第8話 金がない。 さらに困ったことに、仕事が、ない
今、深夜のファミレスで
こうやって座っていても背の高さを感じさせる長い手足や
カッコよくて、ちゃんとした仕事をしていて、ヘンタイ。
ヘンタイとは言え、社会的に見れば今の椿よりは数段上にいるはずだ。
なにしろ椿は、先々月に派遣切りにあって現在無職、姉の運営するSMバーのバイトで食いつないでいる境遇だ。
あまりにも、違いすぎる。
違っていていい、と椿は思った。ヘンタイの仲間に入りたくはない。
“女王様”なんて、もってのほかだ。
椿は、だまって目の前にあるサンドイッチを取って食べた。
こっちは男がおごってくれるというので、ありがたくオーダーしたものだ。
ちなみに、明日の夕方にSMバー“ダブルフェイス”で、バーテンダーのカグさんが作ってくれる“まかない”を食べるまで、椿のお腹に入る固形物はこれが最後だろう。
金がない。
さらに困ったことに、仕事が、ない。
椿には重度の男性恐怖症という欠点があり、そのおかげで、どんな職場でも働けるわけではない。
姉のSMバーを嫌っていながら、“ダブルフェイス”のような場所でなければ働けないという弱点があるのだ。
椿はため息をついた。
そのため息にかぶせるように、男が言った。
「新しい仕事は、ないんでしょう?」
「あなたには、関係、ないです」
「ちょっと
男は、最後の一言を低くささやくような声で言った。椿の手が、びくりとする。
そのまま硬い声で椿は答えた。
「できません。女王様が欲しければ、お店で、お金を払ってください」
「そう? 金さえ払えば、君がやってくれる?」
「むりです、あたしはただのバイトです。……女王様って、訓練がいるんですよ。普通の人がすぐにできるものじゃ、ないんです。ムチだって、ローソクだって。
必要なら、姉に予約を入れてあげます。それくらいなら、お役に立てます」
「――君じゃなきゃ、だめなんだ」
ぽそっと、男はきれいな鼻筋をこすって、椿を上目づかいに見た。
ハンサムがこんなことをするとそれだけでキレイなんだ、と椿はぼんやり思う。
その
「俺、EDでさ」
「はあ?」
椿は思わず、目の前の男のきれいな額にむかって、すっとんきょうな声を上げた。
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