恐怖を与えることで定評のある、その館。
雪菰 だいふく
迷子の迷子の─。
人も出入りしないようなこの屋敷に、子猫が入り込んでしまったそうだ。
か細く、不安げに、誰かに助けを求める様にないている。
私はいつも以上にその子猫に深い愛情を持ってしまった。
道に迷って入った子猫には手は出さない、という私の主義が崩れ始める音が聞こえた。
私が静かな廊下に足を一歩踏み入れる度に、床が軋む音が館内に響く。
子猫はその音にもビクッと肩を震わせ、次くるであろう音に備えきれずまた驚く様が目に
浮かぶようだ。
私はその光景、がおかしくておかしくて…私は声を潜めてククッ、と笑った。
私の笑い声が聞こえたのか、顔を真っ青にして足を縺れさせながらも逃げる子猫。
その様子が愛おしくて、もう自分の物にしてしまおうかとも考える。
あのくりっとした黒目が、私を捉えて泣き叫ぶ一歩寸前の、口を開いた状態で固まっている。
私はその子の喉が潰れないよう、叫ばれる前にそっと包み込んで行き場を無くさせる。
それでも何とかして逃げようと、じたばた動く姿がとても愛おしくて、つい笑ってしまう。
大丈夫、もう怖くないからねとなだめる母親の気持ちになって、その子猫を─
自分に…いや、正確に言えば“この館”に抵抗する暇もなしに取り込む。
可愛い子猫ちゃん…愛しい少女を我が腕に納めて満足した私は、館と一緒に夜を越した。
恐怖を与えることで定評のある、その館。 雪菰 だいふく @daifuku-12
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます