第15話 コルヌイエホテルのプリンス
★★★
その日、
ふだんは優等生バーテンダーの飯塚が、コルヌイエホテルのメインバーでオーダーミスをくりかえし、ついには上司である
そのまま、深夜のスタッフ用スモーキングエリアに連行される。
飯塚は深沢に狭い喫煙室に放り込まれかと思うと、ガツン!と深沢のウィングチップの靴が腰にめり込むのを感じた。
「俺のバーでぬるい仕事してんじゃねえぞ、シンジ!」
蹴り飛ばされた腰の痛さに、飯塚は涙ぐむ。それでも必死で
「すいませんボス、もう、目が覚めましたから」
と、言いわけをすると、深沢洋輔はまともな男なら視線だけで死んでしまうような凶悪な顔つきを、小さな明かりのもとでさらした。
やや甘い深沢洋輔の美貌が、羽虫をふみつぶすブルドーザーのように冷たく光る。
「目が覚めただあ?てめえ、今まで寝ていやがったのかよ」
飯塚が二発目の痛みにそなえて身体を丸めたとき、低く、おだやかなテノールの声が聞こえてきた。
「めずらしいな、飯塚が叱られているのか」
「……井上さん」
飯塚慎二は恐る恐る目を開けて、目の前に立つ優美な男を見上げた。
コルヌイエホテルのレセプションカウンターで働くアシスタントマネージャーで、コルヌイエきっての切れ者ホテルマンだ。
仕事ができるというだけでなく、百八十センチを超える長身に整った顔立ち。
さらにコルヌイエホテルのオーナーの息子という立場から、“コルヌイエのプリンス”と呼ばれている。
ついでに言えば、井上と深沢洋輔とは友人同士で、しかも深沢の妻は井上の異母妹である。
井上清春は深沢の親友であり家族であり、同時に暴走しがちな深沢洋輔を唯一とめられる男でもあるのだ。
井上は長い指でダークスーツから煙草を取り出し、金色に光るライターで火をつけた。
深沢洋輔はじろりと親友を眺めて
「余計なこと、言うんじゃねえぞキヨ」
井上は高級そうなダークスーツの肩をすくめただけで、簡単に答えた。
「何も言わないさ。そいつはメインバー内の話だろう? おれは自分のテリトリー外のことには、首を突っ込まないようにしているんだ」
「どうだかな。最近のお前は、妙に若い奴らに人気があるぜ」
深沢にそう言われ、井上は煙草をくわえたまま首を振った。
「おれはコルヌイエのどこででも“うるさいアシマネ”だ。それ以上でも以下でもない。
ところで、さっきメインバーをのぞいたら女優の
ちっ、と深沢は飯塚を蹴り飛ばすために上げたままだった脚を降ろした。
井上は、器用に煙草を左手の中指と薬指ではさみ、煙を吐きながら続ける。
「奈衣さまだけじゃない、映画監督の
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