒を下げる真奈美だった。


「だよね!

 冒険者は憧れだよ!」

「そうだね!

 常に危険と隣り合わせだけど、決して諦めずにダンジョンに挑み、成り上がることを挑む生き様!」

「止めてくださいまし。

 野蛮ですわよ。態々危険に飛び込むなんて!」


 意気投合し始めたファイトと真奈美に苦言を述べるのは、リリーア嬢。


「本当に。

 私達は魔物なんていない世界の出身でしょ。

 こう言う世界に憧れる子って多いのよ。

 しかもこの子たら、幾つかスキルがあるから余計に」

「スキル!

 何を持ってるんだい!」

「私はなんと、『炎魔術の才』と『癒し魔術の才』があるのよ!

 しかも『詠唱加速』まで!」

「すごいじゃないか!

 将来賢者も夢じゃないよ! そのスキル構成なら」

「えっへん!」


 楽しそうに話す兄と異世界人の少女の話を聞きながら、確かに取り込むべき人材だと内心、親達の行動に感心するリリーアだった。


「どうかな? 成人してから数年は僕は冒険者をやるつもりだけど、一緒に行かない?」

「良いわね。

 目指すは未だ見ぬ秘宝よ!」

「いいね! それ!

 目指すは未だ見ぬ秘宝だ!」

「……ハア」


 大好きな『武き拳のローラッド』で主人公ローラッドの口癖を口にする真奈美に同調するダメな兄を嘆く妹だったが、気を取り直して、


「グレア、お茶を用意してください」


 と指示を出す。

 貴族令嬢と言う立場にいる分、跡取りの兄以上に強かな生き方を必要とすることを心得ているのだ。

 将来の義姉に好かれておいて損はないと打算する。

 水面下でそんな思惑の働いたお茶会だが、終始穏やかに行われたと追記する。

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