第10話 帰還

「この大馬鹿者が!」


 夜の侯爵家にロッド爺の大声が響き渡った。

 始まりは、初ダンジョンの労いを兼ねて、遅めの豪華な夕食を侯爵一家とウチの家族で囲んでいた時だった。

 ある程度腹が満たされた俺は、応急治療薬を侯爵に差し出した。

 それを受け取った侯爵は喜ぶこともなく、ひたすら困惑して、


「……のう、祐介殿。

 このような貴重なアイテムが浅い層で手に入ったのか?」


 と聞いてきたのだ。

 俺は事情を説明したが、その説明が進むにつれ目付きが鋭くなり、応急治療薬がフロアボスのドロップ品であると聞いた所でメイドの1人にロベルトを呼びに行かせ、そして冒頭の怒声に繋がった。


「お主は祐介殿を殺そうとでも思ったのか?!」

「いえ、そのようなつもりは……」

「では何故まともに準備もなく、いきなり5層まで降りた。

 ゴブリン相手に余裕があったから?

 そんな物は言い訳にもならんぞ!

 聞けば、祐介殿はフロアボスに挑むのを止めておくべきではと言ったらしいではないか」

「確かに……」

「お主は冒険者としても騎士としても失格じゃ!

 3日ほど謹慎しておれ!」

「ロッド翁、それぐらいに……」

「祐介殿は黙っていてくだされ!

 こ奴がしたことは仕える我が家に要らぬ嫌疑を掛ける行為。

 しかも護衛対象の祐介殿を当てにしての討伐など言語道断」

「……申し訳ありません」


 そこまで言われて俺も理解した。ここで罰を与えるのは、コイツのためでもあるんだと。

 若いコイツがダメにならないように、信賞必罰をはっきりしたのだから。


「祐介殿。3日ほどは休息を取られてはどうか?

 手の空いてる者に街を案内させますので……」

「それでは!」

「ロベルト!

 お主に発言を許してはいない。

 もう良い。下がれ!」

「すみませんでした。大人しく部屋で謹慎しております」


 そう言って出ていくロベルトの顔に悲壮感はない。

 それもそうか。ダンジョンメンバーから外さないと言う言外の承認を得たんだし……。


「すみませんでしたな。祐介殿。

 こちらはありがたく頂戴します。

 それで現状では我が家が祐介殿のパトロンのような立場にありますし、活動資金を用意しますので明日はそれを使って装備を整えてください」

「ありがたい話だけど、妻と娘が世話になっているのだし……」

「そちらは我が国の謝罪ですから遠慮なくお受取りください」

「そうですか。では」


 そう言うことで丸く収まった侯爵家での夕食だったが、ロベルトの今回の行動は数週に渡って尾を引くのだった。


 

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