第9話
「ここで竜眼草を混ぜて……」
採取に行ってから数日後。件の依頼品の調合が行われていた。その過程はいよいよ最終段階である。リアナは採取に行っているときとは打って変わって、黙々と錬金釜の中を棒でかき混ぜている。
戦闘では役に立てても錬金術については門外漢のレオルスは手伝えることもなく、窓際の椅子で調合を行うリアナをただずっと見つめていた。
「……できた!」
リアナは棒を回す手を止める。その声にレオルスは立ち上がってリアナに駆け寄る。苦労して手に入れた花を材料に使った一品だ。どのような出来なのか、気にならずにはいられない。
「完成したのか?」
「はい。あとは小瓶に詰めて届ければ依頼は完了ですね」
そう言いながら棚から空の小瓶を取り出して、リアナは調合したものを入れ始める。
「じゃあ、依頼の品を届けに行ってきますね。もう日も暮れてきてますし、レオルスさんは宿に戻っててもいいですよ」
リアナは手早く身支度を調えていく。数日経ったとはいえ、戦いの疲れを一切感じさせないてきぱきとした動きだ。錬金術のことになると、疲れも忘れてしまうのだろう。
魔法騎士団からは定期的な報告をするようにと言われている。今日はこれで終わりとあれば、このまま帰って本日分の記録をつけてもいいのだが……そこでレオルスはリアナに待ったをかける。
「依頼主に納品しに行くのなら、俺も同行していいか?」
「別に構わないですけど……本当に届けに行くだけですよ?」
「構わない。それに届けに行くついでに依頼人とも顔を合わせておきたい」
この数日の間、錬金工房に行く傍らでレオルスは地理の把握に精を出していた。だが、地理の把握はできても、見ず知らずの人がなんのきっかけもなしに住民に話しかけるのはさすが憚られた。リアナに同行すれば、それも自然と行えるだろう。
「そういえば紹介していませんでしたね」
リアナは得心がいったようにうなずく。今から届けに行く先はきっと今でも付き合いのあるお得意様だろう。だとすれば、顔を合わせておくのは悪いことではない。住民とも顔馴染みになっておきたいところである。
「そういうことなら、ついでに案内しましょうか?」
「頼めるか?」
「先日助けてもらいましたし、それくらいならお安い御用です」
ちょうどリアナの身支度が終わる。依頼品の納品しに行くだけなので荷物も多くはない。調合に時間がかかって日も暮れてきているが、土地勘のあるリアナならば完全に暗くなる前には戻ってこられるだろう。
「じゃあ行きましょうか」
二つ返事でレオルスは立ち上がる。戦闘が絡まないのであれば、これといって必要なものもない。リアナに続いてレオルスは錬金工房を出た。
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