第8話
耳朶をくすぐるような水音が聞こえてきた。渓流が近づいてきた証拠だ。沢もきっともうすぐ見えてくるだろう。隣を歩くリアナの歩く速さもわずかに速くなっているように思える。
「川の流れる音が聞こえてきたな」
「もうすぐ着くと思います」
やはり錬金術師としての血が騒ぐのか、その足取りは非常に軽やかだ。
「そういえば、調合に入れる材料には条件とかはあるのか? 例えば、そこの雑草とか」
錬金術師としての知識がまだ乏しいレオルスはふと疑問に思ったことを口にする。そこら辺に生えている雑草でも果たして調合の材料になるのだろうか。
「条件というか、基本的には最終的に出来上がる道具に合わせて材料を調整するので、自然と使用する材料は決まってくるんですよね。だから、条件があるというよりは調合する物次第って感じですね。もちろん、雑草で代替できるなら使えますけど」
流暢に、そして得意げにリアナは説明する。どんなものでも調合に使える材料になり得るということか。
「あ! 見えてきましたよ」
そうこうしているうちに沢が見えてきた。今まで鬱蒼としていたのが一転、天を拝めるほどの開けた空から光が差し込んでいる。この魔物が巣くう森林のオアシスとでも言うべきか。沢を流れる水の音が心地よい。
「ここに目的の薬草があるのか」
「この時期ならあると思うんですけど……よかった、あった。あの青みがかった色の花が見えますか?」
安心した様子でリアナは指先をその花に向ける。沢と地面の境目に青みがかった花が生えていた。しかも、一本や二本というわけではなくかなりの数があり、今が時期としてちょうどいい頃合いなのだろう。
沢の中に点在する石を足場代わりにリアナが沢を渡っていく。どことなく危なっかしいのは変わりなく、石が濡れていることもあり、完全に渡りきるまで内心冷や冷やしていたのは内緒だ。レオルスもその後ろをついていく。
「結構たくさんありますね」
嬉々として言うリアナの目は選り取り見取りと言わんばかりに輝いている。
「今年のは状態が良いですね」
「そうなのか?」
「そうなんですよ! 特にこれなんか」
そう言ってリアナは群生する花のうちの一本を手に取って、まるで骨董品に値段をつける古物商のように見定めている。
それにしてもテンションが高い。レオルスにはどれも同じように見えるが、きっと錬金術師にしか分からない感覚なのだろう。じっくりと薬のもととなる花を見つめるその横顔はあどけなさを残しながらも、間違いなく職人そのものだ。錬金術師も他の専門職と同じように職人なのだと、改めて認識する。
「なんて名前の花なんだ?」
「竜眼っていう花です。自然の万能薬って言われるくらい効能が良くて、これを塗り薬の調合に混ぜると腰痛によく効くんです」
「ということは、これで目的は果たせそうだな」
「レオルスさんのおかげですね。一時はどうなるかと思いましたけど、これだけあれば塗り薬だけじゃなくて、花のストックもできそうです」
塗り薬の調合に必要な分と今後の蓄えとしての分を採取し荷物入れにしまう。そのまま視線を花からレオルスに向けて、にこっと微笑んだ。
「と、当然のことをしたまでだ。用心棒を買って出たわけだしな」
微笑みかけてくるリアナに気恥ずかしくなって、レオルスは視線を少し逸らす。
「じゃあ、そろそろ撤収しましょうか。十分な量は採取できましたし」
リアナの提案にレオルスはうなずき返して、ふたりは帰路についた。
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