第13話
ふたりが錬金工房に戻ってくる頃にはすでに月が真上に位置している時間だった。大衆食堂でのどんちゃん騒ぎとは対照的に街はしんと静まり返っていた。
「こんな時間まで付き合ってもらってありがとうございます」
錬金工房の扉の前でリアナは丁寧に頭を下げる。
「いや、俺も街の人と顔を合わせることができてよかったよ」
「そう思ってもらえたのなら、行ってよかったのかな」
夜風が吹いてリアナの金髪を撫でていく。
「じゃあレオルスさん。今日はこの辺で」
眠たそうに目蓋を擦ったあと、リアナは軽く会釈をして錬金工房の扉を開け入っていく。
リアナが戻っていたあと、レオルスは錬金工房の全景が目に入る位置まで移動する。
しばらく、その全景を焼き付けるように静かに見つめる。
そして、彼は決意するように拳を固く握った。
魔法騎士団の宿舎に戻る道すがら、レオルスはどうすればこの状況をひっくり返せるかをずっと考えていた。
「錬金工房を潰させずに済む方法か……」
あと少しで宿舎に到着する距離まで来ても名案は思い浮かばない。そこそこに魔法騎士として実績があるならまだしも、一介のしかも新人魔法騎士であるレオルスが上層部に進言したところで聞く耳を持たないだろう。けんもほろろにあしらわれるのが関の山だ。グラエムのような人物ならなおさらだろう。
「八方塞がりか」
歯がゆかった。こんなにも傍にいるにもかかわらず、なにもしてやれない。こんな今の自分を父親が見ればなんと思うだろうか。母親はなんと叱るだろうか。己の正義とはなんだったのか。
気がつけば、魔法騎士団の宿舎に到着していた。
「なんとかして錬金術の有用性を示すことができれば……」
そう思考を巡らせながら宿舎の鉄製の門に手をかけたとき、レオルスの中でなにかが引っかかった。
「有用性を示す……?」
門から手を引いてレオルスは一考する。
グラエムが言っていたことの一言一句を正確に思い出す。
「錬金術がまだ有用な技術であると証明することができれば、あるいは……」
グラエムは錬金術を使い物にならないものと言っていた。錬金術を真っ向から否定しているが、それはきっと彼が錬金術の力を間近で見ていないからだ。その認識を改めさせることができれば、もしかしたらとレオルスは思ったのだ。
もちらん確証はない。魔法工業が今の時代を席巻する技術であることも理解している。だが、錬金術の可能性はレオルスが一番間近で見て知っているのだ。街の人もリアナの錬金術に助けられていると言っていたではないか。伊達に魔法工業以前に広まっていた技術ではない。共存の道だってきっとあるはずなのだ。
「よし」
己の正義の象徴である剣の柄に手をかけ、力強く握り締める。
月明かりの下、光明が見えた気がした。
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