第9話 フロアボス オーガ

 入った先に待ち受けていたのは4体のオーガ。

 直ぐに駆け寄って、弓を持つやや小柄な個体に斬りかかる。脇腹に入ったが、…浅い。

 けど!

 痛みに屈む。行ける!

 首に一撃を加えて離れる。


「さっさと動け!

 死ぬぞ!」

「ッ!

 すみません!」


 遠隔攻撃を潰して、オーガの左側に周り込んだ所で、ロベルト達を叱咤する。

 ……油断するからこういうことになるんだ。

 俺とロベルト、オーガが三角形の頂点の位置取りとなった。オーガの内の2体がこちらに、残る1体がロベルトに向かう。

 状況はベター。

 最高はロベルトに2体でこっちに1体だったが、3体がこっちに向かってくるよりマシ。

 身長3メートルくらいのゴリマッチョが人の腰ほどもありそうな棍棒を振り下ろしてくるのだからたまらない。

 受けたら剣を失って攻撃手段を無くす可能性が高い。

 身長差から横への凪ぎ払いはしないだろう。やるにしても、立ち止まって腰を落とす必要がある。

 危険なのは振り下ろした後の払い退ける仕草。

 それだけは慎重にかわさないと体勢を崩された所で、一撃を受ければ助からない。

 ……あ、コイツら連携する気ないわ。

 避けてるだけで……。

 右側のオーガの棍棒が左側のオーガの肩にヒット。

 …ここ!

 棍棒を当てた方のオーガの首を斬るけど!

 思った以上に切れ味が落ちてる!

 …ヤバい!

 剣は抜けたけど、この位置だと!

 もう1体のオーガの棍棒を剣で受け止めて、そこで限界を迎えた剣が折れる。

 ヤバいな。今日は軽く雰囲気を感じるつもりで予備の武器なんて持ってないぞ。

 あ、武器あるじゃないか。

 オーガの脇をすり抜けて、先ほど倒したオーガのいた辺りから棍棒を拾い上げる。

 ……良かった。

 この棍棒が魔物素材だとダンジョンに吸収されてたはずだし。

 内心は冷や汗ダラダラだが、ハッタリをかます気で笑う。


「さあ、来い」


 挑発して殴り掛かってきたオーガの棍棒を同じ棍棒で弾く。

 ……やはり、俺の筋力値はオーガより上だったな!

 驚いているオーガの脛を殴り、前に屈んで来たタイミングで顎を殴打。くらついてるオーガの頭に一撃を加えれば倒れ込む。

 後は両手持ちで全力振り下ろし!

 グチャッと言う嫌な感触を我慢して再度振り下ろして止めを差す。


「…ふう。

 後は」


 最後のオーガはロベルトの盾に阻まれ、後ろからミニアとベックに槍でチクチクやられている。

 時間が掛かりそうだが。


「手を出さないでください。

 コイツの権利まで取られたら、ここまで来た甲斐がありませんから!」

「そうだな。俺は自分の分の宝箱でも開けておこう」


 これは事前の取り決めで、普通のダンジョン攻略では倒した魔物のドロップ品は倒した者達で均等に分ける。

 けれど、4人が1体倒す間に俺が数体まとめて倒すので、そうなると4人は俺に寄生プレーしてるような状態になる。

 かと言って俺が1人で倒した魔物を俺が独占すれば、コイツらの取り分が確保出来ない。だから、コイツらが先に戦ってる場合は手を出さないと言う取り決めをしたのだ。

 例外はロベルト達が救助を求めた場合。

 ……なんか、俺が保護者になってないか?

 まあ、気を取り直して、ダンジョンの魔物は倒した時に体の一部を残して消滅する。

 それがドロップアイテムで冒険者達の収入源になるのだが、フロアボスは例外で、ドロップアイテムを残さない代わりに倒したボスの数だけ、宝箱が出現すると言うより一層ゲーム染みた仕様になってるらしい。

 嘘みたいだが、実際オーガの出現した辺りには3つの木箱があった。

 罠とかはないらしいので、サクサク開ける。

 『解析』も掛けて、その結果は、


 1つ目 グロットの剣

 駆け出し冒険者グロットが使っていた鉄の剣。

 武器スキル なし

 呪い なし。


 2つ目 パックの大斧

 剣士パックが使っていた鋼の大斧。

 武器スキル 剣の才

 呪い なし


 3つ目 応急治療薬

 生命力を即座に30回復する。


 色々とツッコミどころが多いな!

 まず、パックってやつはアホだろ。大斧って剣の才を持ってる奴が一番使っちゃダメな武器じゃねえ?

 だから、ダンジョンで死ぬ羽目になるんだろうけど!

 そんで即座に生命力を回復する薬ってマジでゲームかよ!


「…どうでした?」


 オーガをどうやら倒し終わったらしいロベルトが問い掛けてくる。

 その盾はボコボコで、見るも無惨。


「微妙な武器が2つ。治療薬が1つ」

「微妙ですか?」

「ああ、斧は何故か剣の才ってスキルが付いてる鋼製で、剣はただの鉄の剣」

「いえ、それなら良い金額で売れますよ!」

「才能スキルが付いた武器なら金貨10枚はします。

 しかし、どうせなら錬金術師に形状変化の魔術を掛けてもらって大剣にして使ってはどうでしょう?」

「……ああ、そう言うことも出来るのか。鉄の剣は?」

「ダンジョンで亡くなった者の遺品ですよね。

 普通の武器より頑丈になっているので、予備の武器にすることをおすすめします」

「売れるものは治療薬だけか。たいした金にはならないな」

「そうですね。低級治療薬ですと銀貨3枚くらいですから…」

「低級? 一応応急治療薬って名前みたいだぞ?」

「はい? 本当に応急なのですか?」

「大儲けですよ!

 応急治療薬は即座に効果を発揮するので誰もが欲しがります。

 過去にはオークションで、金貨30枚になったこともあるとか!」

「マジか!」

「ええ!

 そうですね…。侯爵閣下に献上してはいかがですか?」

「そうだな。これからも世話になるだろうし…、そう言えばお前達の倒したオーガの戦利品は?」

「そう言えば、直ぐに見ましょう!」


 隣の木箱の前で残りのメンバーが待っていた。ロベルトがトップなので、皆もソワソワしながら開けられなかった訳だ。

 ロベルトが開けた木箱の中には更に布の袋が入っていて、


「金貨!

 30枚はある!

 すごいぞ! 4人で割っても7枚以上だ」

「どれぐらいの価値だ?」


 皆がはしゃぐ中で相場の分からない俺は、隣にいたベックにこっそり聞いた。

 どのみち受け取る権利がないから興味もないし。


「そうですね。私の月の給金が金貨2枚くらいです。それで家族3人の生活が賄えますので…」

「すごいじゃないか! 良かったな!」


 そう言って見たベックの顔はあまり嬉しそうではなかった。

 疑問に思っていると彼は、


「すいません。ロベルト様。

 金貨をよく見せてもらえませんか?」


 と言って中を覗き込む。その様子に首を傾げるロベルトに、どうしたんだ? と聞いても分からないと言うジェスチャーが返ってきた。


「やっぱり。ユーリスの旦那。この金貨を鑑定してもらえませんか?」

「良いけど。まさか偽物か?」

「そこまで最悪の事態じゃありません。……良くもないですけど」


 落胆気味のベックに言われながら、鑑定し、その結果を伝えることにする。


「ジル金貨。ジルド王国の発行した金貨だな」

「ですよね。

 これは昔の金貨なのでこのままは使えないんですよ。

 こう言うのはギルドで買い取ってもらって、鋳潰して使うんですけど、その場合の相場は金の含有量から手間賃を引いた額になります。

 その中でもジル金貨は金の含有量が極端に少ないんです。

 1枚で銀貨10枚くらいの価値ですね」

「10分の1の価値ってことかい?」

「そうなります」


 その言葉に全員がガックリきている。

 その様は、


「ああ…、ゴブリンの魔石を均等割りしようか?」


 と、祐介が提案するほどの落ち込みようだった。

 と追記しておく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る